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今号の気になる図書館員さん

広島市立中央図書館
管理課
畠中由希子さん

瀬戸内市民図書館は市民参加の「としょかん未来ミーティング」を経て、市民の意見を取り入れながら平成28年6月に「持ち寄り・見つけ・分け合う広場」をコンセプトに開館した新しい図書館です。

NDC(日本十進分類法)にこだわらない利用者目線の配架構成や地域に根ざした事業の開催など、参考にしたい要素が盛りだくさん。

開館してから現在まで、その名の通り市民のための広場として、どんどん輝きを増している瀬戸内市民図書館をぜひ紹介してください。

瀬戸内市民図書館 もみわ広場(1)岡山県瀬戸内市

6年間の図書館整備プロセスとこれからの図書館サービスのモデルを示したことを評価され、今年のライブラリー・オブ・ザ・イヤーで大賞、オーディエンス賞のダブル受賞を果たした、瀬戸内市民図書館もみわ広場。コンセプトの「持ち寄り・見つけ・分け合う広場」とは? 市民と行政がつくりあげた図書館建設の軌跡とは? 嶋田学館長にお話をうかがってきました。


写真家中川正子さん撮影の図書館の外観とオリーブの庭。パンフレットなどPR写真は中川さんの手による、図書館と家族の写真だ。図書館の設計は御年80歳のベテラン建築家、香山壽夫さんによるもの。

「持ち寄り・見つけ・分け合う」図書館とは

──まずは図書館の愛称「もみわ広場」のもとにもなっているメインコンセプト、「持ち寄り・見つけ・分け合う」についてお聞かせください。

私が館長候補としてこちらに来たとき、将来どういう図書館にしていきたいか構想を提案してほしいと言われ、その際に出させていただいた「持ち寄り・見つけ・分け合う」が当館のメインコンセプトになりました。

まず「持ち寄り」ですが、これは市民のみなさんの情報ニーズのことです。「こんなことが知りたい」とか「こういうことで困っている」というような思いを図書館に「持ち寄」っていただきたい、と。そして「見つけ」は、持ち寄った課題に対し図書館にあるさまざまな情報から、答えやヒントを「見つけ」ていただきたい。また、たまたま図書館にあった資料で、「こういう世界もあるのか」と新たな世界を「見つけ」られるような、潜在的な知的欲求にもこたえられる図書館でありたい、と。最後の「分け合う」。これに関しては図書館からの働きかけ、そして市民のみなさんからの協力が必要なんですが、みなさんの気づいたことや学んだこと、こういう本がよかったなど、そういった情報をシェア(「分け合う」)していただくということですね。

──「持ち寄り・見つけ・分け合う」というテーマでなにか取り組みは始まっていますか?

今年に入って映画会をスタートさせました。そこで「こういう映画をやってほしい」とか「この映画がよかった」というような、みなさんの思いを書いていただく仕組みをつくりました。また図書館友の会(もみわフレンズ)さんが、「これはとても重要だ」、「これは面白い」という新聞記事を持ち寄って競い合う新聞版ビブリオバトル(注1)のような試みを提案され、市民のみなさんの交流の場をつくってくださいました。

──すでに友の会までできているんですね。

今年1月からスタートしました。設立総会には26名の方が集まり、会員は現在85名です。時間に余裕のある60代が中心ですが、20代の方もいて学生会員も4名いらっしゃいます。会長は今年度100名を目指すとおっしゃっていたんですが、決して冗談ではなく到達しそうな勢いです。

12名の方が運営委員となり、毎月一回運営委員会が開催されています。いまは図書館が事務局となりチラシ作成など手伝っていますが、いずれ事務局もみなさんでやっていただきたいと思っています。「瀬戸内ふるさとかるた」をつくろうという試みも始まっているんですよ。

──図書館の開設までのみちのりを教えてください。

瀬戸内市は平成16(2004)年、邑久(おく)郡の長船(おさふね)、邑久、牛窓(うしまど)の3町が合併してできました。合併時、新しい街をこういう街にするぞという新都市計画がつくられたのですが、そこには中央図書館整備計画も記述されていました。しかし公民館図書室がそれぞれの町にありましたから、すぐには着手されませんでした。武久顕也現市長が中央図書館の建設を公約に掲げて平成21(2009)年に市長選で初当選し、そこから本格的な動きとなっていきました。

