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今号の気になる図書館員さん

佛教大学図書館
専門図書館員
飯野勝則さん

『大学ランキング2019年版』(朝日新聞出版)の大学図書館ランキングで、はじめて1位を獲得された奈良大学図書館に注目しています。

世界最古の印刷物とされる『百万塔陀羅尼経(だらにきょう)』や、『国富論』『種の起源』の初版本などの貴重書のコレクション、日本考古学協会から寄贈された6万冊を超える専門書の所蔵などが大学の教育方針にどのように関わるのか、ぜひ参考までにお話をうかがえればと思っています。

また近隣の高校生向けに「高校生のための自習開放」という試みなどもされていて、地域に根差した活動も気になります。

奈良大学図書館(2)奈良県奈良市

『大学ランキング2019年版』の「大学図書館ランキング部門」ではじめて1位に輝いた奈良大学図書館。注目の試み「高校生のための自習開放」、そして図書館の未来像について、事務室の髙垣茂雅課長、そして司書の森垣優輝さんにお話をうかがいました。


奈良大学の学長でもあった故水野正好名誉教授の寄贈書などで構成された水野文庫のエリア内にある、市町村史などの自治体史の棚。それぞれ力のこもった装丁で、棚に並べるとこんなにもカラフル。

地域の高校生たちへ図書館を開放

──高校生のための自習開放についてお聞かせください。

髙垣:もともとは一般の方にも図書館を利用してもらおうと、地域住民のみなさんに開放し始めたんですが、利用されるのは年齢層の高い方が多い。なので若い世代にも来てもらおうと、この試みが始まりました。すでに公共図書館は使っている高校生も多いと思うんですが、大学図書館を利用したことがない人が大半だと思うので、雰囲気だけでも体験してもらったらどうかと、それがいちばん大きな目的です。この自習開放を通じて大学にも興味を持ってもらい、入学へとつながったらうれしいですね。

森垣:昨年から大学が春休み(2、3月)、夏休み(8月)の期間中に試験的にやってみました。そして今年の春休みから本腰を入れて始めました。この夏も9月20日(木)まで実施しています。

──どういったところで広報されているのですか?

森垣:先生方が高校訪問されるときに、自習開放についてのポスターを持参してもらっています。また、大学や図書館のWEBページにも掲載しています。

高垣:『大学ランキング2019年版』を見て、(奈良大学)附属高校の先生から夏休みの図書館利用について問い合わせがさっそく来たんです。やはりランキング1位の影響力はすごいです。ちなみに附属高校の生徒は自習開放のときだけでなく、ふだんの日も利用できます。

──反響はいかがでしょう?

森垣:この春休みは登録5名で利用が18回、昨年の8月は登録11名で利用は25回でした。まだ2年目なので、大反響というわけでもないのですが、一期間に4、5回、通ってくれた高校生もいましたね。

髙垣:当館は所蔵の専門書に特長があるので、歴史好きの高校生はかなり興味を持ってくれると思います。公共図書館とはそこが違うところです。こういった図書館の潜在能力を今後うまく生かしていけば、この取り組みもどんどん広がってくると思います。

──図書館内にグループ学習エリアもつくられたと聞きました。

森垣:セミナールームという独立した部屋は以前からあったのですが、図書館内で気軽に使えるスペースがあったほうがいいと、昨年から水野文庫内の閲覧席で始めました。ディスカッションをしながらグループで学習したり、プレゼンテーションの練習もできます。ビブリオバトル(注1)もこのスペースで開催しました。

──ラーニング・コモンズ(注2)をつくるという予定はあるのですか?

髙垣:ラーニング・コモンズそのものではないのですが、じつは来年の創立50周年の記念事業として新棟を建てる予定をしていて、そこにアクティブラーニングに適した施設を整備する計画があります。オープンプレゼンスペース、グループワークスペース、セミナールームなど、学生が主体的に学ぶことができるスペースです。

──奈良大学には博物館もありますよね。図書館と博物館、ふだんから連携されているのでしょうか?

髙垣:いままでは博物館のコレクションを図書館で展示したことくらいしかなかったんです。それぞれ所蔵品を公開して、研究支援するという点は似ているんですよね。たとえば、当館では江戸時代、木版印刷に使用された板木を所蔵しているんですが、博物館も同様に、板木を所蔵している。なので今後は垣根を越えて積極的に連携していければ、と思っています。


図書館カウンター脇にある展示ホール。『百万塔陀羅尼経』を常設展示。現在は、9月27日(木)まで企画展「紙を愛した男・関義城(せき・よしくに)」が開催中。

人を育てるための後方支援をしていきたい

──図書館の未来像について何か構想はお持ちですか?

