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今号の気になる図書館員さん

熊本学園大学
司書課程担当
山田美幸さん

地方大学で、図書館司書の養成に関わっています。

最近気になっている図書館は2017年4月にオープンした近畿大学「アカデミックシアター」です。

図書館全体の監修を松岡正剛氏が手がけたと聞き、気になっています。セイゴウ先生が「今までにない大学の図書館スペースをつくりたい」と意気込んでつくられた空間、そして独自分類「近大INDEX」はどのようにして設定されたのでしょうか。

また、マンガを興味関心の起点に据えた「ドンデン読み」。マンガだけに興味関心を留めさせない工夫を図書館はどのように取り組んでいらっしゃるのか。

これまでの大学図書館像をドンデン返ししそうな、この図書館をぜひ紹介してください。

近畿大学 アカデミックシアター(1)大阪府東大阪市

2017年4月、東大阪市の近畿大学にオープンした、アカデミックシアター。1~5号館からなる全面ガラス張りの複合施設は、いままでにない大学図書館の新しいカタチとして、大学だけでなく、企業などからもそのコンセプトに熱視線が注がれているんだとか。どうしてこんなカタチになったのか? また独自分類法「近大INDEX」とはどういったものか? アカデミックシアター事務室室長の岡友美子さんと中央図書館の玉川恵理さんにお話をうかがう1回目。

まさに超近大! ダイナミックな“知の劇場”

──取材の前に、アカデミックシアターのホームページ(注1)を拝見したんですけど、AI(人工知能)による適合本診断コンテンツ、とても面白い企画ですね。SNSと連動させ心理学のビッグファイブ理論を用いて、自分とマッチした本を提案してくれるという。OPAC(蔵書検索)へのリンクもあって、さすがだな、と感心しました。

岡:サイトを作成するときに、普通のホームページは必要ないな、という気持ちがあって、なにか特長のあるものを、と思っていました。せっかく本があるんだから、AIを使って、図書に興味を持ってもらえるようなものができないかと。たまたまホームページの作成を依頼した制作会社さんのほうで、AIにくわしい方がいらしたので、このような診断コンテンツを取り込みました。

玉川:こんな本が適合していますと診断されたけど、わりとあたっているかも、といったようなコメントをツイートしていただいたりするなど、おかげさまで近大生だけではなく、一般の方からもたくさん反響をいただいております。

──では、アカデミックシアターについておうかがいします。まずはコンセプトを教えてください。

岡:文理の垣根を越えて、社会の諸問題を解決に導くための学術拠点、そして従来の大学図書館にはない、まったく新しい考えをもった図書館、というコンセプトをもとに近畿大学の新たなシンボルとして、アカデミックシアターがつくられました。2014年に始まった近畿大学東大阪キャンパス整備計画「超近大プロジェクト」の一環です。

──それぞれの特長について教えてください。

岡:1号館はインターナショナルフィールド。留学、国際交流、外国語教育に一体的に取り組むインターナショナルセンターを設置しています。ラーニングコモンズ、事務棟もあります。2号館はオープンキャリアフィールド。キャリアセンターや校友会などが一つのフロアに集約されているほか、約350人収容可能で、学生、企業、そして地域住民が利用できる実学ホールがあります。3号館は学生の自発的な学習を支援するナレッジフィールド。1、2階が24時間いつでも使える自習室、3~5階は教室があります。4号館は、国内の大学では初出店のCNN Cafeなどがあるアメニティフィールド。そして4つの館の真ん中に広がるのが、図書棟である5号館、ビブリオシアターです。


エントランスホールにあるアカデミックシアターの模型。四隅にある1~4号館。その中に広がる複数の屋根が5号館の図書棟、ビブリオシアターだ。

──1~4号館を図書棟がつなぐという発想はどうして生まれたのでしょうか?

玉川:つなぐというよりは、人がいっぱい集まってこられるようなスペースを中央に配置しているというイメージです。

岡:もともと東大阪キャンパスには学生の居場所があまりなかったんです。食堂だとか空いている教室だとか、そういったスペースしかなかった。大学で、みんなが集まってこれるスペースといえば、それは図書館であり、グループ学習ができる場所なんじゃないか、との思いから図書を中心とした構想が生まれました。

──アカデミックシアターの横には中央図書館がありますよね。両者の違いとは?