──嶋田館長は公募でこちらに来られたとか。

私は平成23年に館長候補として滋賀県の東近江市立図書館からこちらにやって来ました。図書館は26年に開館予定だったのですが、用地や規模をめぐる論議があったり、一度入札が不調に終わったり……そういうことが重なり2年くらい完成がのびてしまいました。しかしいいように考えれば、市民のみなさんとじっくり議論し、議会のみなさんにも十分ご理解いただいて、いいかたちで開館まで持ってこれたかな、と。

公設公営方式を採用した理由

──図書館づくりの大事なプロセスとなった、市民のワークショップ「としょかん未来ミーティング」についてお聞かせください。

住民からの図書館整備の要望書に、図書館経験のある人材を全国から公募し準備に当たらせたいとの記述がありました。そしてその要望書が市議会において全会一致で採択されました。そして私が館長候補としてやって来た年の11月から、「としょかん未来ミーティング」というワークショップを開催しました。まず市が責任をもって図書館づくりの基本的な考え方を示した「基本構想」を作成し、それをたたき台にワークショップでみなさんから意見をいただくことから始めました。

「人形劇ができるスペースがほしい」、「カフェがほしい」、また子どもたちのみのワークショップも開き、そこでも「グループ学習ができるような小さなお部屋がほしい」とか「ライトノベルがたくさん並んでいる棚がほしい」という具体的な意見が出ました。そういった意見を取り入れながら、図書館整備は「基本計画」「実施計画」へと展開していきました。図書館がオープンする昨年まで計12回のワークショップが開催されました。


としょかん未来ミーティング。市民のみなさんが積極的に意見を出し合う様子がうかがえる。

──印象的なエピソードはありますか。

市議会で図書館設計委託料の予算が可決した後の第9回「建築デザイン編②」について、テーブルワークショップというスタイルで5、6人のグループに分かれて議論していたとき、あるテーブルで図書館の面積について意見が持ち上がりました。

瀬戸内市の人口規模(約4万人)からこれくらいの延べ床面積が望ましいと、2400㎡が設定(注2)されていたのですが、当時、瀬戸内市には図書館整備の取り組みの一方で、老朽化した病院の新築という事業もあったんです。つまり財政がそれほど豊かではない自治体で、大きなプロジェクトが2つ、同時並行で動いていたんですね。

すでに図面ができあがっている段階でしたが、果たしてこの面積と予算は妥当なのか、1500㎡でいいんじゃないかという意見が出てきたんです。でもそのテーブルの別の方が、例えばこの部屋にはこれくらいの人数が入ることが想定されるのでこれくらいの平米数が必要だ、と。図書館に関しても同じで、一つひとつ丁寧に議論して積み上げた結果、この人口だとこれくらいの規模が必要だということになっていると言って、あらためて1500㎡という数字は何を根拠に出されたのか、と聞かれました。1500㎡という意見を言われた方は図書館を狭くすると費用が7割くらいにおさえられるんじゃないかと思って言われたそうなんですが、別の方の意見も一理あると思われたんでしょう、その主張を取り下げました。

話し合われた内容を発表する際、そのテーブルの発表者が、市の財政を心配して1500㎡でもいいんじゃないかという意見が出ましたと、少数意見をきちんと紹介されたんです。このことに私はすごく感動したんですね。これぞワークショップで培われた市民力なんだと思いました。

──市民力といえば、住民の方々がステッカーをつくって、その売り上げを図書館に寄付されたとか。

市民ボランティア、「パトリシアねっとわーく」(注3)の活動です。それぞれの町のお話ボランティアの方が中心となってつくられたグループなんですが、図書館建設の際お金がないと言っていたら、ステッカーをつくって200円で販売してくれました。その売り上げ金40万円を図書館に寄付していただいたんです。

それとは別にもう一つ、図書館整備前に議会に陳情などされていた「ライブラリーの会」という団体がありました。図書館開館後、「ライブラリーの会」は発展的解消をして、「パトリシアねっとわーく」と一緒になり、現在、子どもたちの読書支援やおはなし会を開催したり、図書館で子ども向けのイベントをするときに企画を出していただいたり、運営を手伝ってもらったりしています。

──開館されてから1年半が経ちます。現在職員は何人いらっしゃるんですか?

