いま、大学図書館では「学習支援」が注目されています。「ラーニングコモンズってどうつくればいいの?」「アクティブラーニングって図書館員は何をすればいいの?」──そんな困惑を覚えている図書館員の方々に少しでも参考にしていただきたいと、このたび大学図書館界の学習支援におけるトップランナー、東北大学図書館員の米澤誠さんに連載記事を執筆していただくことになりました。まず連載スタートの前に「VOICE」でお話をうかがいます。米澤さんは、なぜ図書館員になられたのか? 3回シリーズでお届けする1回目。
いま私は、東北大学の図書館で管理職をしています。初めての勤務先も東北大学で、ほかにNII(国立情報学研究所)、山形大学にも在籍していました。これらの本務以外に、兼務している仕事もあります。
秋田県生まれ。図書館情報大学(現・筑波大学)図書館情報学修了後、東北大学附属図書館に勤務。NII(国立情報学研究所)、山形大学附属図書館などを経て、2011年より東北大学附属図書館に復帰。現在、図書館事務部長。NPO法人大学図書館支援機構理事であり、八洲学園大学では非常勤講師として情報リテラシーを教えている。ライティング教育、アクティブラーニング、学習環境デザインが研究テーマで論文を発表している。
写真/五十嵐美弥
一つは、八洲学園大学での非常勤講師で、これは10年来続けています。八洲学園は、主に通信教育で司書をはじめとする資格が取れるので、社会人学生が多いですね。「情報リテラシー」という科目を担当しており、情報の活用から考え方、書き方まで教えています。
もう一つはNPO法人の大学図書館支援機構というところの理事で、こちらでは大学図書館員のリテラシーの育成、スキルアップを目指すために、研修や認定試験などの活動をしています。
図書館員になった要因は、やはり「本が好きだから」でしょうか。小学生の頃から本を読むことが好きでした。よく読んでいたのは純文学ではなくて、SFとかミステリーなのですけれども。中学・高校では創元推理文庫やハヤカワミステリーを片っ端から読んでいました。それらを取りそろえること自体も好きで、小遣いはすべて本に変わっていました。
本が好きなだけでは図書館員にはなれないよと、よく言われるし、我々もよく言います。けれども、本が嫌いだったらよい図書館員にはなれないと思います。図書館員を目指す人は、バカにされようが本が好きということを隠さないでほしいと思いますね。
大学では哲学を専攻し、卒業論文のテーマはプラトンでした。そのとき指導教授から、「文献が第一」ということを徹底的に教え込まれました。原典にあたって翻訳したり、研究書を読んで参考にしたり……体系的に学んだとは言えませんが、この時の経験があったからこそ「情報リテラシー」の基礎が身についたのだと思います。
また大学では幸運なことに、学部生のうちから研究室に入り浸ることができました。研究室には専門書がずらりと壁一面に並んでいて、そういう環境で毎日勉強できたのは、いま思うと恵まれていたと思います。授業が終わったら研究室に行って、まず居座る。静かに勉強してもいいし、そこにいる仲間と議論してもいいし、本をじっくり読んでもいい……まさにラーニングコモンズっぽいですよね。そして夜になったら、仲間と飲みに行くことも楽しみでした。
図書館員になりたいと思ったのは大学生の後半。ちょうど大学を卒業する年に、図書館情報大学(現・筑波大学図書館情報専門学群及び図書館情報メディア研究科)に専攻科というものができた時でした。この専攻科で1年勉強して司書資格をとり、そして公務員試験を受けて大学図書館員になりました。
図書館員を目指したのには、次のようなきっかけもありました──フランスの哲学者の生涯などをみると、リセ(高校)の図書館員の影響が大きいのですね。図書館員の学問的サジェスチョンにより哲学を志したとか、大学の教員を志したとかいう話を本でよく読んだのですね。私の好きなアルベール・カミュも、リセの図書館員から大きな影響を受けたそうです。教員ではなく、図書館の人間が何らかの形で影響を与える……ああ、そういう生き方もあるのか。自分自身が研究したり、教えたりして学術に貢献しなくても、傍らでサポートするという生き方もあるのだなと、自分もそういう役割ができないかなと思い、図書館員を目指したのです。
若い人たちに色々な知的出会いや刺激を与える図書館員になりたい──私が長年学習支援に取り組んできたのは、そういう思いがあるからだと思います。
2016-10-31