国際基督教大学(ICU)図書館(2)東京都三鷹市
自動化書庫、ラーニングコモンズをいち早く取り入れた、大学図書館界のパイオニア、ICU図書館。図書館員のお仕事、この春のリニューアルや図書館の未来像について、今回も松山龍彦さんと長濱崚平さんにうかがいました。
この春リニューアルした、2000年秋オープンのミルドレッド・トップ・オスマー図書館。
自由度の高い職場
──さて、図書館員は何人いらっしゃるんですか?
長濱:図書館は2つのグループから形成されています。松山と私が所属するレファレンスサービスなどを主に担っているパブリック・サービスグループ、そしてシステム関係を担っているテクニカル・サービスグループ。全部で12名。女性職員が多いICUでは珍しいのですが、男性が多い職場です。
──どんな雰囲気ですか?
松山:気兼ねなくコミュニケーションができていると思います。あうんの呼吸というか……(笑)。
長濱:私はこちらに入って1年半なんですが、みなさんICU図書館のこともよく知っているし、図書館業務のこともいろいろ経験されてきている方々なんで、とても安心です。
松山:そして自由度がすごく高いですね。だから新しい企画がどんどん生まれてくる。
──「ICU古本募金」「誰も借りてくれない本フェア」「ICU図書館スカベンジャーハント」という面白い企画も実施されていますね。
長濱:昨年で6回目となる「スカベンジャーハント」というイベントを、私が担当しました。館内のあらゆるところに図書館に関するクイズを掲示して、最も多く正解したグループに図書館の選書権を与えるという内容です。しかしながら、以前と比べて参加者が減ってきまして……そろそろ新しいコンテンツを生み出さなければと思っています。
松山:企画自体は前任者が打ち立てたものですが、彼(長濱さん)は機動力がすごい。PR動画などをあっという間につくる。彼はここに来て1年半ですが、安心して任せられます。
──図書館員さんは、ELA(English for Liberal Arts)でレクチャーも担当されているとか。
長濱:ELAでは図書館員全員で情報探索のレクチャーを担当しています。1年次、2年次を中心としたすべてのクラスで教えています。まず、OPACでの英語の文献の探し方から、データベースの使い方、ILL(図書館相互貸借、注1)のことなど基本的な情報探索の仕方を教えます。ELAでは英語で調べて英語でペーパーを書くことを目標としているので、2年次以上のクラスではリンクリゾルバ(注2)の使い方や二次文献情報データベースなども教えています。
──ゼミクラス向けのレクチャーもされているんですね。
長濱:教員から要望があった場合、随時行なっています。たとえば、こんな授業をやりたいから、どんなデータベースがいいか教えてほしいとの要望が先生から来るとします。図書館はその授業に合ったデータベースをカスタマイズして使い方をレクチャーします。
松山:毎年同じ時期に同じ授業をされている先生がいらっしゃるので、その場面でも呼ばれますね。たくさんの先生方から依頼を受けています。
──ふだんから教員のみなさんと交流はあるんですか?