私を入れて正規職員6名と臨時職員5名です。職種としては司書が私を入れて10名で、学芸員が1名という構成です。

──指定管理者制度を選択される図書館が目立つなか、公設公営方式を取られました。

これに関しては武久市長の思いが大きいので、市長の考えを述べますと、まちづくりは人づくりである。そしてその拠点となるのは自発的にいろいろなものに気付けたり学んだりできる図書館である、と。中長期的な人づくりは来館者や図書の貸出冊数といった定量化できる指標を超えたところにあるもので、指定管理者制度(注4)など契約を基本とするシステムのもとでは困難だ。そういうわけで、図書館建設からマネジメントに至るまで、瀬戸内市では直接雇用の職員で行なう「公設公営方式」を選択されたのです。


(注1)《(和) biblio-(本の意の接頭語)+battle(戦い)》参加者同士で本を紹介し合い、もっとも読みたいと思う本を投票で決める催し。平成19年(2007)谷口忠大によって考案され、京都大学で行われたのが始まり。(「デジタル大辞泉」)

(注2)日本図書館協会「公立図書館の任務と目標」に示されている「図書館システム整備のための数値基準」では、[延床面積]を人口6,900人未満1,080㎡を最低とし、人口18,100人までは1人につき0.05㎡、46,300人までは1人につき0.05㎡、152,200人までは1人につき0.03㎡、379,800人までは1人につき0.02㎡を加算する、としている。

(注3)絵本『わたしのとくべつな場所』の著者、パトリシア・C・マキサックの名前にちなむ。人種差別が残る1950年代のアメリカではだれでも自由に入ることができる図書館が、黒人少女パトリシアの特別な場所だった。この物語に感銘を受け、図書館という特別な場所がいつまでも人生を豊かにするものとして存在し発展するようにと願い、命名された。

(注4)地方公共団体が設置する文化施設などの公の施設の管理,運営を株式会社やNPOを含む民間事業者に行わせることができる制度.指定管理者の指定は自治体の長が条例で定め,許可を与える.(「図書館情報学用語辞典 第4版」)

(つづく)


図書館を訪れたのは8月のお盆前。嶋田館長は取材後、オリーブの庭に水をまかれていた。

瀬戸内市民図書館 もみわ広場

「持ち寄り・見つけ・分け合う」をメインコンセプトに、瀬戸内海を望む岡山県瀬戸内市に2016(平成28)年6月にオープン。瀬戸内市出身の糸操り人形師・竹田喜之助を顕彰するギャラリーや郷土資料の展示スペース「せとうち発見の道」も併せ持つ多機能型図書館。開館に向けて6年間、ワークショップを開催するなど市民とともにすすめた整備計画、幼児や高齢者のための移動図書館サービスや郷土資料の展示など、これからの公共図書館の在り方のモデルを示したと高く評価され、2017年度ライブラリー・オブ・ザ・イヤー大賞を受賞。

住所 〒701-4221 岡山県瀬戸内市邑久町尾張465-1
TEL 0869-24-8900
URL https://lib.city.setouchi.lg.jp/
E-mail tosho@city.setouchi.lg.jp
開館時間 火・水・土・日・祝日は10:00~18:00、木・金10:00~19:00
※休館日は月曜日(ハッピーマンデーを含む)、祝日(ハッピーマンデーを除く)直後の平日、毎週最終水曜日(祝日の時は前週水曜日)、年末年始、特別整理期間
利用できるひと 瀬戸内市在住・在勤・在学者は館外貸出可能
蔵書数 約20万冊
閲覧席数 200席
面積 2384.19㎡
開館年月 2016年6月


パトリシアねっとわーくが図書館のためにつくったステッカー。~We Love としょかん~と書かれている。


図書館のイメージビジュアルを担当したのは版画家でイラストレーターのイオクサツキさん。イラスト入りオリジナルグッズはカウンターで販売。


ゆったりとした1階サービスカウンター。


2階から見た1階の郷土資料展示「せとうち発見の道」。全面ガラス窓で開放感たっぷり。


同じく2階より入口付近、交流の庭に面したカフェスペース、閲覧席を見下ろす。丸テーブルのカフェスペースでは飲食OK。


2階の閲覧席。図書館のアートディレクションを担当した、黒田武志さんによるさりげない案内サインが目を引く。


窓際の閲覧スペース。奥まった空間だからこそ、一人、心落ち着けて本が読める。


北の庭に面した、1階読書テラス。居心地のよいウッドデッキ。


入口を入ったところには大きなガラス窓。靴を脱いでくつろげる空間が広がる。


一年中ピクニック気分が味わえる、オリーブの庭。市のシンボルツリー、オリーブは四隅に植えられている。


図書館と中央公民館は同じ敷地にある。ロゴマークは案内サインと同様、アートディレクションを担当した黒田さんが製作。


昔、この敷地には小学校があったそう。邑久出身の画家竹久夢二はここで学んだ。

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