日本歴史地名大系ジャーナル 知識の泉へ
日本全国のおもしろ地名、話題の地名、ニュースに取り上げられた地名などをご紹介。
地名の由来、歴史、風土に至るまで、JK版「日本歴史地名大系」を駆使して解説します。
さらに、その地名の場所をGoogleマップを使って探索してみましょう。

第43回 重伝建=ジュウデンケンをご存じですか?(1)

2010年10月01日

みなさんは、重要伝統的建造物群保存地区(略して重伝建)という言葉を聞いたことがありますか? 城下町、宿場町、門前町といった全国各地に残る歴史的な集落、町並み(=伝統的建造物群)の保存を図るため、昭和50年(1975)の文化財保護法改正によって発足した制度です。
文化庁のホームページには、「市町村は、都市計画または条例により伝統的建造物群保存地区を定め、国はその中から価値の高いものを重要伝統的建造物群保存地区として選定し、市町村の保存事業への財政的援助や技術的指導を行っています」と記されています。

昭和50年9月に現在の秋田県仙北せんぼく角館かくのだて地区(武家町)、長野県南木曽なぎそ妻籠つまご宿地区(宿場町)、岐阜県白川村荻町地区(山村集落)、京都市東山区産寧坂さんねいざか地区(門前町)、同区祇園新橋地区(茶屋町)、山口県萩市堀内ほりうち地区(武家町)、同市平安古ひやこ地区(武家町)の7件が選定されたのを皮切りに、現在では全国で87地区が選定されています。

また、こうした保存地区を有する自治体が集まって結成された「全国伝統的建造物群保存地区協議会」(略して伝建協=デンケンキョウ。平成20年4月現在で71市町村が加盟)という組織や、先述した昭和50年の文化財保護法改正に先立って、愛知県名古屋市緑区有松ありまつ地区、奈良県橿原かしはら今井町いまいちょう地区、長野県妻籠地区で、町並み保存活動を行っていた3団体の有志が集まって結成された「全国町並み保存連盟」(現在はNPO法人)といった組織もあります。

歴史的な町並みや周囲の景観を保存して、次代に伝えようとする活動は、少しずつではありますが、その成果を実らせているようです。ちなみに、伝建協のホームページは、協議会の主旨について、次のように記しています。

「幾多の風雪に耐えてきた茅葺屋根の集落、土塀や生垣に囲まれ静かな佇まいを残した武家屋敷群、重厚な土蔵造など昔の繁栄を偲ばせる商家の町並などは、長い年月をかけて何代にも亘り受け継がれてきた貴重な日本の文化遺産です。これらは、我が国の歴史や文化を理解するために欠くことのできないものであり、私たちはこれらを後世に伝える大切な責務を持っていると考えます。
(中略)
 成熟社会を迎える日本において、国民の歴史や伝統を求める文化的志向はますます強くなり、多くの人々がこれらの地区を訪れています。また、近年では、このような伝統的建造物群保存地区の集落・町並の保存は、地区の個性を活かした持続可能なまちづくりとして、国の内外から注目を集めるようになり、ますますその重要性が高まっています。
(中略)
  協議会では、保存地区の歴史的町並を保存するためのさまざまな情報を収集・蓄積し、これらを会員相互で共有するとともに全国に発信するため、歴史的町並の保存に関わる講演会の開催や写真パネル展、協議会のインターネットホームページの開設などを行っています」

活気のある街づくりと文化財の保存という、一見相反するようにみえる課題を克服するのは、一地方自治体の手に余るものかもしれません。


ところで、文化庁の「国指定文化財等データベース」では「重要伝統的建造物群保存地区」の選定事由を次の22種(その他を含む)に分類しています。

〈港町=12件〉〈講中宿=1件〉〈鉱山町=2件〉〈在郷町=8件〉〈山村=1件〉〈山村集落=8件〉〈寺内町=2件〉〈社家町=1件〉〈宿場町=6件〉〈商家町=18件〉〈城下町=3件〉〈製塩町=1件〉〈製磁町=1件〉〈製蝋町=1件〉〈茶屋町=4件〉〈島の農村集落=2件〉〈農村集落=1件〉〈武家町=10件〉〈門前町=3件〉〈養蚕町=1件〉〈里坊群=1件〉〈その他=9件〉

