大河ドラマ『真田丸』放映のあとに、丸島和洋さんがツイッターで呟かれる大河裏話は、非常に話題になっています(ツイッターのフォローワーは13,000超!)。そんな丸島さんは、ツイッターでジャパンナレッジの愛用者であることも公表しています。丸島さんのジャパンナレッジの使い方、データベースへの想いとは?
ジャパンナレッジでは『日本国語大辞典』(以下、『日国』)や『日本歴史地名大系』、『国史大辞典』、『古事類苑』、そしてたまに『東洋文庫』を利用しています。とくに『日国』の用例は、『真田丸』の時代考証に大いに役立っていますね。例えば、『日国』では言葉の初期の使用例がわかりますので、『真田丸』の時代にその言葉が使われていたかどうか、確認することができるのです。
またジャパンナレッジは、iPhoneからでも利用できますので、短時間、かつどこにいても調べることができますから、非常に便利です。特に利用回数が多いのは、『真田丸』時代考証会議の真っ最中かもしれ ません(笑)。『真田丸』の放映後、毎回ツイッターで解説をしているのですが、視聴者の方から質問が飛んできたとしても、すぐに対応ができるのもうれしいですね。
1977年大阪府生まれ。博士(史学)。国文学研究資料館特定研究員、慶應義塾大学文学部非常勤講師。慶應義塾大学文学部史学科卒、同大学院文学研究科後期博士課程単位取得退学。NHK大河ドラマ『真田丸』の時代考証を担当する。著書に『真田四代と信繁』(平凡社新書)、『真田一族と家臣団のすべて』(KADOKAWA新人物文庫)、『戦国大名武田氏の家臣団―信玄・勝頼を支えた家臣たち―』(教育評論社)など。
取材・文/角山祥道 写真/五十嵐美弥
しかし本音を言うと、学部生にはあまり使わせたくありません。なぜならば、検索サイトは「ゴールがわかっている人」向きに作られているからです。どの言葉で検索をかけるかというのも、実は重要なスキルで、これがわからないと、ゴールにたどり着かないのです。
では、そのスキルはどこで磨かれるのでしょうか。
例えば、紙の辞典で調べたい言葉を引いてみたとしましょう。その時に、「自分の調べたかった言葉が、『親項目』にはなかった」ということがあります(地名辞典なら、漢字が違うとか)。紙の辞典ならば、そうした場合でも周辺を探すことで、親項目にたどり着くことができ、親項目が何だったかもわかります。これが経験となって蓄積されていくのです。同時に、調べたい言葉の周辺に書かれている言葉も無意識のうちに目で拾うことになります。これだけで、視野を広げることができます。
こうした地道な作業を繰り返していくと、スキル=基礎体力が身につき、紙の辞典だけではなく、検索サイトの使い方も上達するのです。しかしスキルが身につく前に、サイトを安易に利用してしまうと、大事なものを見落としてしまいます。学部生は、紙の辞書8割、ネット検索2割の比率が、ちょうどいいのではないかと考えています。
最近の歴史研究は、大量の「データベース」の恩恵にあずかっています。
ジャパンナレッジもそのひとつですが、ほかにも、東京大学史料編纂所や京都府立総合資料館、私も関わっている国文学研究資料館などのウェブサイトでは、データベースが充実しています。これは、私たち研究者にとって大変ありがたい。研究論文も、次々とPDFで公開されています。
ですが、問題点がひとつあります。データベースが充実するのに比例して、逆説的ですが、「見落とし」もまた増加するのです。ネット検索でも、村八分ならぬ「グーグル八分」というネットスラングがあります。Googleのデータベースから除かれ、Google検索しても内容が表示されない状態にあることを言いますが、私たちは「ネットにはすべての情報が載っている」と思い込みがちですので、Google検索で出てこない情報は、「ない」と考えてしまう危うさがある。そうすると必然的に、「見落とし」が出てくるということです。ネット空間からアクセスできる情報を調べただけで、探し終えた気分になってしまうとしたら、これは大きな誤りです。なんだか当たり前の話のようですが、初学者は意外と陥りやすい。
データベースも同じで、すべてがデータベース化されていないというのがひとつ。もうひとつは、目録の作り方にあります。例えばタイトルを「年貢請取証文」としたものと、「年貢請取之証文」とした場合とでは、同じカテゴリーであっても、助詞「之」が入っているというだけで、検索で同一とはみなされません。つまりデータベース検索で「調べきった」ことにはならないということです。
そもそも、データベースに入力されていく古文書には、ほとんどの場合タイトルがありません。これが図書と古文書の最大の違いのひとつです。そして古文書の名称は、原則として整理した人が決めますが、その際に統一ルールがあるわけではなく、整理者のクセが出るのです。例えば親切心で、宛て字の後に「( )」をつけて、正しい字を注記したら、データベース上において、その古文書が検索でヒットする確率はかえって下がるかもしれない。また、同じ史料収蔵機関でも、10年前の目録と最新の目録とでは、名前の付け方どころか、下手をすれば整理方法そのものが異なります。
いずれも、紙の目録で調べたら起こらない見落としだとは思いませんか。紙の目録と違って、データベースは通覧性に劣るわけです。そのデータベース(ジャパンナレッジの場合はいずれも元は紙の辞書)の特徴や、その中にどんな情報が入っているかを理解しなければ、使いこなすことはできないというわけです。
現代の研究者は、データとのつきあい方、探し出すスキルが、特に必要とされているといえるかもしれません。
2016-07-18
定価:800円(税別)
出版社:平凡社
真田家の歴史を追えば、戦国時代そのものが見えてくる。──「表裏比興者」昌幸、「日本一の兵」信繁(幸村)が歴史に名をはせたのはなぜか。その答えは、国衆としての真田氏を確立させた幸綱・信綱の時代から、信之が近世大名の礎を築くまでを追うことで、おのずと見えてくる。歴史ファンにもひときわ人気の高い真田氏。激動の100年がまるごとわかる決定版。(帯裏より)
はじめに
一章 真田幸綱 真田家を再興させた智将
二章 真田信綱 長篠の戦いに散った悲劇の将
三章 真田昌幸 柔軟な発想と決断力で生きのびた「表裏比興者」
四章 真田信繁 戦国史上最高の伝説となった「日本一の兵」
五章 真田信之 松代一〇万石の礎を固めた藩祖
あとがき