都立多摩図書館(2)東京都国分寺市
「東京マガジンバンク」と児童・青少年資料サービスの二つの機能を柱にした都立多摩図書館。2回目は児童・青少年資料サービスをクローズアップ。利用者の反応は? 選書の基準とは? そして子供の読書活動推進の中身とは? 児童青少年資料担当の飯塚裕美さんにお話をうかがいます。
移転後は子供たちの利用が増加
──児童・青少年資料サービスについてお聞かせください。図書館内にはそれぞれのエリアが設けられているそうですが。
図書館内には中高生世代を対象とした「青少年エリア」、児童書や子供の読書の調査研究を目的とした「児童研究書エリア」、そして乳幼児から小学生までを対象とした「こどものへや」があります。まずは「青少年エリア」ですが、中高生世代が楽しめる本や勉強に役立つ本を約21,500冊、揃えています。
またその世代の読みたい気持ちや知りたい気持ちを応援できるようなコーナーもつくっています。「TAMA selection」のミニ展示では、司書が読んで、ぜひ中高生世代に読んでもらいたい本を、テーマを変えて紹介しています。これまでのテーマには「ノンフィクション特集」や「味覚」といったものがありますが、普段読み慣れた本とは違う、新たな発見や感動に出会えるものをピックアップするよう心がけています。
そして、進路を考える時期に差しかかる中高生のために、「キャリアデザインコーナー」を設けています。「仕事」「学校」「留学」の3本立てで将来のことを考えるときに役立つ資料を集めていて、都内の高校の学校案内もまとめて見ることができます。
それから「英語多読棚」。たくさんの本を楽しみながら読むことで、英語を身につけることができる「英語多読」は語学学習でも話題になっています。ここでは英語を気軽に読んで、楽しく学べる本を集めています。
──次に「児童研究書エリア」についてお聞かせください。
絵本や児童文学を研究されている方や、子供の読書に携わる方に役立つ資料を集めたエリアです。約8,500冊の資料が並んでいて、児童文学や絵本、昔話などの研究書はもちろん、児童図書館や学校図書館に関する資料、各区市町村の子供読書活動の推進計画といった行政資料なども見ることができます。そして最近、力を入れているのは、「あの人を知るための扉」というリーフレットの作成です。
司書たちによってつくられたリーフレット「あの人を知るための扉」。観音開きになっており、作家のプロフィール、そして作家を知るための本がそれぞれ6冊ピックアップされている。リーフレットの色味も作家ごとにセレクト。繊細なつくりとなっている。
──素敵なリーフレットですね。
国内外の児童文学作家や絵本作家を一人ピックアップし、一枚のリーフレットにその作家の代表作を1冊と当館に所蔵している研究書を5冊掲載しています。初めてその作家について学ぶとき、もう少し詳しくその作家について知りたいときに読むのに適したものを司書が選び抜いて紹介しています。ちなみに私は『スーホの白い馬』や『かさじぞう』の絵本画家、赤羽末吉(あかば・すえきち)のリーフレットをつくりました。現在、展示エリアでは、これまでに作成した24人分のリーフレットをもとに「あの人を知るための扉 絵本と児童文学の作家についての120冊」と題した企画展示を行なっています。子供の本の作家について初めて触れる方や、もっと詳しく知りたい方に幅広く楽しんでいただけると思います。
──最後に別室となっている「こどものへや」について教えてください。
赤ちゃんから小学生までの子供たちのための本を集めた部屋です。絵本や物語、知識の本など約13,000冊が揃っています。一般の閲覧室とガラスの壁で隔てているので、子供に読み聞かせをすることもできますし、雑誌を含めほかのエリアの資料を持ち込むこともできるので、保護者の方にもゆっくり読書を楽しんでいただけます。
また子供たちの読みたい気持ちを刺激するために、展示コーナーも設けています。いまは夏休み期間中なので、自由研究関連の展示をし、7/28(土)には自由研究講座も開催しています(今年は厚紙と輪ゴムでつくる工作「わゴムのぴょん(カエル)をつくろう」を開催)。また展示中の自由研究のアイデアが詰まった『これならできる!自由研究 111枚のアイディアカードから選ぼう』というカードも司書がつくりました。これは当館のホームページでご覧になれます(注1)。
──ところで、立川から移転して利用者は増えましたか?
