VOICE

サンキュータツオさん 漫才師、日本語学者
国語辞典を愛してやまない学者芸人

サンキュータツオさんはいくつもの“顔”を持っています。漫才コンビ「米粒写経」のツッコミ、大学の非常勤講師、日本語学者、『広辞苑』第七版の執筆者、「渋谷らくご」キュレーター……。多芸多才なサンキュータツオさんですが、もうひとつの顔が“国語辞典コレクター兼国語辞典研究者”。そんなサンキュータツオさんが考える国語辞典の未来とは? 3回にわたってお届けします。

お笑い芸人と国語学者は両立するのか?

サンキュータツオ

サンキュータツオさん

1976年東京都生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。現在、一ツ橋大学、早稲田大学、成城大学で非常勤講師を務める。早稲田大学の落語研究会時代に先輩の居島一平(おりしま・いっぺい)と漫才コンビ「米粒写経(こめつぶしゃきょう)」を結成し今に至る。史上初の学者芸人。『広辞苑』の第七版では、サブカルチャー分野を担当した。著書に『学校では教えてくれない! 国語辞典の遊び方』、『ヘンな論文』(以上、角川文庫)、共著に『ボクたちのBL論』(河出文庫)などがある。
米粒写経 公式web http://kometsubu.com/
サンキュータツオ 公式ブログ http://39tatsuo.jugem.jp/

取材・文/角山祥道 写真/武藤奈緒美

 「サンキュータツオさんの肩書きって何ですか?」

 よくこんな質問をされるのですが、「どうぞお好きなように」と答えています。

 本当は、お笑いならお笑いに特化して「お笑いしかやらない」と決めたほうが、シンプルで受け入れられやすいのですが、これまで自分の興味のあることをやってきたらこうなってしまった、というのが正しいので、今さら絞りようがありません。

 とはいえ、40歳を超え、すでに人生の折り返し地点。時間は有限ですので、これ以上、手を広げられません。そこで先日、「ここ20数年続けていて、さらにこれからも関わっていきたいこと」を整理してみました。

①漫才をする ②国語辞典を読む ③本を読む ④落語を聞く ⑤自分の研究(日本語のお笑い)をする ⑥人の論文を読む ⑦NBAを観る ⑧横浜ベイスターズを追いかける ⑨自転車競技を観る ⑩街のタイルを観察する ⑪アニメを観る

 これまでラインアップされていた「傘を集める」など、いくつかを整理して全体数を減らしたのですが、それでも10を超えてしまいましたね。

 そもそも、「お笑い」が気になる少年でした。それも、「なぜここでウケるのか」ということがひどく気になりました。手品にタネがあるように、漫才にもなにか仕掛けがあると考えたのです。早稲田大学の第一文学部文学科文芸専修に進んだことで、より「ことばの力」に興味が移っていったのでしょう。

 たとえば「料理」が好きだとします。

 料理というのはなかなか深い対象で、本当に好きであるならば、食べること、作ること、物として見ること、料理について考えることなどが、実は不可分です。食べることが好きな人が、そのうちに自分で作るようになったり、その料理の歴史や文化を調べてみようとしたりすることは珍しいことではありません。

 「お笑い」というジャンルもそうです。私にとっては、お笑いについて考えること、見ること、やること……それらはひとつに繋がっています。大学の落研の先輩(居島一平)から「一緒に漫才をやろう」と言われた時に、断る理由はありませんでした。

 舞台にあがることは、私にとっては研究の機会でもあるんです。「どこでウケたのか」という生の研究データが収集できるのですから。

テレビに依存しない生き方を模索したい

 お笑いとしてバリバリに売れたい、という気持ちを持っていないのかもしれませんね。既存のお笑いタレントの在り方だと、売れるにはテレビで活躍する必要がありますが、テレビではプロデューサーからこんなふうに指示されます。

 「中学1年生でもわかるようにしてください」

 それができる人はそうすればいいのですが、みんながここを目指してしまうとお笑いができることは狭くなります。

 たとえばこんなネタはできなくなります。

 看護師同士の会話です。

 「あの男の患者さん、アソコに刺青してるのよ」
 「何が彫ってあったんですか?」
 「“アダム”って文字よ。あんたも見てきなさいよ。珍しいから」
  見て戻ってきた看護師に、どうだったかと聞くと、
 「“アムステルダム”って彫ってありましたけど」

 ここではあえて説明しませんが、考えなければわからないオチです。理解に「思考」や「知識」が必要だからです。こういう笑いはテレビではできません。しかし、こうした推論をさせるお笑いを排除していいものか。そうではないだろうと、私は思います。できればそこを狙っていきたい。

 結局のところ、お笑いも「日本語の表現」の問題に行き着くのですが、この地続きのところに、国語辞典や本、論文への興味もあるのです。

(つづく)

2019-10-15

INFORMATION

学校では教えてくれない! 国語辞典の遊び方

『学校では教えてくれない! 国語辞典の遊び方』

サンキュータツオ 著

定価:640円(税別)

出版社:KADOKAWA(角川文庫)

芸人ならではの切り口で、代表的な国語辞典を例にとりながら、語数、品詞、デザイン、歴史、用例、語釈などから辞書の魅力を多面的に紹介。あなたの知らないディープな辞書の魅力がここに!


目次
この本に登場する主な辞書
自分だけの一冊がわかる!? オススメ辞書占い
はじめに
第一章 広くて深い辞書の世界をナビゲート
1.国語辞典は、みんなちがう!
2.国語辞典のルーツ
3.辞書の中にもブランドがある
4.国語辞典は二冊持つ時代
5.なぜ、こんなに多様化したのか?
6.忘れちゃいけない文法問題
7.辞書のディテールを楽しむ
第二章 タツオセレクト! オススメ辞書ガイド
1.キャラクターで解説! 個性派辞書図鑑
2.まだまだある! 紹介したかった「国語辞典」たち
3.タツオオススメ「辞書関連本」
ことばのぬまのおくがき

飯野勝則さん 佛教大学図書館専門員
日本のウェブスケールディスカバリーのパイオニア

丸島和洋さん 歴史学者
大河ドラマ『真田丸』の若き時代考証者

ニコリ パズル制作会社
とことん遊び尽くす、学び尽くすパズルカンパニー

米澤 誠さん 東北大学附属図書館員
学習支援のトップランナー

石川芳立さん 新潮社 校閲部
“校閲は著者のためにある”を体現する校閲者

東雅夫さん アンソロジスト
幻想文学の傑作を届ける水先案内人

ショウワノート 文具メーカー
学習帳業界のトップランナー

大橋崇行さん 東海学園大学准教授、作家
司書の世界(お仕事)を小説で伝える

喜多あおいさん リサーチャー
テレビを支える情報収集のプロフェッショナル

編集工学研究所 企画開発・研究・教育事業
編集力で世の中を変えていく

サンキュータツオさん 漫才師、日本語学者
国語辞典を愛してやまない学者芸人