岡:中央図書館はサイレントな学術研究拠点、アカデミックシアターは本との出会いを楽しむアクティブ空間、と位置付けています。

──先ほど館内をめぐらせていただきました。これは一人だったら迷いますね、と言ったら、岡さんは「それが狙いです」と、おっしゃってましたね。

岡:事務棟に行こうかなと思って、中を抜けようと、ビブリオシアターに入ると、面白そうな本がある。いまは時間がないけど、帰りに読もうかな、と。そういった「発見」ができるつくりになっているんです。

玉川:図書館ではOPACなどで本を検索して分類記号がわかり、その棚に行き目的の本を見つけたらそれで終了ってところがどうしてもありますよね。でも、ここはさきほど見ていただいたように日本十進分類法(NDC)順に並んでいないので、なかなかお目当ての本が探し出せない。棚自体もそうなんですが、この棚に行こうと思ったけど違う棚に来てしまった、でもここにもこんな面白いものがある、といった本との偶然の出会いが楽しめる。途中で学生ボランティアが描いた黒板アートを目にするだけでも、本に親しんでもらえる環境にはなっているかなと思います。

──利用者数はいかがでしょう?

玉川:8か月で、100万人を超えました。

──100万人! すごいですね! 確かに先ほど見させていただいて、ビブリオシアターの閲覧席はほぼ埋まってましたし、自習室、ラーニングコモンズ、カフェなどあらゆるところに学生の姿がありましたね。

玉川:全面ガラス張りというのも効果的だと思います。ほかの学生が自習している姿を間近に見ることで、自分もやらなきゃとやる気を起こさせるきっかけになっているんですよね。みんな試験勉強しているわ、私もやらないといけないかしら、とか(笑)。

岡:ほかの大学さんでもこういったガラス張りの部屋はつくられていると思いますが、整然と並んでいるところが多いと思うんです。ここは配置が斜めになっているので視線もあまり気にならないんですよね。

──そういえば、さっき写真を撮らせていただいているとき、学生のみなさん、あまり気にしてなかったですね。

岡:ビブリオシアターの全体図を見てもらったらわかるんですけど、通常ならまっすぐ並んでいるものをちょっとずつずらして曲げただけなんです。基本的には一本筋が通っているつくりにはなっています。

玉川:カウンターの閲覧席はガラス窓に向かって座っている状態なので、後ろを通ってもそんなに気になりません。みんな、自分の居心地のいいイスを見つけて座っています。

独自分類の「近大INDEX」とは?

──では5号館の図書棟、ビブリオシアターについてお話を進めていきたいと思います。1階にNOAH33(NOAHはNew Order of Academic Home)、2階にDONDEN。どちらも編集者の松岡正剛さん(注2)が所長をつとめる編集工学研究所(注3)がプロデュースされたとか。

岡:じつは建物に関してはすでに決まっていたんです。それで中身に関して、どうしようかと。それなら図書に対して造詣が深く、丸善・丸の内本店で松丸本舗(注4)を手掛けられた松岡さんの編集工学研究所でプロデュースしてもらおうということになりました。

──ビブリオシアターでは「近大INDEX」という新しい分類法が用いられているんですね。

岡:近大INDEXも松岡さんに監修していただきました。NDCを下敷きに、新たな実学的・文理融合的なリベラルアーツ感覚でジャンルを分け、選書するといったものです。

玉川:近大INDEXを活用することで、図書館では決して隣り合って並ぶことがない本が同じ棚に並んでいます。これにより、普段なら手に取らないジャンルの本を目にする機会を増やそうという狙いがありました。

──では順番に見ていきたいと思います。まずは1階のNOAH33についてお聞かせください。

玉川:NOAH33は学術書を中心に、約3万冊の図書が置かれています。CHANCE、CHAIN、CHARGE、CHALLENGE、CHARM、CHANNEL、CHANGEという7つのエリア(通称7CHA)に分かれ、自伝、宇宙、芸術、生命科学、歴史、スポーツなど33のテーマで構成しています。テーマごとに小見出しやKEY BOOKを設定したり、あえて横積みに置いてみたり、気軽に本が手に取れるよう、工夫しています。

──書架は相当高いですよね。

岡:約4メートルの高さがあります。……上のほうにある図書ももちろん借りられます。ただ、はしごをのぼらないと取れないので、翌日渡しになりますが。学内の人間でも借りられないと思っている人が意外と多かったりもします。

──こちらの選書は編集工学研究所が担当されたんですか?

玉川:はい。中央図書館から移動させた本もありますが、所蔵していない本は新規に購入しました。本には中央図書館のラベルと、近大INDEXのラベルが2枚ついています。もうすぐオープンして1年経ちますから、図書館としてはこれからどういう本を棚に追加していくか、そういった見直しを積極的にしていこうと思っています。



(注1)アカデミックシアターのホームページの診断コンテンツ(https://act.kindai.ac.jp/personality_test/)。AI(人工知能)がSNSの投稿内容から一人ひとりの性格を分析し、その人の潜在的興味に合致する本を紹介してくれる。心理学のビッグファイブ理論(開放性、誠実性、外向性、調和性、神経症傾向の5つの特性因子で性格の特性を表すという考え方)に基づいて学生と本をマッチング。偶発的な本との出会いを創造する。

