ニッポン書物遺産

ジャパンナレッジに収録された、数々の名事典、辞書、叢書……。 それぞれにいまに息づく歴史があり、さまざまな物語がある。 世界に誇るあの本を、もっと近くに感じてほしいから、作り手たちのことばをおくります。

日本方言大辞典 episode.2

ジャパンナレッジに入った『日本方言大辞典』。検索サイトならではの方言の楽しみ方とは? 神永曉氏にお話を伺う、第2回目。

「おかあさん」は「あほ」?

──web版『日本方言大辞典』の楽しみ方を教えてください。
せっかくジャパンナレッジというweb検索サイトにラインナップされましたからね、どんどん検索してほしいですね。
例えば、これ、何のことだかわかりますか?
〈あうぼー/あっぱ/あっぱー/あっぱめ/あは/あば/あぱ/あばー/あばちゃん/あほ……まいまい/めめ/やんば〉
全部で225件もあるので、大部分を省略してしまいましたが、これはすべて、同じものを指している言葉です。
――あほ、やんば……まったく想像がつきません。
答えは、「おかあさん」です。『日本方言大辞典』の大きな特長は、方言からだけでなく、標準語から検索できる点ですが、その機能をつかって「おかあさん」と入れてみたのがこの結果なのです。このように、「おかあさん」「おとうさん」のような必ず使用する言葉や、挨拶の言葉などで検索してみると、ヒットする件数も多く、思わぬ発見があるかもしれません。
試しに、「あほ」をクリックしてみましょう。
「おかあさん」→「あっぱ」→「あほ」、とすぐに辿ることができます。このように「おかあさん」から「あほ」にすぐ飛べるのもweb検索の長所です。紙の辞書ですと、明記してあるページを自分で探さないといけませんが、ジャパンナレッジの検索だと簡単です。
――《あほ》の欄を見ると、〈熊本県球磨郡 (中流の語)919/ 鹿児島県下甑島038〉とありますが、この数字は?
〈熊本県球磨(くま)郡〉〈鹿児島県下甑(しもこしき)島〉というのは、「あほ」がこの地域の方言である、ということですが、この数字は文献の資料番号です。数字のところにカーソルをあわせてみてください。例えば「038」の上にあわせると、〈全国方言資料(日本放送協会)1966~67〉と出てきます。これも紙の辞書から進化したポイントのひとつで、webの特長を生かして、カーソルをあわせるだけで資料名が表示されるようになっています。

手作業でつくった方言地図

――『お国ことばを知る 方言の地図帳』も検索できるそうですね。
もともと、『日本方言大辞典』の中にいくつか方言分布地図を掲載していたのですが、地図だけですと、ややわかりにくかった。地図から読み取れる事柄を提示したら面白いんじゃないか、と思ってつくったのが『お国ことばを知る 方言の地図帳』(以下、『方言の地図帳』)なんです。ですから『方言の地図帳』を検索できるというのは正確ではなくて、もともとあった『日本方言大辞典』の地図に、漏れなく『方言の地図帳』のコラムがついてくるということになります。これは、佐藤亮一先生をはじめ、第一線で活躍中の方言研究者による良質なコラムですから、読み応えがあると思いますよ。
――『日本方言大辞典』に地図をつけた意味は?
辞書を調べるだけでは、日本全体の方言の分布がわかりません。それに、国立国語研究所が作成した立派な方言地図(「日本言語地図」)がありました。この成果を残しておかないともったいないという思いです。
この地図、今の時代ならパソコンで作ってしまうんでしょうが、作成したのは今から40年近く前のことですから、略図とはいえ実はすべて手作業。国立国語研究所の大きな地図を見ながら、『日本方言大辞典』用のスケールの地図に、ピンセットで1枚1枚、記号を貼り付けていきました。ご覧になる際、「労力をかけた地図なんだ」と思ってもらえたら嬉しいです(笑)。
『日本方言大辞典』には、ほかにも諸方言の音節がわかる「方言音韻総覧」を収録しています。標準語索引、分布地図、音韻……こうした『日本方言大辞典』の特長も、検索で楽しんでください。



ジャパンナレッジ「日本方言大辞典」の標準語索引「おかあさん【御母様】」の項。225の方言がずらり。

『お国ことばを知る 方言の地図帳』は2002年、小学館より刊行。1991年に発売された『方言の読本』を改訂したもの。

「ものもらい」の方言地図。ジャパンナレッジでは『方言の地図帳』の解説文も読めるので、各地の方言の歴史的背景がくわしくわかる。

『方言の地図帳』より「方言の基礎知識」というコラムも収録。方言学の基礎を学ぶことができる。


神永 曉(かみなが・さとる) 神永 曉(かみなが・さとる)

1956年千葉県生まれ。小学館出版局プロデューサー。入社以来、37年間ほぼ辞典編集一筋の編集者人生を送っている。担当した主な辞典は『日本国語大辞典 第2版』『現代国語例解辞典』『使い方の分かる類語例解辞典』『標準語引き 日本方言辞典』『美しい日本語の辞典』など。ジャパンナレッジ「日本語、どうでしょう?」の記事を加筆修正してまとめた初めての著書『悩ましい国語辞典』(時事通信社)が発売中。




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