「情報収集」は、喜多あおいさんにとってアイデアを生み出すきっかけでもあります。アイデアを生む驚くべき方法とは? リサーチャーの先駆け、喜多さんにお話を伺う最終回です。
1964年兵庫県生まれ。リサーチャー。株式会社ズノー執行役員。同社「辞書と事典の資料室」室長。同志社大学文学部卒業後、出版社、新聞社、作家秘書などを経て、1994年よりテレビ番組のリサーチャー。手がけた番組は『行列のできる法律相談所』『ガッテン!』『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』など多数。「放送ウーマン賞2014」を受賞。著書に『必要な情報を手に入れるプロのコツ』(祥伝社黄金文庫)『勝てる「資料」をスピーディーに作るたった1つの原則』(マイナビ新書)『プロフェッショナルの情報術』(祥伝社)。
取材・文/角山祥道 写真/五十嵐美弥
「今流行っているモノはなんですか?」
と聞かれることがよくあります。実はこれ、非常に難しい質問です。なぜなら、尋ねている人の意図が具体的ではないからです。これがたとえば、「東京で流行っている会食向きの和食の店」というように具体的な質問ならお答えできますが、「今流行っているモノ」という問いは、それが何を目的としているかわからないからです。もしかしたら、聞いている人も何を聞き出したいのかわかっていないのかもしれません。
逆に言うと、調べるという行為は、どれだけ目的を明確に把握しているか、ということに尽きます。
心理学の用語に「カラーバス効果(Color Bath Effect)」というものがあります。「バス」は浴室のバス。「浴びること」という意味があります。直訳すると「色を浴びる効果」となります。
今、目の前にある風景をざっと見てください(屋内なら本棚の前で試すとよいかもしれません)。
そして、10秒間、目を閉じてください。赤色のものはありましたか? 突然言われても、思いつかないかもしれませんね。さあ目を開けてみましょう。
赤色のものを、探してみてください。驚くほど、赤色のものが目に飛び込んできたのではないでしょうか。
これが「カラーバス効果」。意識したものに関連した情報に着目するようになる効果です。「赤色のものを見る」という目的を意識することで、脳が勝手に「赤色」という情報をピックアップするのです。情報収集やアイデア出しも同じです。目的意識を持つだけで、大きな成果に結びつきます。
この「カラーバス効果」を使って、私が1~2週間に一度実践しているのが、大型書店&百貨店めぐりです。まず行く前に、今の自分が抱えている案件を思い出します。そうすることで、脳にピンとアンテナが立ちます。アンテナを立てた状態で、大型書店を隅から隅まで、4~5時間かけて回ります。すると、探していた情報や使えるアイデアがどんどん飛び込んでくるのです。極端に言うと、必要な書籍が光って見えるのです(バイオリズムが悪い時は、そうはいってもなかなかうまくいきません。そんな時は、さっと切り替えて出直します)。
これを同じように百貨店でも行ないます。
大型書店や百貨店は、今の社会を知ることができる場所です。目的意識を持って訪れることができれば、これほど情報が取れる場所はありません。そこで気になるモノ(固有名詞)を収集し、あとでじっくり調べるのもいいでしょう。
私たちは日頃、多くの情報を目にしているようで、実際はそうではありません。たとえばネットでのトピックス型のニュースは、自分以外の誰かが取捨選択した後の情報を見ているだけなので、自分にとって有用な情報とめぐり会う機会を逸しています。またSNSなど、自分仕様のタイムラインの情報だけに接していると、「既存知識の枠」の中だけで情報がループします。
大型書店や百貨店を、時間を掛けて回るという行為は、頭の中の囲いを取っ払う作業でもあるのです。アイデアを生み出すコツは、ここにあります。実際、プロのリサーチャーは、どんなに自分が知っていることでも、いったん頭の中を真っ白にして、新たな気持ちで情報収集に取り組みます。毎回、脳をアップデートさせるのです。
私の情報収集の原点である「辞書・事典」に特化して、2016年、東京・神保町に「辞書と事典の資料室」を作りました。現在、3000冊ほどの辞書・専門事典・図鑑などを収蔵しており、まだまだ増やす予定です。この中には「ジャパンナレッジ」に収録されている辞書・事典もあります。多くの時間と人智を経て世に出された辞書・事典が持つ情報力は偉大です。「紙」の辞書・事典も「データ化」によって、その使命を永らえることが可能な現在、この資料室が、アナログとデジタルの世界の交流に、少しでも役立てればと思います。資料室では、「調べもの教室」を開いたりもしています(現在は関係者の方々のみに開放)。
もっともっとみなさんに、情報収集の楽しさ、醍醐味を知ってもらえたら……そう、願っています。
2018-12-25
定価:690円(税別)
出版社:祥伝社
テレビの現場で培った「調べる」コツをリサーチャーの先駆者が解き明かす! 正しい情報を得るために役立つ一冊。
目次
プロローグ テレビ番組リサーチャーの仕事とは?
1章 脳内に「情報地図」を描く
集める前に「居場所」を作り、戦略を練る
2章 プロのネタ取りは五つのソースで!
書籍、新聞、雑誌、インターネット、対人取材で「網羅」→「分類」
3章 集めた資料を「情報」に変える
相手に伝わる「報告書」と、必勝「プレゼン」術
4章 仕事の質を上げる!情報に強くなる習慣術
あなたの情報力はたった一分の会話でわかる
エピローグ 情報は生きている