長濱:多いほうだと思います。特によくレクチャーを依頼してくる先生などとは、ふだんからやり取りをしています。学生たちもレクチャーで教えたデータベースとかコンテンツとかをよく使ってくれます。利用促進につながりますから、ありがたいですね。
オスマー図書館の地下1階スタディエリア。デスクトップのパソコンが使える席やデータベース専用の席などがある。
──早くからレファレンスサービスにも注目されていました。
松山:私は就職後3年目の95年からレファレンスサービスに携わりました。レファレンスライブラリアンという専門職制をとったり、チーム制をとったり、その時々の利用者の便宜を第一に考えて形態を変えてきました。本館に15名からなるレファレンスデスクを設けていたのですが、オスマー図書館ができて3年目、プリンタールームを改装してレファレンスサービス・センターを設けました。インターネットの普及で、専門知識を必要としない単純な質問が増えたというのもあります。いまはパブリック・サービス4名と派遣スタッフ2名の6名で担当しています。センターといえども、パブリック・サービスのオフィスと兼用になっているので、質問者が来たら、手の空いている誰かが対応する、という感じです。
レファレンスといえば、カウンターがあって後方に部屋がある、というのがよく見られるケースで1対1でされているところが多いと思います。ICUの場合、みんな同じ部屋にいるので、お互い補完することができて、かえってこのやり方が効率的だと思っています。
新たな変革期
──さて、この4月からオスマー図書館がリニューアルされたんですね。
松山:学修・教育センターのCTL(Center for Teaching and Learning)という部署が1階に引っ越してきました。これを機に、地下1階のグループ学習エリアと1階のスタディエリアやレファレンスサービス・センターなどを入れ替えました。
CTLは学修サービスを全般に行なっている部署です。いままで図書館が担当していたライティングサポートデスク(大学院生のチューターが学部生にレポートの書き方を教える)も見てもらうことになりました。
──CTLが図書館に引っ越すことで、学修支援という点でより連携が強くなりますね。
松山:僕らの時代は、図書館の使い方などを図書館員が教えることは少なかったですよね。それがだんだん変わってきて、図書館員もレクチャーなどで教えるようになり、ライティングなども図書館でサポートするようになりました。図書館は学修支援の一部になったんだなと実感しています。図書館とCTLも将来的には一つに収斂していくかもしれません。いま、オスマー図書館のオープン以降初めて、ICU図書館の新たな変革期を迎えていると思います。
オスマー図書館1階、学修・教育センター(CTL)内のグループラーニング・エリア。ワイワイ話しながら、学習できる。窓の外には緑が見え、じつに居心地のいい空間。
──リニューアルの目玉はありますか?
松山:1階にオープンなスペースをつくりました。研究発表だけじゃなく、イベントやコンサートなどもできればいいと思っています。
長濱:CTLと共同で、楽しいイベントをどんどん企画できればな、と。
──最後に、お二人が考えるICU図書館の未来像とは?
松山:洋書を中心にだんだん電子書籍になり、ジャーナルがだんだん電子ジャーナルになり、これからは書架がどんどん空いていくと思うんです。10年経てば、書架があまって困るような状況になる可能性があります。だから「図書」館という枠に縛られない未来像を考えていかねばと思っています。
図書館に学生たちの居場所をつくりたいと思っています。公共図書館にもありますよね、コミュニティスペースとか。そういうスペースが大学図書館にあっても別にいいんじゃないかな、と。特にICUの場合は寮生が多いです。だからベストセラー小説などの軽い本がもっとあってもいいんじゃないかな、と思っています。
長濱:松山の話に通じるかもしれませんが、これからどんどん電子化が進んでいって、図書館に行かなくてもサービスが受けれられるようになってくる。だから入館者数も絶対減っていくと思うんですよ。利用者にとっても図書館に行かないほうが楽ですからね。そんな中でも図書館だからこそできる、ということがあると思うんです。そういうものをどんどん見つけていきたいなと思っています。
(注1)図書館協力の一形態で,ある図書館が,同一機関に所属しない図書館からの要求に応じてコレクション中の資料を貸し出したり,その複写物を提供すること.前者を現物貸借,後者を文献複写と呼んで区別している.設置者別あるいは館種別に締結された相互貸借に関する協定が数多く存在しており,それによって遵守すべき方針および手続が定められている.また,国立国会図書館や都道府県立図書館は,国内あるいは都道府県内の図書館に対する相互貸借を主要なサービスの一つと位置付けている.(「図書館情報学用語辞典 第4版」)
