学習支援という新たな大学図書館の役割が注目される中、若い人たちが成長する場となるために、図書館はいったいどうすればいいのか? そして理想的な大学図書館とは何か? 新連載につなぐ東北大学附属図書館の米澤誠さん編「VOICE」最終回。
大学図書館による学習支援が注目されている中、まず実際の教育の現場を知らない図書館員が多すぎるのではないかと思います。
学習支援とは図書館の中だけで考えるものではないのです。少なくとも、自分の大学ではどのような教育が行なわれているのか、学生はどういう勉強の仕方をしているのか、といった現状を把握したうえで、自分たちは何をやるべきなのか、何ができるのかを考えてほしいですね。
また学部・学科によっても勉強の仕方は違います。同じ文系でも文学部なら静かにひたすら本を読むかもしれない。法学や経済学などの社会科学系ならディスカッションが欠かせないかもしれない。自分たちの大学にはどのような学部があって、そこではどのような教育がなされているのか、どのように学習しているのかを図書館員はしっかり理解しておかなければならないと思います。
時に私は、授業を見に行ったりもします。実際にどのような授業がなされているかわからないで、図書館で行なうサービスを考えることはできないと思うからです。そこにはシラバスだけではわからない教育の現場があります。このような情報検索があるよ、このようなデータベースがあるよ、といった図書館の自己中心的な利用者教育をあらためて、実際の大学生の成長につながるような学習支援を、大学図書館員は考えなければならないと思います。
そのように考えた中から私は、レポート作成支援やアクティブラーニングの場の提供支援を企画してきました。また最近は、グローバル学習支援ということも実現してきました。
秋田県生まれ。図書館情報大学(現・筑波大学)図書館情報学修了後、東北大学附属図書館に勤務。NII(国立情報学研究所)、山形大学附属図書館などを経て、2011年より東北大学附属図書館に復帰。現在、図書館事務部長。NPO法人大学図書館支援機構理事であり、八洲学園大学では非常勤講師として情報リテラシーを教えている。ライティング教育、アクティブラーニング、学習環境デザインが研究テーマで論文を発表している。
写真/五十嵐美弥
学びの場としてのラーニングコモンズについても同じです。単に予算がついたからといって、先行している大学のラーニングコモンズを真似て、ここはこういうふうに使わせようと思って作ってみたら、失敗するケースが多いのではないでしょうか。学生は必ずしもこちらが思っているような使い方はしないのです。
東北大学のラーニングコモンズでは、あまり使い方を規定しませんでした。学生たちがどのように使うか、あらかじめ私たちにはわからなかったからです。彼ら彼女らがどのように使っているのか、学びの現場を見ながら日々対応するというやり方をとっています。
学生たちがラーニングコモンズで学んでいる現場を見ていると、図書館資料を静かに読み理解することだけが学習ではないことがよくわかります。なぜなら、彼ら彼女らは友人たちや先輩後輩たちと話しながら日々学んでいるからです。語らいながら学ぶことができること、これがラーニングコモンズの最大の効用だと思っています。
そしてまた重要なのは、いわゆる正課科目の学習だけが大学生の学びではないことです。東北大学図書館のラーニングコモンズでは、さまざまな学びの活動が行なわれています。それは、学生のサークル活動であったりボランティア活動であったり、自習的な語学学習グループであったり留学生との交流サークルであったり、卒業生による就職の支援活動であったりしています。それらすべてが、若い人たちの成長を促す学びとなっているのです。
これからの大学図書館は、それら多様な学びを視野に入れて、図書館としてどれだけサポートするのか、どの部分を図書館以外の大学施設にまかせるのかということを、考えていかなければならないと思います。
ラーニングコモンズによって、学ぶ場としての大学図書館に対する期待度は高まっているし、実際、図書館は非常に便利な施設になってきていると思います。しかし、図書館とは本来、知識を集積するところです。過去の知識を自分の中で咀嚼して、どうやって自分の知にしていくか。学びの場を提供することも大事ですが、継承されてきた知識を整理・保存し、次の世代がきちんと使えるようにして伝えていく、それが図書館ならではの重要な役割ではないでしょうか。
見栄えのする外観の建物やカフェ、はやりのラーニングコモンズや最新のICT設備によるサービスばかりにお金をかけるだけではなく、いまもう一度、資料というコンテンツの重要性を見直すべきだと思っています。そのすべてがそろってはじめて、理想的な図書館になるのではないでしょうか。
実際のアクティブラーニングの支援をするとわかるのですが、効果的なアクティブラーニングを行なうためには、それを行なうための基礎的な知識、すなわち適切な資料の読解を通じた知識の獲得が最重要となります。それなしのアクティブラーニングほど、無益な学びはありません。ほかの学びと同様にアクティブラーニングは、それを支える前提知としてのコンテンツがなくてはならないのです。
この点において、ラーニングコモンズは図書館の中にあるか、近接していることがもっとも望ましいことになると思います。近年は電子的なコンテンツも数多くなっているため、それらを活用することで図書館外にあるラーニングコモンズでも機能しやすくなっているとは思います。しかしながら、いままで集積してきた膨大な図書館のコンテンツの活用を考えるなら、ラーニングコモンズは物理的にできるだけ図書館に近いほうがよいと考えはじめています。
東北大学は漱石文庫などの貴重なコレクションや、狩野文庫などの豊富な古典籍コレクションを所有しています。そのことから、このコレクションを後世に伝えるとともに、それらを学習・研究のみならず社会的・地域的に有効に活用できないかとつね日頃考えています。国文学研究資料館を中心とした、日本語の歴史的典籍を見直す大型プロジェクトの動向もあり、知を伝えるという図書館の役割をあらためて認識すべきだと思っています。
2016-11-14