第338回
2016年11月07日
「これより来期の販売セサクをご報告いたします」
社内会議で、販売担当の人間がそう切り出したとき、思わず顔をあげて発言者の顔を見てしまった。と言っても、これから発表するという「販売セサク」の内容が何か、早く知りたいと思ったわけではない。「セサク」という語に思わず反応してしまったのである。辞典編集者は、マーケティングのことを何も考えていないのかとおしかりを受けそうであるが。
「セサク」は、もちろん漢字で書けば「施策」であることはわかる。しかし、「施策」の本来の読みは「シサク」で、「セサク」は従来なかった読み方なのである。ところが、販売部の社員が普通に使ったということは、会社の中でもかなり広まっているのではないかと気になってきた。
「施策」とは、政治家、行政機関などが、計画を実地に行うことや、その計画のことをいう。「施策」を「シサク」と読むのは、どちらも漢音なので問題はないのだが、「セサク」だと「セ」は「施」の呉音だから、呉音と漢音が混ざった読み方になってしまう。
「セサク」の読みがいつごろから広まったのかはっきりしたことはわからないのだが、文化庁が2003年(平成15年)に実施した「国語に関する世論調査」では、シサク 67.6% セサク 26.1%という結果が出ている。この調査によるとなぜか男性は年齢層が上になるにつれ「セサク」が増える傾向にある。この調査から10年以上も経っているので現在はどのような状況にあるのかはっきりしないが、「セサク」と読んでいる人の割合が減っているとは思えない。
国語辞典での扱いはまちまちで、主な辞典は以下のようになっている。
『明鏡国語辞典』『岩波国語辞典』『広辞苑』:セサク は空見出し
『現代国語例解辞典』『新選国語辞典』『大辞泉』『大辞林』:セサクは空見出しもない
ただし、『三省堂現代新国語辞典』には、「行政関係者は「セサク」と言う」という注記がある。また、『三省堂国語辞典』は先鋭的で、「シサク」が空見出し、「セサク」が特に注記もなく本項目にして、他の辞書とは違う判断をしている。
NHKは、『NHK ことばのハンドブック』によると、「セサク」は使わないとしている。
なお、この「施策」と同様の語に「施行」があり、この語にも「シコウ」「セコウ」という2つの読みがある。一般的には「シコウ」だが、法律関係では「セコウ」と読む。これは「執行(しっこう)」と区別するためといわれる。だが、この語もまたテレビ・ラジオはセコウではなくシコウと読むようにしている。
大事な会議のときに、人が使ったことばについ反応してしまうのは褒められたことではないのだが、これも職業病なのかもしれない。
★神永曉氏、語彙・辞書研究会「辞書の未来」に登場!
「日本語、どうでしょう?」の著者、神永さんが創立25周年の語彙・辞書研究会の第50回記念シンポジウムにパネリストとして参加されます。現代の日本において国語辞書は使い手の要望に十分応えられているのか? 電子化の時代に対応した辞書のあり方とは一体どういうものなのか? シンポジウム「辞書の未来」ぜひご参加ください。
語彙・辞書研究会第50回記念シンポジウム「辞書の未来」
【第1テーマ】日本語母語話者に必要な国語辞書とは何か
[パネリスト]
小野正弘(明治大学教授)
平木靖成(岩波書店辞典編集部副部長)
【第2テーマ】紙の辞書に未来はあるか
――これからの「辞書」の形態・機能・流通等をめぐって
[パネリスト]
林 史典(聖徳大学教授)
神永 曉(小学館 出版局「辞書・デジタルリファレンス」プロデューサー)
日時 2016年11月12日(土) 13時15分~17時
会場 新宿NSビル 3階 3J会議室
参加費【一般】1,800円【学生・院生】1,200円 (会場費・予稿集代等を含む)
くわしくはこちら→http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/goijisho/50/index.html
社内会議で、販売担当の人間がそう切り出したとき、思わず顔をあげて発言者の顔を見てしまった。と言っても、これから発表するという「販売セサク」の内容が何か、早く知りたいと思ったわけではない。「セサク」という語に思わず反応してしまったのである。辞典編集者は、マーケティングのことを何も考えていないのかとおしかりを受けそうであるが。
「セサク」は、もちろん漢字で書けば「施策」であることはわかる。しかし、「施策」の本来の読みは「シサク」で、「セサク」は従来なかった読み方なのである。ところが、販売部の社員が普通に使ったということは、会社の中でもかなり広まっているのではないかと気になってきた。
「施策」とは、政治家、行政機関などが、計画を実地に行うことや、その計画のことをいう。「施策」を「シサク」と読むのは、どちらも漢音なので問題はないのだが、「セサク」だと「セ」は「施」の呉音だから、呉音と漢音が混ざった読み方になってしまう。
「セサク」の読みがいつごろから広まったのかはっきりしたことはわからないのだが、文化庁が2003年(平成15年)に実施した「国語に関する世論調査」では、シサク 67.6% セサク 26.1%という結果が出ている。この調査によるとなぜか男性は年齢層が上になるにつれ「セサク」が増える傾向にある。この調査から10年以上も経っているので現在はどのような状況にあるのかはっきりしないが、「セサク」と読んでいる人の割合が減っているとは思えない。
国語辞典での扱いはまちまちで、主な辞典は以下のようになっている。
『明鏡国語辞典』『岩波国語辞典』『広辞苑』:セサク は空見出し
『現代国語例解辞典』『新選国語辞典』『大辞泉』『大辞林』:セサクは空見出しもない
ただし、『三省堂現代新国語辞典』には、「行政関係者は「セサク」と言う」という注記がある。また、『三省堂国語辞典』は先鋭的で、「シサク」が空見出し、「セサク」が特に注記もなく本項目にして、他の辞書とは違う判断をしている。
NHKは、『NHK ことばのハンドブック』によると、「セサク」は使わないとしている。
なお、この「施策」と同様の語に「施行」があり、この語にも「シコウ」「セコウ」という2つの読みがある。一般的には「シコウ」だが、法律関係では「セコウ」と読む。これは「執行(しっこう)」と区別するためといわれる。だが、この語もまたテレビ・ラジオはセコウではなくシコウと読むようにしている。
大事な会議のときに、人が使ったことばについ反応してしまうのは褒められたことではないのだが、これも職業病なのかもしれない。
★神永曉氏、語彙・辞書研究会「辞書の未来」に登場!
「日本語、どうでしょう?」の著者、神永さんが創立25周年の語彙・辞書研究会の第50回記念シンポジウムにパネリストとして参加されます。現代の日本において国語辞書は使い手の要望に十分応えられているのか? 電子化の時代に対応した辞書のあり方とは一体どういうものなのか? シンポジウム「辞書の未来」ぜひご参加ください。
語彙・辞書研究会第50回記念シンポジウム「辞書の未来」
【第1テーマ】日本語母語話者に必要な国語辞書とは何か
[パネリスト]
小野正弘(明治大学教授)
平木靖成(岩波書店辞典編集部副部長)
【第2テーマ】紙の辞書に未来はあるか
――これからの「辞書」の形態・機能・流通等をめぐって
[パネリスト]
林 史典(聖徳大学教授)
神永 曉(小学館 出版局「辞書・デジタルリファレンス」プロデューサー)
日時 2016年11月12日(土) 13時15分~17時
会場 新宿NSビル 3階 3J会議室
参加費【一般】1,800円【学生・院生】1,200円 (会場費・予稿集代等を含む)
くわしくはこちら→http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/goijisho/50/index.html
キーワード: