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今号の気になる図書館員さん

愛知県内公共図書館
司書
小曽川真貴さん

神奈川県立川崎図書館は今年5月に移転&リニューアルしました。

もともと工業都市の川崎にあることから、技術や産業に強いことで有名な図書館でしたが、なんといっても特筆すべきは「社史」のコレクション! 所属されている司書の高田高史さんの著書『社史の図書館と司書の物語―神奈川県立川崎図書館社史室の5年史』(柏書房)などにもその詳細が書かれています。

そんな神奈川県立川崎図書館がリニューアル……どのような姿になったのか、とってもとっても気になっています。

神奈川県立川崎図書館(1)神奈川県川崎市

今年で60周年を迎えた神奈川県立川崎図書館は、5月にかながわサイエンスパーク(KSP)に移転。それを機に、「ものづくり」により特化した図書館として生まれ変わりました。成り立ちから移転、そしてリニューアルの特長について、企画情報課の菅井紀子さんにお話をうかがいました。

開館60年での移転リニューアル

──私は超の付くほどの文系人間なんですが、先ほど図書館を一巡させていただいて、心ときめきました。ほんとうにいろんな本があるんだなって。一日ここにいると、素敵なアイデアが生まれてきそうな気がします。

こんな本が出てるんだ、こんな本を書いている人がいるんだって発見できる図書館です。ふつうは図書館の一角にひっそりあるような本が、書架にズラリと並んでいますからね。NDC分類でいうと400~500番台が中心で、特に500番台が多い構成になっています。

──明るさもちょうどいい感じで、窓も大きくて開放的。じつに居心地のいい図書館ですね。開館して60年目の年に移転されて、菅井さんはじめ図書館スタッフさんも気分一新という感じでしょうか?

そうですね。キャッチコピーも「科学と産業の情報ライブラリー」から「ものづくり情報ライブラリー」に変わりました。場所も図書館の建物の形態も変わりましたし、ほんとうに気分一新という感じです。

──では、まず図書館の成り立ちからお聞かせください。

昭和33(1958)年に川崎市川崎区富士見に開館しました。その4年前、横浜に県立図書館(西区紅葉ヶ丘)がすでに開館していましたので、神奈川県立としては2番目の図書館です。京浜工業地帯の近くに立地していましたので、工業や産業関連の図書を中心に資料収集していました。

一方で、そのころ近辺には地域の図書館がまだ整備されていなかったので、一般図書を提供する公共図書館の役割も果たしていました。平成7(1995)年に近くに川崎市立の図書館が開館したこともあり、平成10(1998)年にキャッチコピーを「科学と産業の情報ライブラリー」とし、より専門性の高い図書館にリニューアルしました。

──それから20年後の平成30年に移転リニューアルされたんですね。

開館から60年近く、ずっと同じ建物を使用していたので、老朽化が進んでいました。雨漏りしたり、地上4階、地下1階も階数があるにもかかわらずエレベーターがついていなかったりで、利用者にはご不便をおかけしていましたが、同じ場所での再建が難しかったんです。移転先については、市内で産業情報機能を存続させたいという川崎市の意向もあり、かながわサイエンスパーク(以下、KSP)(注1)なら当館の資料群の強みも生かせるということで、こちらに移転が決まりました。移転に際してキャッチコピーも「ものづくり情報ライブラリー」とし、より「ものづくり」に特化した図書館になりました。


エントランスに飾られている、開館当初の写真と以前の図書館の模型。以前の図書館は工業地帯に立地し、3階の閲覧室壁面には窓がない構造になっていた。

──利用者の反応はいかがですか?

KSPの入居企業の方や近隣住民の方がいらしてくれるので、新たに利用していただく人が増えました。小学生の友達同士とか、子どもたちも利用してくれています。移転前の図書館の利用者で引き続きこちらまで来てくれる方も大勢いらっしゃいます。明るくなったね、きれいになったね、って言っていただけるのがうれしいですね。

──移転に向けて完全に休館されたのが昨年の12月。そして今年5月15日にはKSPでオープン。限られた時間の中での移転作業は、相当ハードだったのでは?

12月までは開館しながらの移転準備でしたので、作業に専念するのはなかなか難しかったですね。でも3月末までにすべての引っ越しを終えるというのは決まってましたから、時間との闘いがありました。4月には人事異動もありましたし……。

──うわあ、それはたいへん!

以前は司書がいる課は3つに分かれていたんですが、4月の組織改正で2つになりました。2つの課で分けていたサービス関連の業務が1つになったんです。新しい場所で、新しい体制で仕事をしてみて初めてわかってくることもあるので、日々勉強、そして改善しながら取り組んでいますね。

──移転作業で印象に残ったことは?

新しい図書館にはどんな資料をどこに置いて、どのように配置しようかとか、家具什器類はどういうものにしようかとか。棚に置いてある本や雑誌の長さを測って、どこにどれだけ置けるんだろうかとか、メジャー片手によく考えていましたね。前の図書館から引っ越すとき、ぎっしり詰まっていた書庫がすっかり空になったときは、壮観でした。

──以前は地上4階、地下1階の建物でしたが、今回はワンフロア。移転の際は蔵書もかなり見直されたのでしょうか?

