目からウロコ!数え方のナゾ

~ 『数え方の辞典』収録のコラムより ~

第9回 「1かん」は歴史の浅い数え方

(すし)を数える「かん」は、最近になって生まれた数え方です。握り鮨が誕生した江戸時代からあるのかと思いきや、当時の書物を調べても「一ツ」「一箇(いっこ)」は登場しますが、「1かん」の記述は見当たりません。明治・大正時代になっても変化はなく、志賀直哉の小説『小僧の神様』(1919)でも握り鮨は「一つ」と数えています。

では、いつから「かん」が使われるようになったのでしょうか。『改訂食品事典』(1974)によると、昭和時代、仕上げた料理を2個盛り付けることを料理人の間で「にかん盛り」と言うようになり、「かん」を「個」の意味で使ったとあります。「個(か)」がなまって「かん」になったとする説も。(『丸善 単位の辞典』(2002))その後、1990年代のグルメブームに乗じて雑誌に鮨店が頻繁に紹介されました。その時に鮨職人が「1かん」を使うのを聞いた記者が、握り鮨専用の数え方かのように記したために一気に普及したようです。「貫」という漢字を使うのは当て字。筆者が調べたところ、老舗(しにせ)の鮨屋では漢字を使わず「かん」「カン」と記しています。

「1かん」注文すると鮨が何個出てくるのか議論がありますが、基本的には「1かん」は「1個」を指します。

著者:飯田朝子(いいだあさこ)

東京都生まれ。東京女子大学、慶應義塾大学大学院を経て、1999年、東京大学人文社会系研究科言語学専門分野博士課程修了。博士(文学)取得。博士論文は『日本語主要助数詞の意味と用法』。現在は中央大学商学部教授。2004年に『数え方の辞典』(小学館)を上梓。主な著書に、『数え方もひとしお』(小学館)、『数え方でみがく日本語』(筑摩書房)など。

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