ニッポン書物遺産

ジャパンナレッジに収録された、数々の名事典、辞書、叢書……。 それぞれにいまに息づく歴史があり、さまざまな物語がある。 世界に誇るあの本を、もっと近くに感じてほしいから、作り手たちのことばをおくります。

世界文学大事典 episode.4

早くも2002年にはデジタル化をし、ネット配信を始めた『世界文学大事典』。さらに2010年6月からは、ジャパンナレッジのラインナップに加わった。最終回のテーマは『世界文学大事典』の未来。

デジタル化が“最新最大”を保証する

吉田「2002年のデジタル化について、経緯を教えていただけますか」

坂上「98年1月に、『世界文学大事典』の最後の巻が発行されました。当時はようやくパソコンが普及し始めてきていて、事典をデジタル化しよう、という流れが自然におこっていたんです」

阿部「私と戸澤編集長は、事典全6巻の刊行が終わると同時に、『イミダス』編集部に異動となったんです。ここから先は、『索引の鬼』にしかわかりません(笑)」

坂上「デジタル化の前に、まず6巻本の縮約版を出そうということになって、『世界文学事典』(事典の前に“大”が付きません)という1巻本の編集をただちに開始したんですが、“最新最大”というキャッチフレーズを守るためには、そのまま縮約したのではダメ。もう一度、ご執筆の先生がたにご校閲いただき、内容を最新データに差し替えていったわけです」

吉田「その作業が、現在のデジタル版、年1回の(4月)更新作業に繋がっていったんですね」

坂上「その通りです。デジタル化する意味は、ひとつにはそこにありました。常に“最新最大”の事典であり続けられる」

戸澤「“最新最大”の世界文学の事典、という評判は、刊行前からありまして、ノーベル文学賞発表の直前になると、問い合わせが殺到しました。刊行後ならばファクスですみますが、刊行前はそうもいかないので、社の会議室に詰めかけた新聞記者が受賞のうわさが流れた何人かの作家や作品について真剣にメモをとっていたものです」

坂上「今でも何かあるといけませんから、発表当日は夜の9時過ぎまで席を立たないようにしているんです。09年のヘルタ・ミュラーほか、計3名を除いて、すべての受賞作家は事典に掲載されていました。もちろん、現在のデジタル版にはヘルタ・ミュラーほかの3名も載っています」

上質な読み物として事典を楽しむ

吉田「今年2010年6月からは、ジャパンナレッジのコンテンツの一つに加わりました。どんな変化があるでしょう?」

坂上「わかりやすい変化では、問い合わせが増えました(笑)。『この作家、亡くなっているんじゃないですか』という、一般紙では掲載されない事柄について、ご指摘を受けるようにもなりました。もう一つは、裾野が広がりました。今までは、どうしても研究者の利用が多かったのですが、ジャパンナレッジでも検索できるようになると、専門家以外の方も見ていただけるようになった」

吉田「では、初心者の方が今後、ジャパンナレッジを通して、『世界文学大事典』を楽しむにはどうしたらいいでしょう?」

阿部「ヴェトナムでもアイスランドでも、思いついた国の名前に、『文学』をつけて検索してみてください。例えば『ヴェトナム文学』ならば、原稿用紙20枚以上の解説が出てきます。文学はその国の文化ですから、理解が深まります。旅行に行く前、このやり方でその国の文学を検索して読んでおくと、またきっと違った旅になるのではないでしょうか?」

坂上「『批評』や『象徴主義』など、大きな事項項目を検索したら面白いと思います。例えば、“批評は人間の最も日常的な、それ故に最も本質的な行為の一つである”で始まる『批評』の解説は、川村二郎先生の名文です」

戸澤「プルーストやジョイス、こういう大作家を検索するのも楽しいかも知れません。特にプルーストは、鈴木道彦先生の名文ですが、原稿用紙にすると50枚を越える。ちょっとした論文です。しかしその分、読み応えもあり、受け取るものも多い」

吉田「事典でありながら、それぞれが一つの上質な読み物である、と。それが簡単に読めるようになった」

戸澤「『世界文学大事典』はあくまで知の入り口。『地球文学』の門なのです。そしてこの入り口は、デジタル化によって、より大きく広がったのではないでしょうか」



2009年10月にノーベル文学賞を受賞したヘルタ・ミュラーの項目。ちなみにジャパンナレッジで人名を検索する場合、姓と名の間にスペースを入れて検索したほうが、より多くの検索結果を得られることが多い。

先日、ジャパンナレッジスタッフのM氏はクロアチアを訪れた。“クロアチア+文学”で検索してみると「南スラヴ諸民族の文学」と出てくる。M氏はこの項目を読んで旅立ったのだろうか?


戸澤忠彦(とざわ・ただひこ) 戸澤忠彦(とざわ・ただひこ)

1939年生まれ。京都大学文学部卒業。学習研究社、日本リーダーズダイジェスト社を経て、87年、綜合社入社。編集長として、98年1月、『世界文学大事典』全6巻を刊行。引き続き、最新情報知識事典『イミダス』編集長に就任。99年取締役、03年常務取締役、05年顧問に就任。


坂上 隆(さかがみ・たかし) 坂上 隆(さかがみ・たかし)

1948年生まれ。中山書店で医学書の編集に携わった後、91年、綜合社入社。『世界文学大事典』(全6巻)編集に従事。98年完結後、『世界文学事典』(全1巻、02年刊行)、『デジタル版 世界文学大事典』(02年末リリース)、古典の文庫化「ヘリテージシリーズ」(03~07年)を担当。07年取締役に就任。


阿部恵子(あべ・けいこ) 阿部恵子(あべ・けいこ)

早稲田大学教育学部国語国文学科卒業。1987年、綜合社入社。『世界文学大事典』(全6巻)編集部に配属される。98年1月、同事典の刊行完結に伴い、3月、主任として、最新情報知識事典『イミダス』編集部に異動、02年同『イミダス』編集部副編集長となり、現在に至る。


吉田正明(よしだ・まさあき) 吉田正明(よしだ・まさあき)

1954年生まれ。集英社学芸編集部辞典・学術書編集長。77年、同社に入社。女性誌をはじめ数誌の雑誌編集に携わった後、宣伝、校閲などの各セクションを経て、08年より現職。綜合社のスタッフと共同で、『デジタル版 世界文学大事典』の更新作業ほかに従事している。




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