はい。とくに「こどものへや」、青少年エリアの利用はかなり増えましたね。立川から国分寺に移転した際にいくつか改善したことがあって、子供たちのエリアを広くしたこと、「こどものへや」に専任の司書が常駐するカウンターを設置したことなどがあります。ここはそばに小学校があり、子供が多く訪れてくれます。「こどものへや」にいつも来てくれる小学生の常連くん、常連さんがいたり、また中高生も読書や調べもので活用してくれたりと、利用者がグンと増えましたね。
乳幼児連れの若いご夫婦なども多く利用されています。平日などは「こどものへや」でママ友同士が遭遇してお母さんトークが始まったりとか。
──先ほど閲覧室を見せてもらったのですが、グループ閲覧室をのぞいたら高校生がいましたね。雑誌棚横の閲覧席にも中高年に交じって大学生くらいの若者もいました。
「こどものへや」のカウンターで座っていると、「どうしたら司書になれますか」と聞いてくる学生さんがたまにいらっしゃいます。私もいままで3人くらいに聞かれました。私たち職員もいろんな方と交流できて、楽しいですよ。
培ったノウハウを学校現場に届けたい
──選書はどうされているのですか?
「こどものへや」に置いてある児童書については、当館で選定し、収集しています。青少年エリアの資料については、中央図書館で選定、受入をし、当館に届くといった流れです。
児童書は、区市町村立図書館では収集しないものまでなるべく幅広く収集するようにしています。都立図書館では、多くの種類の資料を収集・保存するために、資料一点につき一冊ずつという収集方針をとっていて、基本的に複本はありません。今後の児童書の研究に寄与するという目的もあるのですが、区市町村立図書館に対する支援という目的もあります。
児童書に関しては、開架書庫に、最近1年間に受入をした図書を並べた「選書コーナー」を設けています。ここで新しく刊行された児童書にどんなものがあるかを見て、選書の参考にしてもらうことで、区市町村立図書館のサービスの支援につながればと思っています。
当館では、児童、青少年資料ともに、受入の段階での選書とともに、受入後にその資料を開架に置くかどうかという判断を重視しています。ここが我々がいちばん力を発揮すべきところです。
──そこに明確な基準はあるんですか?
細かく明文化されたものはありませんが、第一に子供たちが楽しんで読めるかどうか、それがいちばんの判断基準です。この部署で働いていると、子供が楽しんで読めるためには何が必要なのかが身についてきます。文章は子供が読むのに適切か、挿絵は文章に合っているか、レイアウトは見やすいか……。実際に司書がきちんと読んで検討しています。
──学校への支援も都立多摩図書館の役割ですね。
ここ数年、学校図書館との連携に都立図書館全体で力を入れています。学校での読書活動を支援する資料を作成したりしているんですよ。
多摩図書館作成の子供の読書活動推進のためのガイドブック『読み聞かせABC』と『特別支援学校での読み聞かせ』。
──うわあ、すごい! 立派な手引きですね。
『読み聞かせABC』は、集団の子供たちへ初めて読み聞かせをするときに、どういう本を選んだらいいか、どういうふうに読み聞かせをしたらいいかという指針となるものです。読み聞かせに適した絵本それぞれのあらすじと対象となる学年、読み聞かせにかかる時間や、読むときに気を付けたいところなどが書いてあります。読み聞かせの良さや読書の楽しさを伝えるために作成したものもあります。『しずかなひととき』は乳幼児のいる保護者の方向け、『ほん・本・ごほん』『ひとりでよめるよ』は小学生、『扉をあけて』は中学生向けです。そしてこれは高校生のための『羅針盤』。かなり骨太な内容なんですよ。こうした冊子が学校図書館の本選びの参考にもなればと思っています。
我々の実践に基づいたノウハウを現場の方に知っていただきたいという思いから、こういった冊子を作っています。これらはすべて当館のHPからPDF形式で提供しています(注2)。
また先ほど紹介した「選書コーナー」で、同じ分野で新しく刊行された本を一覧することもできるので、学校図書館の方にはぜひ来館して参考にしていただければ、と思っています。
──『特別支援学校での読み聞かせ』(注3)という冊子もあるんですね。特別支援学校での取り組みについてお聞かせください。
都立の特別支援学校には直接私たちが赴いておはなし会をするなど、子供たちと本を一緒に楽しめるような取り組みもしています。読み聞かせをした本について子供たちの反応はどんなだったのかなど、おはなし会のときの記録は細かく残しています。それをベースにしてこの冊子ができました。私は児童青少年資料担当になってまだまだ経験が浅いのですが、おかげさまでこれまでの職員たちが積み重ねてきた財産があるので、安心して仕事に取り組むことができています。
──最後に、飯塚さんが考える多摩図書館の未来像とは?