そうですね。前の図書館から蔵書をすべて持ってくるのは難しくて、新たに相模原市内に確保した外部書庫で保管しているものもあります。外部書庫にあるものは、原則、当日の午前中に申し込んでいただければ夕方には提供できるようにしています(午後の申し込みは翌開館日の夕方提供)。雑誌や社史、特許・規格関連の図書・資料はすべてこちら(KSP)に持ってきています。

──その選定作業もたいへんだったのでは?

事前にKSPで管理できる冊数もある程度わかっていましたので、前の図書館で主に閉架書庫に保管していたものや、また出版年が古めのものなどを中心に外部書庫に置くことを考え、KSPに持っていくものを選り分けました。

公共図書館では初の電子ジャーナル導入

──電子ジャーナルも利用できるようになったんですね。

公共図書館としてははじめての電子ジャーナルを導入しました。IEEE(アイ・トリプル・イー)Xplore(限定メニュー版)(注2)、SCOPUS(スコーパス)(注3)です。ものづくり技術に関する情報においては、紙媒体から電子媒体への移行の動きが他の分野より早まっています。利用者アンケートなども参考にして検討した結果、この2つを導入することに決めました。

──電子ジャーナル・データベース席で利用できるんですね。

カウンターでお申し込みいただければ、どなたでもご利用いただけます。

──利用者の反応は?

電子ジャーナルを使い慣れている方は、継続的に利用していただいているようです。初めて利用された方からは、「電子ジャーナルのタイトル数の多さに驚きました」、「IEEEで論文検索ができてとても助かります」などの感想をいただいています。
データをダウンロードして持ち帰ることはできませんが、1枚10円でプリントアウトはできます。


(注1)1989年に設立された、神奈川県川崎市にある日本初の都市型サイエンスパーク。敷地面積約55,000㎡、働く人数は約3,400名。大企業や外資系企業の研究開発部門などが入居。また研究会、セミナー、企業交流会も開催され、最新のビジネステクノロジー、学術情報の提供等も行なわれている。

(注2)電気・電子工学やコンピュータサイエンスを主とした、アメリカに本部を持つエンジニアや科学者等による国際的な学術団体、米国電気電子学会の略称。ここではIEEEが刊行した2010年以降の雑誌・会議録が閲覧できる。

(注3)エルゼビア社が提供する、世界最大級の抄録・引用文献データベース。科学・技術・医学・社会科学・人文科学分野の学術情報を網羅している。

(つづく)


電子ジャーナル・データベース席は15席。プリントアウトが1枚10円で利用できるのもうれしい。

神奈川県立川崎図書館

昭和33(1958)年に神奈川県川崎市でオープンした県立図書館。国内有数の「産業系図書館」として知られていたが、今年5月15日、 “ものづくり技術を支える”機能に特化した図書館として川崎市高津区のかながわサイエンスパーク内に移転リニューアル。
充実した科学技術資料と電子ジャーナルが利用できる「Research(調査)」、専門的なレファレンスサービスが受けられる「Study(考究)」、専門家による発明・知的財産などの個別相談が受けられる「Liaison(議論)」、多彩なイベントなどで異分野・異業種の人たちと交流できる「Conference(交流)」、ものづくりに役立つ入門書などをゆったりと眺めることで新たな発想を生み出せる「Inspiration(発想)」の5つのコンセプトをうたっている。

住所 〒213-0012 神奈川県川崎市高津区坂戸3-2-1 KSP西棟2F
TEL 044-299-7825
HP http://www.klnet.pref.kanagawa.jp/kawasaki/
開館時間 月~金 9:30~19:30、土・祝・休日 9:30~17:30
※休館日は日曜日(祝日も含む)、毎月第2木曜日(館内整理日)、年末・年始、資料総点検期間
利用できるひと 誰でも利用可。ただし図書館カード発行については県内在住、在勤、在学のひとに限る。
蔵書数 図書 約265,000冊 雑誌 8,663タイトル
閲覧席数 140席
延床面積 約2,500㎡
開館年月 1958年12月


エントランスには以前の図書館の看板も飾られている。


エントランスにある展示スペース「ものづくりギャラリー」。取材時は2回目の企画展示「社史にみる明治150年」が開催されていた。


ゆったりとした総合カウンター。


ソファ席。前に大きな窓があり、開放感あふれる空間で、くつろいで本を読むことができる。


新聞コーナー。日本経済新聞、神奈川新聞のほか、化学工業日報、日刊自動車新聞など一般の図書館では見られないラインアップ。


新着図書コーナー。『橋梁デザインの実際』『ナノスケール・トランジスタの物理』など、普段は出会えない図書が充実している。


ものづくり入門コーナーには講談社ブルーバックスなどが集められている。


ものづくり入門コーナーには『鉄腕アトム』などのマンガもある。『成形女子こはく』はプラスチック業界を描いた作品。


ものづくり入門コーナー。子どもたちが手に取りやすい自然科学の絵本や図鑑がいっぱい。


NDC500番台の本が勢ぞろいしているのは圧巻。正面は538航空宇宙工学~550造船の書架。


コンピュータ関連の棚には007情報科学と547通信工学が同居。一度にチェックできるのもうれしい。


書架には図書館の歴史をたどる展示コーナーも。写真は昭和35年の「奉仕日誌」。登録者数、返却冊数、その日の出来事などが書かれている。


展示コーナー。昭和、平成の県立川崎図書館の歴史を写真で振り返り、今回の移転作業についても写真でレポート。

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