ニッポン書物遺産

ジャパンナレッジに収録された、数々の名事典、辞書、叢書……。 それぞれにいまに息づく歴史があり、さまざまな物語がある。 世界に誇るあの本を、もっと近くに感じてほしいから、作り手たちのことばをおくります。

国史大辞典 episode.8

2010年7月1日から、「ジャパンナレッジ」で公開され始めた『国史大辞典』。出版界の後世に残すべき遺産──これをデジタル化して万人がいつでも読めるようにしようという試みだ。
『国史大辞典』とともに歩んできた、吉川弘文館社長の前田求恭さんはこのデジタル化をどう見ているのか。最終回は「辞典の未来」についてうかがった。

昭和54年から構想していた電子化

──なぜ、『国史大辞典』の電子化を決断なさったのですか?
じつは、1巻目を刊行した昭和54年ごろから、すでに電子化の必要性は感じていたのです。発行当時、別刷り図版は関連会社の半七写真印刷工業、本文はオフセット印刷の東京印書館、という割り振りだったのですが、将来はデータ化したいと考え、3巻の途中から東京印書館に印刷を一本化しました。
――電子化をその当時から見越していた。
ええ。実際、『国史大辞典』が完成して間もない平成9(1997)年、CD-ROM化しようと見積もりをとったんです。ところが3億円かかると出た。これではとても無理だと諦めていたのです。
――電子化しようとした理由は?
まず圧倒的に検索がしやすくなります。「紙で作った辞典」の持つ良さは決して滅びませんが、電子化することでプラスになることが多々あるはずです。それを見てみたかった。今回、ジャパンナレッジのコンテンツに入ったことで、それが実現しました。『日本国語大辞典』や『日本歴史地名大系』などと一括検索できることで、利用者はコンテンツ同士の比較ができます。おそらく新しい発見があるんじゃないでしょうか。大河ドラマや時代劇を観ながら、気になった単語をジャパンナレッジで検索してみる、といった気楽な使い方も楽しめるでしょう。
――実際の電子化には、随分、時間がかかったと聞きました。
『国史大辞典』を執筆した先生の中には、「紙以外に文章は書かない!」と頑なに思われている方もたくさんいらっしゃいます。鬼籍に入られた方の中には、遺書で「電子化はまかりならん」と残している方もいました。3500人を超える先生方やご遺族に転載の許諾を得たり、得られなかった場合は、新たに執筆をお願いしたり、と、掲載許諾、データ化、校正、項目の抽出などを含めて、結局、4年ほどかかったでしょうか。

つねに更新されていく、『デジタル版国史』を見るのが夢

――デジタル化するメリットは、どうお考えですか?
人がつねに読める状態にある。これが書物のあるべき姿です。それをかなえるには、デジタル化というのは、最適な方法です。当社には残念ながら、流通しなくなってしまったコンテンツがたくさんあります。これを今後、どうデジタル化していくか。私どもの課題だと考えています。検討しなくてはいけないのは、「縦組み」の問題。紙の辞典では縦組みが当たり前ですが、デジタルではそうはいかない。こうしたデメリットをどうするか。メリットだけでなく、デメリットも考えなければいけません。
――では、デジタル化が当たり前になりつつある時代、辞典の未来はどうなっていくと思われますか?
辞典のあり方そのものが、確実に変わっていくでしょう。一つには、更新しやすいデジタル版の辞典、という形が考えられます。学界の最新学説や最新情報が、つねに更新されていくようなイメージです。新しい情報は、さらなる刺激を生みます。そこから新しい企画や研究も次々と派生していくはずです。図版の扱い方も、デジタル版ならではの工夫ができそうです。また写真を撮りに行くとなったら大変ですが(笑)。ただし、ジャパンナレッジのおかげで、当時よりは辞典作りもやりやすくなるでしょう。
――デジタル時代の辞典を作ってみたいですか?
私があと30歳若ければ、『旧版』、『新版』に継ぐ、まったく新しい辞典、『デジタル版国史大辞典』を作ってみたいものですが、さすがにそれは……(笑)。これは次代への宿題といたしましょう。




2010年7月にジャパンナレッジのコンテンツとして登場した「国史大辞典」。個別ページの範囲指定は、見出し、全文だけでなく、執筆者や参考文献などを指定して調べることができる。


ジャパンナレッジ版「国史大辞典」の本文画面。惣領家が家康の時、徳川と改姓して将軍家となった「松平氏」の検索結果(一部抜粋)。右の「関連図版」からは系図などを見ることができる。


前田求恭(まえだ・もとやす) 前田求恭(まえだ・もとやす)

1942年生まれ。株式会社吉川弘文館代表取締役社長。國學院大学文学部史学科卒業。1965年、同社に入社すると同時に、『国史大辞典』の事務局スタッフとして編集者人生をスタート。97年の完成まで『国史大辞典』の制作ひとすじ。その後『日本の時代史』(全30巻)などを手掛けた。2006年より現職。



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