合計は96件になりますが、たとえば長野県東御とうみ海野うんの宿地区は〈宿場町〉と〈養蚕町〉、山梨県早川町赤沢あかさわ地区は〈山村〉と〈講中宿〉といったように、選定事由が重複している場合は両者ともにカウントしているために生じた合計数です。でも、海野宿の〈養蚕町〉は全国で1件だけ、赤沢地区にいたっては重複する選定事由の〈山村〉〈講中宿〉が、ともに全国で1件だけですから、データベースの分類としては、いま一つといった感じです。海野宿、赤沢地区の選定事由となった3種を含め、全国に1件しかない選定種別は9種もあります。それに加えて9件ある「その他」も、それぞれは全国に1件しかない種別かもしれません。

北国街道(北国脇往還)の宿場町と養蚕町の景観を伝える東御市海野宿地区

Googleマップのページを開く

 

ちなみに、「国指定文化財等データベース」では県別検索もでき、これによりますと、選定地区が最も多いのは京都府の7件(なんとなく納得)、次に長野県・岐阜県の5件が続いています。逆に、宮城県・山形県・栃木県・東京都・神奈川県・静岡県・愛知県・熊本県の8都県では選定地区が1件もありません。これらの都県に歴史的な町並みが残っていないとは思えないのですが。たとえば前述した町並み保存活動の草分けともいえる名古屋市緑区有松地区は愛知県ですし、「蔵の街」として有名な栃木市は栃木県、鎌倉が神奈川県などと、伝統的建造物群が残っていそうな地区をすぐに思い浮かべることができます。あるいは、保存地区に選定されないのは、開発とのバランスなどがネックとなっているのでしょうか。

一方、伝建協のデータベース「伝建資料室」の伝建台帳(=デンケンダイチョウ)では、重要伝統的建造物群保存地区を次の8種に分類しています。
〈集落〉
〈宿場の町並〉
〈港と結びついた町並〉
〈商家の町並〉
〈産業と結びついた町並〉
〈社寺を中心とした町並〉
〈茶屋の町並〉
〈武家を中心とした町並〉

文化庁のデータベースと比べると、はるかにわかりやすい分類ですね。ちなみに、〈集落〉とは、都市的な町並みに対しての「農山漁村の集落」といった意味合いと思われます。ここで、伝建台帳の地域区分に従った全国6地域ごとの種別を一覧表にまとめてみました(重複はカウントしていませんので、合計は87件です)。

北海道・東北関東・甲信越中部・北陸近 畿中国・四国九州・沖縄(計)
集落02531314
宿場1420007
11014512
商家13626523
産業0102429
社寺0006006
茶屋0021003
武家30022613
(計)61115171721(87)

 

伝建台帳の分類でもっとも件数が多いのは〈商家の町並〉で23件、これは文化庁の分類では〈在郷町=8件〉や〈商家町=18件〉に相当すると思われます。次に多い〈集落〉14件は、文化庁の〈山村=1件〉〈山村集落=8件〉〈島の農村集落=2件〉〈農村集落=1件〉といったあたりでしょう。その次に多い〈武家を中心とした集落〉13件は〈城下町=3件〉〈武家町=10件〉の合計になります。

ところで、伝建台帳の分類では〈産業と結びついた町並〉が全国で9件あります。以下の9地区です。
A.長野県塩尻しおじり木曽平沢きそひらさわ地区
B.京都府与謝野よさの加悦かや地区
C.和歌山県湯浅ゆあさ町湯浅地区
D.島根県大田おおだ大森銀山おおもりぎんざん地区
E.岡山県高梁たかはし吹屋ふきや地区
F.広島県竹原たけはら市竹原地区
G.愛媛県内子うちこ八日市ようかいち護国ごこく地区
H.佐賀県有田ありた有田内山ありたうちやま地区
I.佐賀県鹿島かしま浜中町はまなかまち八本木宿はちほんぎしゅく地区

では、それぞれの地区ではどんな産業が盛んだったのかわかりますか? 解答と続きは次回に。

(この稿続く)