高校生を含めた子供はもちろん、そのご家族の方もリラックスして読書を楽しんでいただけるような、そういった場をつくっていきたいと思っています。とくに乳幼児など子供連れの方が肩身の狭い思いをしないよう、きちんと配慮していかなければ、と。
もう一つは都の子供の読書活動を推進する立場として、区市町村立図書館や学校図書館をはじめ、子供の読書に関わるすべての方の支援ができる図書館として、今後もより頼りにされるよう努力していかなければ、と思っています。とくに近年は学校現場が非常に忙しくなっていると聞きます。読み聞かせをどうすればいいのかとか、講座を開いてほしいなど、当館にもご相談をいただきます。その際は、まずは学校の近くの区市町村立図書館に支援を求めていただくようお願いすることもあります。区市町村立図書館は地域の読書の拠点となる場です。そういったこともあるので、区市町村立図書館のバックアップもどんどんしていきたいと思っています。
(注1)カードや冊子は都立多摩図書館の「子供の読書に関わる方のページ」(https://www.library.metro.tokyo.jp/junior/)から入手できるほか、東京都立図書館こどもページ「これならできる!自由研究 111枚のアイディアカードから選ぼう」(https://www.library.metro.tokyo.jp/child/recommend/ideacard/index.html)でも見ることができる。
また、「これならできる!自由研究111枚のアイディアカード集(冊子版)」は都民情報ルームの有償刊行物コーナーにおいて販売している。
(注2)都立多摩図書館「子供の読書に関わる方のページ」
https://www.library.metro.tokyo.jp/junior/
(注3)都立多摩図書館『特別支援学校での読み聞かせ』PDF
https://www.library.metro.tokyo.jp/uploads/tokubetsu.pdf
インタビューに答えていただいた児童青少年資料担当の飯塚裕美さん。「こどものへや」内にある「えほんのこべや」にて。
都立多摩図書館
昭和22(1947)年に開館した都立立川図書館、都立青梅図書館、昭和30(1950)年に東京都に移管された八王子市立図書館の3館が統合され、昭和62(1987)年、立川市錦町に都立多摩図書館が開館。平成14(2002)年に都立多摩図書館児童・青少年資料サービスを、21(2009)年東京マガジンバンクサービスをそれぞれ開始。港区にある中央図書館と機能を分担し、二つのサービス機能を柱に、都民の調査研究及び課題解決の支援や、区市町村立図書館及び学校への支援サービスを行なっている。平成29(2017)年1月に国分寺市に移転した。
住所 | 〒185-8520 国分寺市泉町2-2-26 |
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TEL | 042-359-4020 |
HP | https://www.library.metro.tokyo.jp/ |
開館時間 | 月~金曜日:10:00~21:00、土・日・祝休日:10:00~17:30 ※複写の受付は、閉館時刻30分前、書庫内資料の利用申込は、閉館時刻15分前まで。 |
休館日 | 毎月第1木曜日(館内整理日)、月1回の設備等保守点検日、年間12日以内の特別整理期間、年末年始 |
利用できるひと | 誰でも利用可。調査研究の図書館のため資料の貸出は不可。 |
蔵書数 | 「東京マガジンバンク」は約1万8000タイトル、児童青少年向けの資料は約23万冊 |
閲覧席数 | 227席 |
延床面積 | 8972㎡ |
移転年月 | 2017年1月 |
左から『しずかなひととき』『ひとりでよめるよ』『ほん
・本・ごほん』『扉をあけて』『羅針盤』。乳幼児から高校生まで選りすぐりの図書を紹介した多摩図書館作成のブックリスト。
仕事や進学など将来に関する本を集めた、キャリアデザインコーナー。
さまざまなジャンルの本と出会えるように意識してつくられた青少年エリア。
取材当日は、中高生に注目を集めている「本屋大賞」のコーナーが設置されていた。
グループで話しながら調査・研究することができるグループ閲覧室は、中高生にも人気。
区市町村立図書館が作成した、児童・青少年資料サービスに関する利用案内やブックリストなどがファイルにまとめてある。
児童研究書エリア。学校図書館に関する雑誌や、先日亡くなった絵本作家かこさとしさんの作品も展示されていた。
開架書庫の選書コーナー。最新1年間に受入をした図書が並ぶ。子供向けプログラミング関連の本が多く出版されているのがわかる。
同じく開架書庫。ここにある『スーホの白い馬』や『だいくとおにろく』は、初版から最近の版まで順追って見ることができる。
イラストのウリボウがトレードマークの「こどものへや」の入口。
4歳から小学校6年生まで利用できるスタンプカード。本を読んだり、おはなし会に参加したら、スタンプを押してもらえる。
「こどものへや」内にある棚。「すてきなものづくり」「東京ってどんなところ?」というテーマで選りすぐりの本が並べてある。
外国の子供たちに向けた本棚。
こどものへやのカウンター横には絵本『はらぺこあおむし』の英語、中国語、ハングル、ロシア語版があった。
取材当日に展示されていた「ウリボウたんていだん」のコーナー。ここにある118冊の本にそれぞれクイズが設けられており、本を読めば答えがわかるという仕組み。
こどものへやにあるパソコン。子供向けにわかりやすい表示になっている。
靴を脱いでくつろげる「えほんのこべや」。おはなし会はここで開かれている。
「えほんのこべや」にある大型絵本コーナー。