~ 『数え方の辞典』収録のコラムより ~
大相撲の中には数え方を使った独特の表現があります。例えば、力士の体形を評して「一枚あばら」と言います。これは胸から胴にかけて、あたかも肋骨が1枚の板であるかのように厚みがある体形のことで、力士の理想とされました。押しや投げをこらえる強靭な腰を「二枚腰(にまいごし)」と言いますが、腰付きがまるで二重になっているかのようだという意味です。
両者の4本の腕が差し合っている状態を「四つ」と言います。まわしを取っても取らなくてもいいのですが、まわしを引き合うと「がっぷり四つ」と言い、長い相撲が展開されます。両者の右腕が下手(したて)なら「右四つ」、左腕が下手なら「左四つ」。一方の力士の腕が2本とも相手の両脇の下に差し込まれると「2本入る/差す」または「両差(もろざ)し」と言います。
珍しい技にも数え方が登場します。相手の膝の外側に足をかけて払い上げながら投げる技を「二丁投げ」と言います。「丁」は足のことですが、おそらく勝負が決まる瞬間、投げられたほうの両足が相手に対して直角に持ち上がり、「丁」の字のように見えることにも由来しているのでしょう。「二枚蹴(にまいげ)り」とは、相手の足首を外側から蹴りながら出し投げを打つ大技で、両膝から足首にかけての外側の部分を「枚」で表しています。
“技のデパート”との異名をとった舞の海の決まり手に「三所(みところ)攻め」というものがありました。これは足掛け、足取り、押しの3つの技で相手の両足と胸を攻めます。また、舞の海はしばしば立合いで「八艘(はっそう)飛び」を見せましたが、これは相手の出足を封じながら右また左に大きく跳び、後ろまわしを取りに行く難技。足の裏を土俵から離さないことを信条とする相撲において、あえて飛び上がるということは8艘の船をも飛び越えるほどの奇想天外な技であることがうかがえます。
著者:飯田朝子(いいだあさこ)
東京都生まれ。東京女子大学、慶應義塾大学大学院を経て、1999年、東京大学人文社会系研究科言語学専門分野博士課程修了。博士(文学)取得。博士論文は『日本語主要助数詞の意味と用法』。現在は中央大学商学部教授。2004年に『数え方の辞典』(小学館)を上梓。主な著書に、『数え方もひとしお』(小学館)、『数え方でみがく日本語』(筑摩書房)など。
ジャパンナレッジは約1900冊以上(総額850万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。
(2024年5月時点)
▼ すべて表示する