目からウロコ!数え方のナゾ

~ 『数え方の辞典』収録のコラムより ~

特別編10 「か国語」はもう古い? 言語の数え方

「2か国語放送」「3か国語で書かれた説明書」のように、使用言語の数を示す際、「か国語」という数え方を用います。また「10か国語を教える学校」のように語学学校で用意されている授業内容について示す場合にも「か国語」が用いられます。個人の言語運用能力についてもしばしば「3か国語が話せる」のように言いますが、「か国語」は主要な外国語を指すという暗黙の了解があり、例えば「私はスンバワ語とケチュア語、エチオピア語の3か国語が話せます」と言うと不自然な感じがします。「3か国語話せる」となれば日本語と英語に加え、大学の第2外国語の授業で学ぶ言語の組み合わせを期待させてしまうからです。

「か国語」という言語の数え方が定着した背景には、1つの国に1つの言語という認識が当時あったからと言えるでしょう。日本に外国語が本格的に入ってきたのは明治以降ですから、当時は国の数イコール言語の数。英語と言えば英吉利国の、ドイツ語と言えば独逸国の、そしてフランス語なら仏蘭西国のそれぞれのことばだったわけです。しかし、今日では英語はアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドをはじめ、世界のさまざまな国や地域で使われている国際語です。統計によると、現在世界では約29億5400万人の人が英語を主要言語として使っているそうです。インターネット上の情報の約7割は英語で書かれていますので、もはや「1国=1言語」の枠組みは時代に合わなくなってしまっていると言えます。

一方で、同じ国の中でも複数の言語を併用したり、他民族国家では地域によって使われる言語が異なったりすることが増えました。そのような場合は、「か国語」と数えるのではなく、「この地域では20言語が使用されている」「2言語併記の標識」のように「言語」で数えます。

著者:飯田朝子(いいだあさこ)

東京都生まれ。東京女子大学、慶應義塾大学大学院を経て、1999年、東京大学人文社会系研究科言語学専門分野博士課程修了。博士(文学)取得。博士論文は『日本語主要助数詞の意味と用法』。現在は中央大学商学部教授。2004年に『数え方の辞典』(小学館)を上梓。主な著書に、『数え方もひとしお』(小学館)、『数え方でみがく日本語』(筑摩書房)など。

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