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第153回 高崎三碑?

2019年04月05日

「高崎三碑」……皆さんは聞いたことがありますか? たぶん聞いたことがないと思います。何故って? 筆者の造語だからです。

群馬県(旧上野国)内に所在する多胡たご碑、山上やまのうえ(山ノ上)碑、金井沢かないざわ碑、この三つの碑(古代の石碑)をあわせて一般には「上野三碑」(あるいは「上野国三古碑」)とよんでいます。ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」の「上野三碑」の項目は次のように記します。

群馬県(上野国)に遺存する多胡碑(たごのひ)(多野郡吉井町)、山ノ上碑、金井沢碑(かないざわのひ)(ともに高崎市山名町)を総称した名。三つの碑は近接したところにあり、奈良時代の上野文化を語る史料として国特別史跡に指定されている。上野三古碑。

ところが、多野郡吉井町は、平成21年(2009)6月1日に高崎市に編入されたため、三碑すべてが高崎市内に所在することになりました。そこで筆者は「高崎三碑」ではないか、と思った次第です。

ジャパンナレッジ「世界大百科事典」によると、三碑の建立は山ノ上碑が681年(天武天皇10)、多胡碑は711年(和銅4)、金井沢碑は726年(神亀3)で、

いずれも旧多胡郡内の近接した場所にあり,特別史跡に指定されている。山ノ上碑,金井沢碑は安山岩自然石で地方豪族の仏教の受容と信仰の形態とが書かれ,多胡碑は砂岩を柱状に整えて笠石を載せたもので多胡郡建郡の事情を記す。碑文は正史の欠を補う,地方豪族の系譜を探る,古代寺院址との関連などで追究されるべき内容をもち,その史料的価値は高い。これらの建立された背景には渡来人の存在を考えることができる。上野国は4~7世紀に古墳が数,規模ともに著しく発達し,古代国家の軍事,外交,修史事業に深くかかわった上毛野(かみつけぬ)氏を擁したが,これらの碑からは仏教の広まりと文字使用の普及といったこの地域の歴史的特色を見いだすことができよう。

とあります。残存する資料が極めて少ない地域の古代史にとって、とても貴重な資料であることが分かります。群馬県民のバイブル「上毛かるた」でも「昔を語る多胡の古碑」と多胡碑を取り上げ、そして、三碑はともに国の「特別史跡」に指定されているのです(2017年にはユネスコの「世界の記憶」にも登録)。

金井沢碑。三家みやけ氏が先祖供養と一族繁栄を祈って建立。

山上碑。放光ほうこう寺の僧長利ちょうりが母のために建立。

多胡碑。多胡建郡の経緯を記す。

高崎市以外に特別史跡が3件以上所在する市町村は、岩手県平泉町(中尊寺境内、無量光院跡、毛越もうつ寺境内=附鎮守社跡)、京都市(慈照寺=銀閣寺庭園、鹿苑ろくおん寺=金閣寺庭園、醍醐寺三宝院庭園)、奈良県明日香村(キトラ古墳、高松塚古墳、石舞台古墳)の3市町村のみです。

江戸時代に高崎藩の城下町、中山道の宿場町としてその基礎を固め、近代以降は鉄道・道路網の要衝(交通都市)、商業都市として発展してきた高崎市ですが、奥州藤原氏三代の文化が花開いた平泉町、世界に冠たる国際文化都市の京都市、飛鳥文化の遺産が凝縮された明日香村に比肩しうる文化遺産都市、といっても過言ではないということになります。

それはさておき、上野三碑にはほかにも共通点があります。それは、いずれも利根川の支流であるからす川・かぶら川水系に所在しているという点です。そして、この烏川・鏑川水系に沿って、高崎駅と下仁田しもにた駅(群馬県甘楽かんら郡下仁田町)を結んでいるのが上信電鉄上信線です。

いいかえれば、上野三碑の最寄駅はいずれも上信電鉄上信線の駅、ということになります。金井沢碑は根小屋駅、山上碑は山名駅、または西山名駅、多胡碑は吉井駅が最寄駅ですが、上信線の沿線にはほかにも、旧富岡製糸場(国宝。「富岡製糸場と絹産業遺産群」の名称でユネスコの文化遺産登録。最寄駅は上州富岡駅)、貫前ぬきさき神社(上野国一宮。最寄駅は上州一ノ宮駅)、富岡製糸場と絹産業遺産群の構成施設である荒船風穴(最寄駅の下仁田駅からタクシー)などの名所・文化施設があります。

上野国一宮の貫前ぬきさき神社。

沿線にこれだけ立て続けに史跡が並ぶローカル鉄道の路線は、筆者の知る範囲では、日前ひのくま 国懸くにかかす神宮、竈山かまやま神社、伊太祁曾いたきそ神社をつないで走る和歌山電鐵の貴志川きしがわ線(終着駅はネコ駅長で知られる貴志川駅)くらいでしょうか。

今年のゴールデンウィーク前後は、新天皇の即位に関連して10連休となる方々も多いと思います。連休の行き先の一つとして上信線の沿線を検討してみてはいかがでしょうか。高崎市の教育委員会では、「上野三碑を見学される方の利便性向上のため」に上信線吉井駅を基点に無料巡回バス「上野三碑めぐりバス」を運行しています。もちろん旅の土産は、「上毛かるた」に「ねぎとこんにゃく下仁田名産」と詠われた「コンニャク」と「下仁田ネギ」(ネギは季節はずれですが)ということになるでしょう。

(この稿終わり)