目からウロコ!数え方のナゾ

~ 『数え方の辞典』収録のコラムより ~

第12回 「匹」と「頭」の意外なルーツ

「匹」という漢字は、ふたつのものが対(つい)になっているものを表します。例えば、織物2反で「1匹」と数えたり、「匹敵」といえば、2つのものが互角であることを表します。なぜ動物を数えるのに対になっているものを表す「匹」を使うのでしょうか。

昔、人間にとって最も身近で生活に欠かせない動物(家畜)は馬でした。荷車を引かせたり、農耕をさせたり、人間はいつも馬の背後からその姿を見てきました。当然、馬の尻を見つめる機会も多かったため、馬の尻(しり)が2つに割れていることがイメージとして強く焼きつき、2つに割れた尻の対を持つもの、そして綱(つな)に繋(つな)いで“引く”動物、という意味ともあわせ、馬を「匹」で数えました。『源氏物語』や『今昔物語集』にも馬を「匹」で数える用例が見られます。そこから、「匹」は馬だけでなく、広く生き物を数えるのに用いられるようになりました。

一方、大形の動物を数える「頭」の歴史は意外にも浅く、夏目漱石(そうせき)の時代にはまだ一般には使われていませんでした。早くても明治末期から、英語の影響を受けたからだと考えられます。西洋では放牧に出した牛の数が減っていないかを確かめるために、頭数(あたまかず)を確認することから、牛は"head"で数え、それがやがて大形の家畜一般の数え方となりました。20世紀に入り、西洋の動物学などの論文で"head"と書かれた部分が「頭」と日本語に直訳されました。それを読んだ日本人が、馬や牛のような大形の家畜が「頭」で数えるのなら、当然、他の大形の動物も「頭」で数えるべきだと考え、今日(こんにち)の「頭」の数え方が定着していったと考えられています。その影響で、かつては馬を数えた「匹」は、「頭」では数えられない動物を数える際に使われるように、意味の分化が起こったのです。

著者:飯田朝子(いいだあさこ)

東京都生まれ。東京女子大学、慶應義塾大学大学院を経て、1999年、東京大学人文社会系研究科言語学専門分野博士課程修了。博士(文学)取得。博士論文は『日本語主要助数詞の意味と用法』。現在は中央大学商学部教授。2004年に『数え方の辞典』(小学館)を上梓。主な著書に、『数え方もひとしお』(小学館)、『数え方でみがく日本語』(筑摩書房)など。

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