日本歴史地名大系ジャーナル 知識の泉へ
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第42回 柏原あれこれ(3)

2010年08月20日

いよいよ「柏」の検討にはいります。ただし、「柏」の字は中国ではヒノキ科の植物をさし、日本の「カシワ」にあたる漢字は「槲」(字音は「コク」)や「木へんに解」(字音は「カイ」)だということは、押さえておきましょう。

まずは「かしわ」と読む場合。JK版「日本大百科全書(ニッポニカ)」の「カシワ」の項目によると、カシワはブナ科の落葉高木で、通常の高さは15メートル以下。厚い葉と厚い樹皮があるため風衝地や火山周辺地域、山火事跡地に低木状の純林をよくつくり、日本全土、とくに関東地方以北に多く、関西地方では同様の立地にナラガシワが多いといいます。

さらに、カシワの「文化史」として
「今日カシワの種子は食用とされないが、縄文時代にはなんらかの方法で渋を抜き、食されていたのであろう。(中略)『古事記』に出る「御綱柏(みつながしわ)」の正体については、カクレミノ、フユイチゴ、オオタニワタリなどとする諸説があり、さだかではない。またカシワの名は、「炊(かし)く葉」から由来したとする説が有力で、古くは蒸し焼きに使われた葉の総称であったと思われる。現在でも柏餅にサルトリイバラの葉を用いる所がある」
と記しています。

ついでに「ナラガシワ」「サルトリイバラ」についても、JK版「日本大百科全書(ニッポニカ)」の記述をのぞいておきます。
ナラガシワ=「ブナ科の落葉高木。樹皮は厚く、不規則な裂け目がある。葉は長さ10~25センチで日本産ブナ科では最大である。(中略)柏餅(かしわもち)に用いるカシワの葉は本種のものである。堅果はミズナラに似るが、微毛が一面に生え、殻斗(かくと)の三角状の小鱗片(りんぺん)が明瞭(めいりょう)である。中部地方以西の本州の里山にみられ、朝鮮半島、中国まで分布する」
サルトリイバラ=「ユリ科の落葉藤本(とうほん)(つる植物)。高さ2~3メートル。地下茎は質が硬く、屈曲して地中に横たわる。茎は緑色で硬く、まばらに刺(とげ)があり、節ごとに曲がる。(中略)日本全土の山野に普通に生え、朝鮮半島、中国、インドシナ、フィリピンに分布する。西日本ではカシワのかわりに葉で餅(もち)を包む。赤い果実のついた枝をいけ花に使う。名は「猿捕り茨(いばら)」で、茎の刺にサルがひっかかるとの意味である。(以下略)」
とあります。

次は「かし」の読みです。「カシ」(漢字では橿、樫は橿の国字)はアラカシ、シラカシ、イチガシ、アカガシなど、ブナ科の常緑樹の総称といいますから、JK版「日本大百科全書(ニッポニカ)」の「カシ」をチェック。
カシ=「一般にはブナ科の常緑性の種を総称する。分類学的にはコナラ属Quercusのアカガシ亜属Cychrobalanopsisに含まれ、殻斗の鱗片(りんぺん)が同心円状に合一し、数層の横輪をつくり、鱗片が瓦(かわら)重ね状に並ぶコナラ亜属とは区別される。(中略)日本では宮城県以南の暖帯におもに分布し、耐陰性が強く、樹齢も長く、極相林の優占木となる。世界に約40種あり、おもに東アジアに分布し、いわゆる照葉樹林文化の発祥の舞台となった地域と重なる(以下略)」
とみえます。

「カシ」が照葉樹林を代表する樹木の一つだとしたら、「かしはら」「かしわら」の読みが、「北海道・東北」「関東」地域では1件もみられない理由も納得できそうです。なお、「かし」は、傾ぐ(かしぐ)に通じて傾斜地を表す地名の場合もあります。

最後に「かい」の読みの検討。一般に「かい」と読む地名は「狭いところ」や「山と山の間(谷間)」に多い地名といわれます。ところで、柏の字をあてて「かい」と発音するのは、あるいは、先に記述した「柏」の本来の漢字である「木へんに解」の字音「カイ」に由来するのかもしれません。

今までの考察をまとめてみると、「柏原」と表記される地名は、昔は「かしぐ(炊ぐ)」ために用いた樹木(ブナ科の落葉高木で、東日本ならカシワ、西日本ならナラガシワか)が多く生えていた原、あるいは、カシの木(ブナ科の常緑樹)が多く生えていた原が基本でしょうか。しかし、「柏」が本来の漢字の意味をあらわしているのなら、ヒノキ科の樹木が生えていた原だったことも考えられます。また「原」の読みがバラ(あるいは「バル」)ならば、サルトリイバラ類が叢生していた原だった可能性も捨てられません。

「原」は一般的な野原、平原の意だけでなく、柏の読みが「カシ」なら、傾いだ傾斜地の原、「カイ」なら狭い谷間の原、といった意味かもしれません。

みなさんの近くにある「柏原」の地名は、どんな地名由来が一番ぴったりするでしょうか?

(この稿終わり)

 

兵庫県の柏原(かいばら)。由来はナラガシワか、サルトリイバラか、はたまた谷間の原か

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