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今号の気になる図書館員さん

海洋研究開発機構
図書館司書
長尾典子さん

私は、海洋・地球科学の研究開発を行う機関で「地球科学」の観点から地震・津波関連資料を多数所蔵している図書館の司書です。

以前類縁の資料をご所蔵と思い見学させていただきましたが、防災専門図書館については、「災害」という「人」と「人が巻き込まれる現象」の関わりに特化したコレクションで、私の勤務図書館と書架の雰囲気が全然違うことに驚きました。独自分類の維持管理や特別展の実施には専門的な知識と経験が不可欠ですが、地味で時間がかかる業務でご苦労も多いのではないでしょうか。専門図書館共通の悩みどころ、内外へのアピールのコツなど教えていただけると嬉しいです!

防災専門図書館(1)東京都千代田区

防災専門図書館は半世紀以上の歴史を持つ、防災・災害に関する唯一の専門図書館。官庁街の東京・永田町の22階建てのビルの中にあります。
今回は司書の堀田弥生さんに図書館の成り立ちや独自の分類法、資料収集への思いについてうかがいました。

自然災害だけでなく人為災害も資料収集の対象

──まず成り立ちについてお聞かせください。

戦後間もない昭和24(1949)年1月、母体機関の全国市有物件災害共済会が社団法人として設立されました。

当初、火災共済事業のみを行なっていましたが、27年に自動車損害共済事業をスタート。あわせて風水害の損害に対する共済事業などの研究を始めました。そのとき、ほかの災害についても調査が必要だと認識し、さまざまな資料を収集していきました。資料がかなりの冊数に達した昭和31(1956)年、防災専門図書館が開設されました。

──利用者の特徴は?

このビルの上層階にはホテル、下層階には会議室があるので、館内のポスターなどを見て、フラッと立ち寄られる方が多く、そこからリピーターが生み出されていると思います。また企業の防災担当者、地域やマンションなどで防災担当になった方、ネットで検索して知ったという学生さんや研究者さん、そして最近では公共・学校図書館関係の方もいらしてますね。

防災の専門家でない方でも来館されているのは、やはり東日本大震災の影響が大きいと思います。「防災」に対する意識が高まりましたから。

──蔵書の特色は?

防災専門図書館では「災害」を「人に災いを及ぼすもの」ととらえ「自然災害」だけでなく、公害、農業災害、戦災などの「人為災害」についても資料収集の対象にしています。

さらに、例えば地震という分野では、単なる被害状況の記録だけではなく、震災対応、心のケア、震災支援・ボランティア、関連の法律、耐震問題・技術等といったように、一つの地震を多角的な視点から考察できるような資料収集を行なっています。

──75%が寄贈資料で、灰色文献(注1)も多いそうですね。

災害・防災の報告書や研究資料等は、灰色文献が圧倒的に多いため、役所・研究機関・関連会社等、数多くの機関・個人から資料を寄贈していただいています。しかし、先方から勝手に資料が送られてくるわけではなく、こちらから依頼をしてコツコツ集めています。

図書館にとってなんといっても大切なのはコレクション。日々の仕事の中では資料の収集にいちばん時間を割いています。資料を見つけては、封書やメールで毎日のように依頼をかけています。

そのためにも、ニュース、新聞、資料、ネットからの情報など、司書二人でつねに細かくチェックしています。また報告会、セミナー、展示会や学会に積極的に参加し新しい知見を得たり、入手した資料の中に書かれている参考文献などもくまなくチェックしたり……日常業務以外でもつねに耳をそばだてて、アンテナを360度張り巡らせています。

災害はいつ起こるかわからないものです。それゆえ、生活と災害は隣り合わせにあります。私たちは、それを常に意識しています。

──最近は、印刷物にされず、ウェブに掲載されるだけの資料が多いそうですね。

ここ数年、特に増えてきたように思います。時間が経てば、そういうページはリンク切れになって読めなくなります。当館では、発行者に印刷物がないかを確認し、それでもない場合は、当館で印刷して自館製本しています。


書庫は3か所。蔵書に占める割合は7分類(公害)が33%とトップ(平成26年3月末現在)。

資料の所在に関してはプロの立ち位置で

──分類はNDC(日本十進分類法)(注2)ではなく、独自の分類だそうですね。

分類は次のようになっています。

 0 災害一般(気象及び災害史を含む地方史)
 1 火災
 2 風水害・雪害
 3 地震・噴火・津波
 4 交通災害(群衆災害を含む)
 5 農業災害
 6 鉱・工業災害
 7 公害(放射能物質による汚染の類を含む)
 8 戦災
 9 その他一般

開設当初、3の項目は「地震及び噴火」だったり、2の「風水害」には「雪害」を掲げていなかったりと、多少変わっていますが、大きな見直しはしていません。開館当初からの分類です。母体機関が火災共済事業から事業を広げるのに合わせて、交通災害、風水害等の自然災害と、対象を広げて資料を収集していきました。その状況で開設した日本初の防災専門の図書館なのに、現在でも通用する独自分類を編み出した先輩方のすごさを感じます。

