目からウロコ!数え方のナゾ

~ 『数え方の辞典』収録のコラムより ~

第13回 「10羽」は「じっぱ」が正しい?

「本(ほん)」などのh音で始まる助数詞は、前に来る数詞によって、例えば「1本(いっん)」「2本(にん)」「3本(さんん)」のようにh・p・bの3つの音形を取ります。h音で始まる助数詞の音変化を包括的に説明できる規則は無いため、日本語学習者にとっては習得が難しいとされます。

その中でも、鳥を数える「羽」の読み方はしばしば議論の的になります。国語や日本語のテストの模範解答やアナウンサーが読み上げる原稿などでは、「10羽」は「じっぱ」(もしくは「じゅうわ」)、「100羽」は「ひゃっぱ」(もしくは「ひゃくわ」)、「1000羽」は「せんば」(もしくは「せんわ」)を“正しい”ものとしています。しかし、実際に鳥を声に出して数え上げてみるとどうでしょう?1羽、2羽、3羽…10羽。気がつくと我々は「10羽」を知らず知らずのうちに「じゅっぱ」と読んでいて、よほど意識をしていないと「じっぱ」という“正しい”読み方はできません。

「羽」はもともと「は ha」で、h音の助数詞ですが、現代ではもっぱら「わ wa」となり、h音の助数詞としての認識が薄れつつあります。「羽」を「わ wa」として捉(とら)えると、例えば「1話」「2話」「3話」の「話」と同様、数に応じた音の変化は起こらず、「10羽」を「じゅうわ」と数えられます。また、「3羽」も「さんわ」とも「さんば」とも数えられますが、「さんば」は、「三羽烏(さんばがらす)」などの決まり文句で使われることが多く、「羽」をh音として捉えていた名残を示しています。加えて、現代では、数詞「10」を「ジッ」と読むという習慣は薄れつつあり、「十把(じっぱ)一絡(ひとから)げ」「十手(じって)」「十派(じっぱ)」「十傑(じっけつ)」などに限って「ジッ」と読む以外は、「じゅっ」という読み方へと移行する傾向が見られます。

「10羽」の規範的な読み方は「じっぱ」(もしくは「じゅうわ」)ですが、日常で「じゅっぱ」と読んでも間違った日本語とまではいえません。

著者:飯田朝子(いいだあさこ)

東京都生まれ。東京女子大学、慶應義塾大学大学院を経て、1999年、東京大学人文社会系研究科言語学専門分野博士課程修了。博士(文学)取得。博士論文は『日本語主要助数詞の意味と用法』。現在は中央大学商学部教授。2004年に『数え方の辞典』(小学館)を上梓。主な著書に、『数え方もひとしお』(小学館)、『数え方でみがく日本語』(筑摩書房)など。

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