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今号の気になる図書館員さん

湘北短期大学
図書館情報サービス課
ITコンシェルジュ担当
熊谷裕子さん

パソコンや自動化書庫の導入がずば抜けて早かったり、図書の貸出冊数、図書館の利用回数が多かったり、利用者教育がさかんだったり……最先端の大学図書館といえば、ICU図書館が思い浮かびます。

この春、リニューアルされるとうかがいました。今後の動向が気になります。
ぜひ、勉強させてください!

国際基督教大学(ICU)図書館(1)東京都三鷹市

その入館者数や貸出冊数の多さで注目を浴びている、大学図書館界のトップランナー、国際基督教大学(ICU)図書館。利用しやすい図書館を支えるサービスとは? 図書館パブリックサービス・グループの松山龍彦さんと長濱崚平さんにお話をうかがう1回目。


ICU図書館本館。オスマー館とともに、帝国ホテルを設計したアントニン・レーモンド設計事務所が手掛けた。

高い利用率を支える秘けつとは?

──まずは図書館の成り立ちを教えてください。

松山:ICU図書館は1960年にできました。大学の教育理念であるリベラルアーツ(注1)を支える主要機関として、大学のちょうど中央に位置するように建てられました。2000年には新館、ミルドレッド・トップ・オスマー図書館が開館しました。

──図書館の特長は?

松山:ICUに入学すると、「バイリンガル教育」を実現させるためにELA(English for Liberal Arts Program)という英語プログラム(注2)をとらねばなりません。そのため図書館の蔵書は洋書と和書が半々くらい。しかも一緒の書架に混在しています。英語の資料を読んで、英語でレポートを書くという課題が課されるので、必然的に洋書の利用率は高いですね。

長濱:データベースについても、国外のものを70くらい契約しています。同じくらいの規模の大学と比べると多いと思います。ELAでのレポートや卒論など、英語で書く学生が多いので利用率も高いんです。

──蔵書の種類はいかがでしょう?

松山:リベラルアーツを教育理念としているので、ジャンルは幅広いですね。医学、薬学以外で、生物学とか環境関係とかも入っています。だから選書は結構たいへんな作業です。以前は、先生方が平均的に発注されていたのですが、いまはすごく発注される先生と、発注されない先生とに二分されていて……。専門性が高くなってくるとわれわれではよくわからないので、貸出実績の高いジャンルや研究者の多い分野から購入しています。

日本の大学はどこもそうだと思いますが、アメリカのようなサブジェクトライブラリアン(注3)は望めない。いまのところこの方法でやっていくしかないですね。

──学生から、こんな本を入れてほしいというリクエストはありますか?

長濱:コンスタントに来ますね。数は多いほうだと思います。

──資料によるとICU図書館は、2015年では一人当たりの貸出冊数は51.8冊。全国の平均8.5冊より圧倒的に多いですね。

松山:現段階では年間40冊強ですが、多いほうですね。

長濱:入館者数も一日1200人くらい。以前は在校生3000人の半分の1500人は毎日図書館に来ていたそうですが、デジタル化が進んでも図書館を利用する学生は多いです。

──貸出冊数の多さの秘けつにはICUならではのサービスがあると思うのですが、どんなものがありますか?

長濱:まず、貸出冊数が無制限ということ。またリザーブブック制度というのがあって、教員が授業で必要だと指定した本を、多くの学生が利用しやすいようにする仕組みです。つまり、指定された本は貸出期間を通常の2週間ではなく、当日、1日または3日にして、通常の書架ではなく、本館にあるDSC(ドキュメントサプライセンター)で管理をし、回転率を高めています。

──図書の延滞に関して、延滞料金がかかると聞きました。

長濱:貸出冊数の無制限の特典を支える罰則です。延滞料金は一日一冊10円です。

松山:ちなみにリザーブブックは一日一冊300円です。これくらいしないと独占してしまう人がいるからです。

──みなさん、料金は支払いますか?