髙垣:人材を育てることが大学の使命です。700人を超える卒業生が発掘調査などの現場で働いているということが、日本考古学協会さんからの信頼につながり、今回の所蔵資料の一括寄贈につながりました。当館の役割としては人材育成の後方支援として、これからも資料の収集に実直に取り組んでいく。これまでやってきたことを続けていくことがいちばん大切だと思っています。

また将来的には、図書の役割を生かした図書館ならではのラーニング・コモンズを持ちたいという思いがあります。いまでも学生たちはゼミなどで図書館のグループ学習エリアなどを利用してくれていますが、いろんな学科の学生たちが一緒になって横断して学べる空間を図書館で実現できたら、と思っています。だからまず、我々がその仕掛けをつくりたい。場所だけを提供するのではなく、そこにテーマに沿った図書を揃えられたらと思っています。

──テーマというのは具体的にはどういったものなんでしょうか?

髙垣:まず大きなテーマとして、大学のフィールドである「奈良」のコレクションがすでにあります。そしてそこにぜひプラスしたいのは「観光」「防災」というテーマです。

「観光」であれば、たとえば地理学科の観光地理学や総合社会学科では観光社会学につながります。また奈良県は歴史が一つの観光資源となっているので、史学科の学生にも学科横断的に学べるテーマだと思います。「防災」に関しては、史学科では過去の文献に出てくる災害についての研究に、地理学科であれば自然地理学や地理情報システム(GIS)、総合社会学科であれば復興社会学、心理学科では災害時の風評被害や被災者の心のケアにもそれぞれつながります。また文化財学科では文化財防災。たとえば国立博物館の職員の採用には防災枠というのがあって、文化財防災を学んできた学生を採用するようになっています。すでに文化財学科ではそういった人材を育成しようと動き始めています。

──今年だけでもすでに大阪北部地震、西日本豪雨といった災害が発生しています。また2020年の東京オリンピックに向け、日本は観光立国へと邁進しています。どちらもこれからの人材に求められるキーワードですね。

髙垣:「生きた学問」を重視する奈良大学が育成するのは、指導者ではなく、現場で活躍できる人。そういった人材をつくるには、自分が学んでいる分野だけでなく、周辺のこともわかっている必要がある。たとえば文化財学科の学生は、たとえ考古学専攻といえども、美術史、保存科学など周辺の分野も学ぶカリキュラムになっています。さらに他学科の科目も履修することが可能です。図書館としては、学科を超えてそれぞれの分野も学べるよう、その後方支援ができるような存在でありたいと思っています。


(注1)集まった紹介者が各自お勧めの本について5分間の持ち時間の中でその魅力を語り、各紹介者の書評を聞いて、どの本が一番読みたくなったかを、聴衆らが投票で決めるゲーム形式の書評会。立命館大学情報理工学部准教授の谷口忠大が京都大学情報学研究科の研究員だった2007年当時に、所属するゼミの輪読会をより活発にする方法として考案した。ゼミの様子がインターネットの動画サイト上で公開されて話題を呼び、他大学や大手書店などでもビブリオバトルを採用したイベントが行われるようになってきている。(「情報・知識 imidas 2018」「知的書評合戦ビブリオバトル」の項)

(注2)学生の学習支援を意図して大学図書館に設けられた場所や施設.具体的には,情報通信環境が整い,自習やグループ学習用の家具や設備が用意され,相談係がいる開放的な学習空間をいう.飲食コーナが付設されていたり,図書館外に設置される例もある.1990年代に米国で増加し,日本では2000年代後半に導入が始まった.運営については,図書館資料やデータベースの利用と図書館員の常駐は必須とする考え方から,学生が快適に学習する環境があればよいとする考え方まで多様である.「インフォメーションコモンズ」「ラーニングセンター」など名称も一定ではない.図書館という物理的な空間が持つ力を評価する「場としての図書館」の議論が高まる中で,大学図書館を中心にラーニング・コモンズにかかわる多様な試みが見られる.(「図書館情報学用語辞典 第4版」より)

(おわり)


