~ 『数え方の辞典』収録のコラムより ~
現代の助数詞「台」は車や機械を数えますが、もともとは人や物を載せる台や台座を数えました。据え置く台はもちろんのこと、やがて荷車や牛車、人力車など、車輪のついた台も数えるようになりました。では、なぜ助数詞「台」は機械を数えるようになったのでしょうか。
明治時代の文学作品に登場する助数詞「台」を調べてみると、ほとんど台座や荷車を数えていて、機織(はたお)り機や掛け時計などを数えるのには使われていませんでした。しかし、ある時期を境にして機器を「台」で数える表現が登場します。「旧式な手刷りが1台」「オルガン1台」[田山花袋(かたい)『田舎教師』(1909)]、「卓の上に1台の顕微鏡(けんびきょう)が乗っていた」[夏目漱石(そうせき)『明暗』(1916)]などがその例です。この裏には、どうやら日本で初めて国産第1号のガソリン乗用車が製作販売されたことが関係しているようです。「自動車は、人や馬が引くのではない、機械で動く車だ!」これは当時の人々にとっては衝撃でした。機械で動く車も「台」で数えるようになり、機械の性質が「台」の意味に強い影響を与えました。このようにして、助数詞「台」の現在の用法が決まったのだと考えられます。
著者:飯田朝子(いいだあさこ)
東京都生まれ。東京女子大学、慶應義塾大学大学院を経て、1999年、東京大学人文社会系研究科言語学専門分野博士課程修了。博士(文学)取得。博士論文は『日本語主要助数詞の意味と用法』。現在は中央大学商学部教授。2004年に『数え方の辞典』(小学館)を上梓。主な著書に、『数え方もひとしお』(小学館)、『数え方でみがく日本語』(筑摩書房)など。
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