長濱:もちろん溜め込んでしまう学生もいます。

松山:お知らせは学期ごとに出します。延滞金、これだけありますよ、と。だいたい一年に一人くらいはすごい延滞料金で問題になる学生がいます。

長濱:何度も連絡するのですが、そういう利用者はすぐには反応しません(笑)。支払わないと卒業できないので、最後にはきちんと支払ってもらいます。最終的には高額になってしまい、分割にして返してもらうというケースがたまにあります。

──本館の書架の前では学生アルバイトさんが大活躍していますね。

長濱:図書の再配架を手伝ってもらっています。館内で閲覧した図書は、棚に戻さず、リターントラック(専門返却台)に置くだけでいいことになっています。これも図書を利用しやすくするための工夫です。その図書を学生アルバイトがどんどん再配架していくという仕組みになっています。


ジャンルは同じだが、和書と洋書が混在している書架。番号が複雑なので、再配架をする学生アルバイトは番号の配列規則をきちんと理解しなければつとまらない。

新館で最先端のサービスを実現

──オスマー図書館の地下には、日本で初めて導入された自動化書庫があるんですね。

松山: 開館当初からICU図書館では、当時は珍しい全面開架制を採用していました。しかし書架が満杯になって、72年に本館を増築しスペースが約1.8倍くらいになったのですが、80年代にはふたたび満杯になりました。当時開架書架以外に図書を管理するところがなかったので、倉庫業者に預けましたが、やり取りがたいへんで。とにかく新しい棚をつくらなきゃいけないという状況が、十何年も続いていました。95年に、アメリカのカリフォルニア大学ノースリッジ校に視察に行き自動化書庫を見に行って、これを導入できれば書庫の面積が大幅に軽減できる、と納得しました。

図書館では91年に図書館システムを導入、93年にOPACがスタートし、インターネットも接続されました。これからの図書館は紙の資料同様、電子資料も提供する場になる必要がある。つまり電子資料の提供にはたくさんのパソコンを置かねばならないし、マルチメディアを利用した授業もいずれ行なわれるだろう。また学習方法でもグループワークが必要になってくるのではというように、新しい図書館の計画が時を同じくして検討されていたんです。

じゃあ、地下に自動化書庫を置いて、そのうえにコンピュータ・スペースなどを設置すればどうか、と。運良く、ドナルド・F・オスマー博士が建築費70%分の寄付を申し出てくださいました。おかげで日本初の自動化書庫の導入と、当時はまだ言葉すら聞いたことがなかったのですが、ラーニングコモンズが実現できたんです。図書館はオスマー夫妻を記念して、夫人の名前をお借りし「ミルドレッド・トップ・オスマー図書館」と命名。2000年9月にオープンしました。


(注1)ICUのリベラルアーツとは、人間性の全体的な発達と人格の成熟を目指す教育で、文系・理系という分断の概念ではなく、文理の枠を越えた「自由」な学びのこと。幅広い知識を得た後に専門性を深めることで、豊富な知識に裏打ちされた創造的発想を可能とする教育を意味している。

(注2)「学生の英語力を向上させると同時に、ICUで効果的に学ぶための思考力と技術を養う、リベラルアーツへの重要な導入教育です。主に日本語を母語とする学生が、1年次の大半を費やして集中的に学びます。習熟度に応じて課程(Stream 1~4)が決まり、各課程では約20人ずつの『セクション』と呼ばれる少人数のクラスに分かれ、週4コマから11コマの授業を履修します」(ICUホームページより)

(注3)主題資料専門家(サブジェクトライブラリアン)
特定主題や学問分野の専門的知識を持つ図書館員で,その主題領域の資料選択と評価に責任を持つ.大学図書館や大規模公共図書館で主題部門制を採用している場合,資料形態にかかわらず,その特定主題の資料管理,閲覧,貸出からレファレンスサービスなどを一元的に行う主題専門図書館員を指す.米国の大規模図書館では,主題専門制が発達している.日本では,都道府県立などの大規模公共図書館においては第二次大戦後に,また,大規模大学図書館においては1980年代以降に主題部門制が採用され始めたが,主題部門別に閲覧室を設けるまでにとどまり,主題資料専門家を各室に配置するには至っていないことが多い.(「図書館情報学用語辞典 第4版」)

(つづく)


オスマー館地下2階にある自動化書庫。50万冊が収蔵されている。図書番号を入力すれば、その図書のあるコンテナをカメラが認識。図書が出てくるという仕組みになっている。

国際基督教大学(ICU)図書館

1960年の開館以来、大学の教育・研究の中心的役割を果たす。79万冊を超える蔵書は、和書、洋書とも広範な分野に及ぶ。2000年には、ミルドレッド・トップ・オスマー図書館が新設され、日本初の本格導入となる自動化書庫を設置。図書、雑誌、電子情報など様々な情報媒体を統合してより一層学習にふさわしい環境が整った。スタディエリアにはパソコンが配置され、貸出用パソコンも提供。その他、マルチメディアルーム、グループ学習室、グループラーニングエリア、ライティングサポートデスクなどがある。また、図書館本館には、歴史資料室、特別学修支援室なども設置。2018年4月にはオスマー図書館がリニューアルされ、学修・教育センターが併設された。『大学ランキング2018年度版』(朝日新聞出版)の「大学図書館」の項目では、総合評価1位を獲得。

国際基督教大学

1953(昭和28)年創設。International Christian Universityの英語名からICUと略称される。ICUの教育組織にはアメリカのリベラルアーツの理念が取り入れられている。国際色豊かな教授陣、日本語と英語の常用、海外諸大学との国際交流を特徴としている。またその教育もユニークで、2008年度からは学科を専攻の枠に捉われないアーツ・サイエンス学科に統一。学生は3年次になる前の段階でメジャー(専修分野)を選ぶ。

住所 〒181-8585 東京都三鷹市大沢3-10-2
TEL 0422-33-3668
HP https://www-lib.icu.ac.jp/
E-mail library@icu.ac.jp
開館時間 平日(学期中)8:30~22:30、土曜日(学期中)/夏期/秋休み9:00~20:00、土曜日(試験期)9:00~22:30、日曜日(学内者限定利用)13:00~19:00、学期外9:00~16:30
利用できるひと 学生、教職員、卒業・修了生、 教職員家族
蔵書数 79万冊
閲覧席数 509席
延床面積 8,307㎡
開館年月 1960年4月


本館1階にあるドキュメントサプライセンター、通称DSC。資料の貸出・返却および利用者対応のほか、リザーブブックを一元的に管理している。


図書館員セレクトによる企画展示。撮影したときは「じぇねえど(一般教育科目推薦図書)」が展示されていた。


新着図書コーナー。遺伝子工学、生物有機化学からファッション、イギリスの会社法まで、ジャンルは多岐にわたっている。


左側にあるのが「リターントラック」。館内で閲覧した図書が次々に置かれる。学生アルバイトが再配架。ちなみに本館、新館とも各20~30名のアルバイトがいる。時給は960円。


書架の側板には電子書籍のポスターが。QRコードを読みとれば、書籍を読むことができる。


本館1階の「JLP文庫」。日本語を学ぶ人(留学生)に向けたもので、『ポプラディア』から日本文学全集まで、比較的やさしい日本語の本が並んでいる。


本館1階の閲覧席。広い机にライト付き。勉強がはかどりそう。


本館2階にあるラウンジ。文庫本や旅行書などがある。障子があり、和洋折衷のつくりになっている。


本館1階の「内村鑑三記念文庫」。内村の教え子たちが収集した資料をもとに発足。その後、図書館が内村に関連する図書や資料を継続して収集している。


内村直筆の手紙。大鹿(おおじか、現・新潟市)のキリスト教信者に向けたもので、信者を励ます内容となっている。

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