奈良関係資料の棚。資料は約2000点に及ぶ。

奈良大学図書館

地上3階、地下2階、総床面積5,444㎡の規模を持つ図書館。蔵書数は約55万冊。貴重書の収集にも力を入れており、世界最古の印刷物とも言われている『百万塔陀羅尼経』やアダム・スミスの『国富論』初版本、ダーウィンの『種の起源』初版本などを収蔵。また地元奈良関連の資料や都道府県史も充実している。2014(平成26)年に日本考古学協会より、6万冊を超える文化財研究の専門書を、一括寄贈先として選ばれて受け入れたため15万冊を超える文化財専門書が揃った。
そして創刊25周年を迎えたAERAムック『大学ランキング2019年版』(朝日新聞出版)の「大学図書館ランキング」では、国際基督教大学、東京大学をおさえて1位を獲得した。

奈良大学

1925(大正14)年に設立された南都正強中学に端を発する奈良大学。創立者薮内敬治郎(やぶうち・けいじろう)氏の「国のまほろば奈良は、日本の奈良であり、世界の奈良である。この地に大学をたて、世界的視野を持つ人間を育成する」という願いに基づき、1969(昭和44)年文学部国文学科・史学科・地理学科の3学科を擁する大学として開学。1979(昭和59)年に文化財学科が増設。そして1988(昭和63)年に社会学部を増設し、現在のキャンパスに移転。2005(平成17)年、通信教育課程の文化財歴史学科が開設された。日本ではじめて本格的な都が置かれた地、奈良という歴史的風土を背景に、本物を“見る、触れる、聞く、感じる”「生きた学問」に取り組んでいる。

住所 〒631-8502 奈良市山陵町1500
TEL 0742-44-1251
HP http://library.nara-u.ac.jp/
E-mail library@aogaki.nara-u.ac.jp
開館時間 月~金 9:00~19:00(短縮開館時 9:00~16:30)、土曜日 9:00~17:00(短縮開館時 9:00~12:00)
利用できるひと 学生、教職員、卒業生、近隣居住者、「高校生のための自習開放」など一般公開利用に登録した人 ※2018年夏の「高校生のための自習開放」についてはこちらを参照してください→http://library.nara-u.ac.jp/libn/libn2018-07-06.html
蔵書数 約55万冊
閲覧席数 約388席
延床面積 5,444㎡
開館年月 1969年4月


学生が選書した本を展示。このコーナーを設置することで、ここから本を借りて行く学生が増えたそうだ。


パソコンコーナー。ジャパンナレッジはここで利用できる。


英語多読本コーナー。約4600冊を所蔵。昨年このコーナーをパソコンコーナー脇の目立つところに移動したら、貸出が15%アップした。


北館1階には歴史書と社会科学の棚が設置されている。歴史書の棚の多さに圧倒される。


歴史書内にある市町村史の棚。20万冊所蔵。市町村史はここだけでは収まらず、水野文庫のエリアにも置かれている。


上のほうの棚には地震対策にテープが貼ってある。先日の大阪北部地震では、奈良は震度5弱。この工夫のおかげで10冊くらいしか本は落下しなかったそうだ。


日本考古学協会寄贈図書収蔵室。6万冊を超える資料が収蔵されている。


日本考古学協会寄贈図書収蔵室。都道府県別に棚が設けられている。


日本考古学協会寄贈図書収蔵室内の調査報告書。館内にはこのほかに大学で収集した調査報告書のエリアと水野文庫の計3か所で開架所蔵されている。


保存庫。ここに貴重書が保存されている。


大学で収集した調査報告書の棚。関東に拠点を置く日本考古学協会の調査報告書群と奈良大学の調査報告書群は望ましい補完関係にある。


重厚感あふれる平城宮の調査報告書。


奈良関連資料。奈良大学がモデルとなった『メッシュ!!』連載のマンガ誌『Kiss』がズラリ。


中国関連の図書も多数収蔵。写真は清の乾隆帝(けんりゅうてい)欽定の一大叢書『四庫全書』(復刻版)。2015年度の特別集書として1500冊購入された。


同じく中国関連資料の棚。中国図書の収蔵数は約4万冊。多くが以前図書館長をつとめた森田憲司名誉教授の選書による。


北館3階にある水野文庫。ここにも卒業生から贈られた調査報告書が並べられている。


北館3階の閲覧室。晴れていると窓から若草山が見える。椅子は若草山にちなんだ萌黄色。

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