編集工学研究所は、「本」を活用したさまざまなプロジェクトも手がけています。「BOOKWARE(ブックウェア)」と呼ばれる試みですが、大学図書館や企業ライブラリーといった「本のある空間」をプロデュースしています。編集工学研究所の考える “本”と“読書”とは? 安藤昭子さんと佐々木千佳さんにお話をうかがう最終回。
株式会社 編集工学研究所
人類のあらゆる営みに潜む「編集」の仕組みを明らかにし、新たな価値を生み出す技術「編集工学」。その方法論を提唱した編集者の松岡正剛氏が、情報化社会に突入していく1987年に創設。「ルーツ・エディティング」「コンセプト・エディティング」「エデュケーション」「クリエーション」などを事業領域とし、内閣府などの官公庁、近畿大学や理化学研究所などの学術機関、リクルートHDやLINE、資生堂などの民間企業といったさまざまな組織と、企画・開発プロジェクトを手掛ける。社員数は15名。運営しているイシス編集学校の卒業生は3万人を超える。
取材・文/角山祥道 写真/五十嵐美弥
――「本のある空間」とは、具体的にどういうことでしょう?
安藤 今日、豪徳寺(東京都)にある編集工学研究所に来ていただいていますが、この空間を見て何を感じられましたか? ここは「本楼(ほんろう)」と言って、松岡正剛と編集工学研究所の蔵書を配したブックサロンスペースです。ここだけで約2万冊の本があり、イベントなども行なえるようになっていますが、本に囲まれるというのは、なにか特別な感覚を人に与えるようですね。いらしてくださる方々はよく「ここに住みたい」などとおっしゃいます。イシス編集学校の集まりもここで行なわれます。
佐々木 実は「本楼」の本の並び自体が、「編集」なんです。詩歌集のコーナーもあれば、ヤクザや裏社会など日本の深層を描いた本を集めた棚もあります。どう並べるかで、思考のつながりも変わってきます。また時に応じて、並んでいる本を見て新たな関係性を再発見することもあります。
安藤 2017年3月にオープンした近畿大学の図書館「ビブリオシアター」(詳細はこちら→「図書館員が気になる図書館」近畿大学 アカデミックシアター) は、松岡正剛が総合監修をし、編集工学研究所が企画から空間プロデュース・選書・配架デザインまでを手がけたものです。大学の中央図書館の新しい施設で、1階は「NOAH(ノア)33」と称し、33のテーマごとに、計3万冊の本を開架にしています。2階は「DONDEN(ドンデン)」。マンガ2万冊を中心に、新書・文庫をあわせて4万冊を配架。本棚のデザインや空間の設計から本のセレクトと配置まで、大学生が気軽に知の世界に迷い込めるような仕掛けをつくりました。
佐々木 街中で目にしていただける例としては、「MUJI BOOKS」というプロジェクトがあります。これは、無印良品とコラボしたもので、全国のMUJIショップの中で、書店コーナーを展開しています。「素」を大事にしてきた無印良品と、「素の言葉」の宝庫である本の親和性に着目したプロジェクトです。無印良品の商品とともに、「MUJIらしい」本が並んでいます。現在は、渋谷や恵比寿、京都や大阪、仙台や博多など、国内外20以上の店舗で展開しています。
また、高校生に向けて、オンライン上で本との出会いを創出するサービス「スタディサプリLIBRARY」など、空間以外のプロデュースも始まっています。こうした編集プロジェクトでは、イシス編集学校の師範代にも活躍していただいています。
――そもそも「本の読み方がわからない」という声も聞きます。
安藤 編集工学研究所では、企業研修も行なっているのですが、「読書」に関する講義やワークショップのご要望が多くあります。娯楽としての読書は自由なスタイルで楽しめばよいのですが、読書によって思索を深めたり前に進めたりしたいときには、その扱い方にちょっとしたコツがあります。
では少しここで、その講義の一端を紹介しますね。まず本を手に取ってもらい、表紙だけ見て、すぐに目を閉じます。「タイトルと作者は?」と尋ねると、案外思い出せません。そこでもう一度表紙を見ていただくと、空白になった頭の中のスペースにすっと情報が入ってきます。この「伏せて開ける」効果をうまく生かしながら、本文も読み進んでいきます。いきなり本文に入らずに最初に目次に目を通します。この時も、目次を見ては目をつぶり、答え合わせをするようにまた目次を見る、といった段取りを踏みます。
目次は、一冊の書物の大事な箇所を示してくれる地図のようなものです。頭の中に地図をインプットして本を読むと、情報の捉え方、スピードが変わっていきます。漠然と読み始めていたところを、ちょっと意図して頭の中に構造を立ち上げながら読み進める。これが、仕事や勉強に使える読書のコツです。
佐々木 本は情報のパッケージです。知識の相場でもあって、いまのような時代には重視するほうがいい。「読書」は、情報収集の基本であり、編集力にとっても欠かせません。松岡正剛はよく、「買ってきた本は、積んでおかないで、ちらっとでもいいから開きなさい」と口にしています。最初から最後まで読むだけが「読書」ではありません。何気なく開いた頁からでも世界と関係を発見できるのが編集力であり、考える力をつける読書につながるのです。
──読書といえば理化学研究所との中高生向けの「科学道100冊」、小学生向けの「科学道100冊ジュニア」は大変魅力的な試みです。
安藤 理化学研究所の100周年を機に、ブランディングの一環として立ち上がったプロジェクトです。科学の面白さ、科学者のかっこよさを、広く世の中の人々と共有することを目的に「科学道」というコンセプトをつくりました。そのコンセプトを100冊の本で表現した試みが「科学道100冊」です。
2017年から2018年にかけて、全国の書店や図書館でフェアを開催したのですが、これがたいへん好評で、学校の先生や図書館司書さん等からもたくさんのお問い合わせをいただきました。その結果、書店・図書館・学校あわせて1200か所ほどで、「科学道100冊」本棚が展開されました。この「科学道100冊」プロジェクトは、今後も理化学研究所と一緒に盛り上げていきます。
また2019年度中には、「中学3年間で100冊本を読もう」という趣旨の“100冊運動”を立ち上げたいと思っています。いま教育現場で重要トピックとなっている「探求学習」の一助として、きっと本が活躍します。編集工学研究所は、そこに「方法」を届けたいと思っています。
2019-04-08
イシス編集学校の基本コース「守」では2019年秋学期生をただいま募集中! 情報の見方、情報の関係づけ、情報の構造化、情報の表現の4つの用法に基づく38の「情報編集」の型がインターネットで学べる。届いた「お題」に「回答」すれば、「編集工学」を身に着けた師範代から「指南」がもらえるという形式。
【応募締切】2019年10月14日(月)
【受講期間】2019年10月14日(月)~2020年2月16日(日)
【定員】200名(定員になり次第締め切り)
【受講料】108,000円(税込)※学生および再受講の場合は割引あり。23歳以下の学生は限定割引あり。