(注2)1944年京都生まれ。雑誌編集長、東京大学客員教授、帝塚山学院大学教授などを経て、現在、編集工学研究所所長、ネット上の情報編集術の学校「イシス編集学校」校長。日本文化、芸術、生命哲学、システム工学など多方面におよぶ思索を情報文化技術に応用する「編集工学」を確立。

(注3)社会のさまざまな事象に編集工学を応用し課題解決を行う会社。コンサルティング、教育・研修事業、イベントなどのプロデュース事業、編集ツール・システムの研究・開発事業、編集・出版事業など編集工学を応用した各種事業を展開している。

(注4)2009~2012年に丸善・丸の内本店にあった、松岡氏がプロデュースしたショップ・イン・ショップ。シーズンごとに分類テーマを変えたり、著名人の書斎を再現させるなど、斬新な店舗づくりで注目を集めた。

(つづく)


取材に答えていただいたアカデミックシアター事務室の岡友美子室長(左)と中央図書館の玉川恵理さん(右)。玉川さんが担当するNOAH33の11の棚、「アスリートをめざして」の前で。

近畿大学

大正14(1925)年設立の大阪専門学校と、昭和18(1943)年設立の大阪理工科大学を母体として、昭和24(1949)年に新制大学へ移行。大学には法学、経済学、経営学、理工学、建築学、薬学、文芸学、総合社会学、国際学、農学、医学、生物理工学、工学、産業理工学の学部のほかに通信教育部、短期大学部がある。大学院、短期大学、工業高等専門学校や、附属施設として水産、原子力、人権問題などの研究所、附属病院、幼稚園、小・中・高校などを擁する総合学園。

建学の精神は「実学教育」と「人格の陶冶(とうや)」。教育の目的は「人に愛される人、信頼される人、尊敬される人を育成」。本部のある東大阪キャンパスのほか、医学部のある大阪狭山、農学部の奈良、生物理工学部の和歌山など6つのキャンパスがある。

東大阪キャンパスではアカデミックシアターの完成で、「超近大プロジェクト」の第一期工事が完了。現在、第二期工事が進行中で、食堂や実験棟などを建設、2020年の完成を予定している。

住所 〒577-8502 大阪府東大阪市小若江3-4-1 アカデミックシアター事務室
TEL 06-4307-3109
URL https://act.kindai.ac.jp/
E-mail a-jimu@ml.kindai.ac.jp
開館時間 5号館のビブリオシアターは8:45~22:00(夏季休暇など休暇期間は8:30~22:00)※休館日は日曜日、国民の祝日、年末年始
※2~4号館の利用時間はこちらをご覧ください。https://act.kindai.ac.jp/guidance/
利用できるひと 学生、教職員、卒業生、近隣居住者など一般公開利用に登録した人
蔵書数 約7万冊
総座席数 約2400席
面積 28,345.07㎡
開館年月 2017年4月


アカデミックシアターのホームページ。フェイスブックとツイッターに連動させれば、AIが適合する本を選んでくれる。


3号館からエントランスホールを撮影。見ての通り壁がないつくりとなっている。


1号館ラーニングコモンズ。グループ学習の光景。話してもかまわない空間。「みんな、そんなに大きな声は出さないですね。意外と静かです」(玉川)


1号館のインターナショナルスタディーズエリア。約9000冊の英語の多読本などの図書と、約2000本のDVDで語学を学ぶことができる。


2号館の実学ホールは、約350人収容可能。この日はキャリアセンターによる企業説明会が開かれていた。


2号館の外壁はコルクのような杉の廃材が詰まっている。環境への配慮とともに杉の香りも楽しめ、安らぎを得られる。


3号館1階にある約100席の女性専用自習室は、アプリで予約できる。夜はロックされるので女性一人でも安心。


4号館アメニティフィールドの「ALL DAY COFFEE」。梅田にある「グランフロント大阪」のおしゃれなコーヒースタンドが近大に登場。


4号館「CNN Cafe」。CNNがライブで見られる。ホットドッグ、サンデーなど本場の味が楽しめる。ビブリオシアターの本が持ち込める。


5号館のNOAH33。CHANCEのエリアにある、05の棚「大地と海が生きている」。棚の前にテーマが表示されている。


CHANCEエリア、01の棚「注目すべき個性たち」。小見出し「祈る者たち」のKEY BOOKはマララ・ユスフザイ著『私はマララ』。


CHARMエリア、27の棚「クラシックからロックまで」。取材はクリスマス直前だったので、雪にちなんで白い本がデコレート。


中央図書館から持ち込まれた図書なので、ラベルは二通り。上は近大INDEX、下は中央図書館のNDCのラベル。


気軽に手に取ってもらえるよう、横積みの本もある。


書架は4メートルの高さ。上のほうの図書はもちろん実物、貸出OK。


学生ボランティア、アプリコットコンシェルジュによる、黒板アート。本の中から印象的な言葉をピックアップ。

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