ウェブスケールディスカバリー第一人者である、飯野さん。佛教大学図書館専門員として京都で働いていらっしゃいます。今回は図書館員になった経緯、ふだんのお仕事、そして飯野さんが思い描く図書館員としての夢についてうかがいました。
仕事は、佛教大学図書館のウェブスケールディスカバリーである「お気軽検索」のカスタマイズやウェブサイトの設計、デジタルアーカイブや機関リポジトリの構築と管理、利用者ガイダンスなどが中心です。とはいえ、お気軽検索については、ベースとなっている製品、すなわちSummonのバージョンが2.0になったこともあり、多少扱いが難しくなりました。
あとは図書館におけるさまざまな情報機器やシステム、サーバなどの管理でしょうか。そのほか、電子ジャーナルやデータベースの契約・購入の手配や、司書課程の授業を担当したりしています。
本には盛り込めなかったのですが、2015年4月より佛教大学図書館の新しいポータルサイトBIRDの運用を開始しました。Bukkyo university library's Information & Research Databasesの頭文字をとってBIRDと名づけました。
1972年生まれ。京都大学大学院文学研究科修士課程修了。鉄道会社、国立大学図書館などの勤務を経て、2004年10月より現職。専門は図書館ウェブサービス、学術情報データベース、学術情報流通等。2011年4 月、日本の図書館として初めて、ウェブスケールディスカバリーサービス(Summon)を公開。
写真/松島吉和
今回のポイントは、ウェブスケールディスカバリーとOPAC、そしてBIRDとの間でデザイン的な統一性を高めた点にあります。それぞれのウェブサービスのデザインを似せたことで、URLリンクを介したサイト間の移動が発生しても、違和感が軽減できるように配慮したほか、ウェブスケールディスカバリーとOPACがあくまでもBIRDの一部分、すなわち“a part of BIRD”であることの意識づけが自然に行なえるようにしました。
これは図書館としてはBIRDがウェブサービスのトップであり、ウェブスケールディスカバリーもOPACも、ひいては電子ジャーナルやデータベースのサイトも、均しくその下に位置する存在であることを明確にしたいと考えたからです。
正直なところ、ウェブスケールディスカバリーでは検索できないデータベースなども未だに存在しています。BIRDをトップとして位置づけることで、そういったデータベースが目に触れる可能性が高くなる。また図書館の広報的な情報をBIRDから周知させることで、より効率的に行なえるようになる。そんな意図がありました。
また長年の懸案であった図書館ポータルサイトの“無駄に長い”URLをhttp://bird.bukkyo-u.ac.jp/という、覚えやすくシンプルなものに変更できたことも良かったと点だと思います。
民間企業から図書館員に転身しましたが、正直なところ、確固たる思いが最初にあったわけではないのです。何と言いますか、偶然の積み重ねで図書館員になったというのが本当のところです。
もともと「モノ」や「ヒト」の流れに興味があって、民間企業でそれに関わる職につきました。この職は非常に楽しかったのですが、いざ仕事を始めてみると、職場においてさまざまなデジタルネットワークの存在を急激に意識するようにもなりました。
デジタルネットワークは実体のある「モノ」や「ヒト」とは異なりますが、さまざまな情報が行きかう世界です。はっきりとしたイメージは持っていませんでしたが、そういった世界の「流れ」という点で、自分の興味と合致し、実に魅力的に感じられるようになってきたのです。
しかもこの時期、一般家庭でもインターネットの利用が急速な拡大を遂げており、自分の周りの情報流通環境も、目に見えて発展するようになりました。
かくしてIT関連の仕事に転職するのも悪くはないと思い転職を模索したのですが、現実は厳しく、なかなか思うような仕事は見つかりませんでした。
そんな折、偶然にも研究室の先輩から図書館で働くという道を紹介され、恐る恐る足を踏み入れてみたところ、それが存外に面白い。人間万事塞翁が馬。以来、紆余曲折を経つつも、図書館員として何とかやっているというのが、転身の実情です。
図書館員は地味な仕事だというイメージがありましたが、さまざまなウェブサイトやデジタルアーカイブ、ウェブスケールディスカバリーを扱い、さらには海外の図書館員と交流を深めることで、自分の仕事が世界と密接につながっているという実感を得ることができました。大学図書館員は決して目立たないけれど、世界的な学術ネットワークの中で、科学や技術の発展に多少なりとも寄与できる存在だということ、そして幸運にもその一角を占めることができたということに誇りというか、喜びを感じます。
もっとも苦労したことは、やはりウェブスケールディスカバリー導入の最初の数年、さまざまな不具合と向き合ったことだったと思います。海外ベンダーとの感覚の違いは、一面興味深くもあり、その反面しんどさをもたらすという何とも言えないものでしたから。
究極的には、日本全国に蓄積されているあらゆる学術情報が、効率的に見つけ出せる環境が生まれたら最高だろうなと思います。少なくとも、戦後に日本で出版されたあらゆる図書や雑誌の目次情報や抄録などがメタデータとして検索できる環境が生み出せれば、実に面白い。利用者が本当に必要とするであろう情報を、簡単に、しかも短時間で利用者の手元に届けることのできるような環境が作れれば、理想的です。
やがて自動翻訳の技術が進歩すれば、こういった日本語のメタデータによって導かれた図書や論文が、国境をまたいで大量に行き来する時代が来るかもしれません。そんな日を楽しみに夢想しています。
2016-06-20
『図書館変える!ウェブスケールディスカバリー入門』(ジャパンナレッジライブラリアンシリーズ)
定価:3000円(税別)
発行:ネットアドバンス 発売:出版ニュース社
いろいろなサイトの論文や図書をGoogle のように探せたらいいのに──日本のウェブスケールディスカバリー第一人者がおくる、初めての入門書。自身の「日本化」の体験記を軸に、ウェブスケールディスカバリーの基礎知識、図書館におけるクラウドサービスやビッグデータの活用、そして日本の図書館、図書館員のこれからについても解説します。
chapter1 はじめに
chapter2 ウェブスケールディスカバリーの基礎知識
chapter3 ウェブスケールディスカバリー前夜
chapter4 ウェブスケールディスカバリー「日本化」を目指して
chapter5 ウェブスケールディスカバリーが教えてくれたこと
chapter6 ウェブスケールディスカバリー、その先へ
chapter7 おわりに