(注2) 書誌データベースやOPACなどの検索結果から,利用者にとって最適な文献やサービスへのリンク先を決定する仲介システム.バン・デ・ソンペル(Herbert Van de Sompel 1957- )が提案したOpenURL構文によってメタデータを記述することで実現される.リンク先は,アグリゲータや出版社,所属機関内外の蔵書,図書館相互貸借の依頼などである.検索手続きの簡素化,利用可能な学術情報の有効利用と入手時間の短縮の効果がある.(「図書館情報学用語辞典 第4版」)
インタビューに答えていただいた、パブリックサービス・グループの松山龍彦さん(左)と長濱崚平さん(右)。オスマー図書館の入口で。
国際基督教大学(ICU)図書館
1960年の開館以来、大学の教育・研究の中心的役割を果たす。79万冊を超える蔵書は、和書、洋書とも広範な分野に及ぶ。2000年には、ミルドレッド・トップ・オスマー図書館が新設され、日本初の本格導入となる自動化書庫を設置。図書、雑誌、電子情報など様々な情報媒体を統合してより一層学習にふさわしい環境が整った。スタディエリアにはパソコンが配置され、貸出用パソコンも提供。その他、マルチメディアルーム、グループ学習室、グループラーニングエリア、ライティングサポートデスクなどがある。また、図書館本館には、歴史資料室、特別学修支援室なども設置。2018年4月にはオスマー図書館がリニューアルされ、学修・教育センターが併設された。『大学ランキング2018年度版』(朝日新聞出版)の「大学図書館」の項目では、総合評価1位を獲得。
国際基督教大学
1953(昭和28)年創設。International Christian Universityの英語名からICUと略称される。ICUの教育組織にはアメリカのリベラルアーツの理念が取り入れられている。国際色豊かな教授陣、日本語と英語の常用、海外諸大学との国際交流を特徴としている。またその教育もユニークで、2008年度からは学科を専攻の枠に捉われないアーツ・サイエンス学科に統一。学生は3年次になる前の段階でメジャー(専修分野)を選ぶ。
住所 | 〒181-8585 東京都三鷹市大沢3-10-2 |
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TEL | 0422-33-3668 |
HP | https://www-lib.icu.ac.jp/ |
library@icu.ac.jp | |
開館時間 | 平日(学期中)8:30~22:30、土曜日(学期中)/夏期/秋休み9:00~20:00、土曜日(試験期)9:00~22:30、日曜日(学内者限定利用)13:00~19:00、学期外9:00~16:30 |
利用できるひと | 学生、教職員、卒業・修了生、 教職員家族 |
蔵書数 | 79万冊 |
閲覧席数 | 509席 |
延床面積 | 8,307㎡ |
開館年月 | 1960年4月 |
オスマー図書館地下1階。入口に隣接する図書館カウンター。
1階から移動した、レファレンスサービス・センター。図書館カウンターの横にある。
データベース専用席。国内外のデータベースが使える。
オスマー図書館の入口近くのマルチメディア室。ここで図書館員によるELA情報探索レクチャーなどが行なわれる。
本館1階の「BOOK PERCH」。PERCHは止まり木という意味。「こんな本が読みたい」と誰かが書けば、「おすすめの本」を別の誰かが紹介する。図書館を通じて人をつなぐ試み。
ICU古本募金。読み終えた本をここに入れるだけで、その買取額が図書館への寄付となる。卒業生は郵送で参加できる。
オスマー図書館1階学修・教育センター(CTL)のカウンター。図書館とは対照的に女性が大半の職場だそう。
ライティングサポート・デスク(WSD)。約20名の大学院生が、学部生のレポートをサポートしている。WSDキャラクターの「ライティンぐま」が目印。
オスマー図書館1階アカデミックプランニングサポート(APS)。WSDなどはこちらが窓口になっている。
APS前にある新設のオープンスペース。撮影時は授業や将来など不安なことを先輩に相談できる、新入生のためのIBS(ICU for Brothers and Sisters)コーナーが設置されていた。
オスマー図書館1階のグループスタディルームは3名以上なら利用できる。主にゼミや勉強会に活用されている。