──7の「公害」のところに、「放射能物質による汚染の類を含む」という文言が昭和31年の開設当時からあったのは驚きです。「戦災」という項目もあるんですね。

戦災については「戦争という国家的規模による忌わしい人為災害の悲惨さ、恐ろしさを人々の記憶に新たにし、ひいては戦争防止のための一端を荷なうことが出来ればとの意図に基づき設けられたもの」と蔵書目録に書いてあります。

──地震だけでなく、大雨による土砂災害など最近はほんとうに災害が多いので、資料を集められるのは大変な作業だと思います。

被災地にしか出回らない自費出版のような資料は発見するのが難しく、現地の図書館のOPAC(オンライン蔵書目録)などをチェックしたりします。熊本地震のケースでは、行政が出版補助をした記録を見つけました。そこで、担当部署に問い合わせて連絡先を確認してもらい、ようやくその資料にたどり着きました。手間を惜しんでは必要な資料は集められません。

この館には約16万冊の蔵書があります。国会図書館にない資料もあります。でもここにあるものが、「防災」に関する資料すべてではありません。被災地の図書館と専門図書館とでは収集できるものに違いがあることを私たちは知っています。当館で見つからなければ、ありそうな所蔵先を探します。それを求めているお客様がいれば、きちんと案内しなければならない。ここでストップなんてできません。私たちは決して防災の専門家ではないし、研究者でもないのですが、資料の所在に関してはプロという立ち位置でやっています。


(注1)書誌コントロールがなされず,流通の体制が整っていないために,刊行や所在の確認,入手が困難な資料.政府や学術機関などによる非商業出版物を指し,インターネット上で公開されない審議会資料,会議・学会資料,報告書などには,灰色文献と呼べるものが多い.(ジャパンナレッジ「図書館情報学用語辞典 第4版」)

(注2)Nippon Decimal Classification(NDC) 記号法はデューイ十進分類法を応用し,主類区分はカッター(編集部注:近代的図書目録分類表の考案者)の展開分類法にならい,日本の図書館に適合するように,しかも和洋図書共用を意図して編纂された日本の代表的な一般分類表.(ジャパンナレッジ「図書館情報学用語辞典 第4版」)

(つづく)


質問に答えていただいた堀田弥生さん。ご自身も昔は防災専門図書館の利用者だったとか。

防災専門図書館

1956(昭和31)年7月に開設した専門図書館。公益社団法人全国市有物件災害共済会により運営されている。開設の目的は「防災、災害等に関する資料の収集とその活用・発信を通じて、住民のセーフティネットとして貢献する」ためとしている。地震や火災、事故や公害など様々な災害やその対策に関する約16万冊の資料を所蔵している。閉架式の図書館。

図書館見学会を開催!
防災専門図書館が下記の日程で見学会を開催。
11/27(月)9:30~12:00
12/8(金)14:00~16:30
(各回、先着20名)

参加したい方はメールアドレス(lib.bousai@city-net.or.jp)にお申込みください。
・件名「見学会申込み」にしてください。
・参加者名・ご所属・見学希望日をお知らせください。
※予定人数を超えた場合は、防災専門図書館ホームページでお知らせします。

住所 〒102-0093 東京都千代田区平河町2-4-1
日本都市センター会館8階
TEL 03-5216-8716
URL http://www.city-net.or.jp/library/
E-mail lib.bousai@city-net.or.jp
開館時間 9:00 ~17:00(休館日は土曜日、日曜日、国民の休日、年末・年始、館内整理日)
利用できるひと 誰でも利用可。ただし資料の貸出は限定あり。コピー可。
蔵書数 約16万冊
閲覧席数 12席
面積 492.61㎡(閲覧室・事務室・書庫)
開館年月 1956年7月


閲覧室には各種災害関連の専門誌がズラリ。


企業の防災担当者にはうれしい、BCP(事業継続計画)関連資料コーナー。


防災関連グッズコーナー。奥のボックスでは100円ショップで買える防災グッズを紹介。


風水害・雪害の棚にある昭和34(1959)年の「伊勢湾台風」関連の資料。


世界の震災関連の資料も豊富。手前にある台湾の資料は昭和10(1935)年のもの。


東日本大震災に関する各自治体の復興計画。ダウンロード資料も製本して保存している。


原子力関連の資料も充実している。


江戸時代のかわら版や絵図も所蔵。図書館ホームページの「デジタルアーカイブ」で見られる。


鯰絵『大都会不尽(おおつえふし)』。安政大地震後、地震除けの鯰絵が大量に出版された。


明治22(1889)年刊『熊本明治震災日記』。同年7月に起きたマグニチュード6.3の地震の記録。

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日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。

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