日本歴史地名大系ジャーナル 知識の泉へ
日本全国のおもしろ地名、話題の地名、ニュースに取り上げられた地名などをご紹介。
地名の由来、歴史、風土に至るまで、JK版「日本歴史地名大系」を駆使して解説します。
さらに、その地名の場所をGoogleマップを使って探索してみましょう。

第113回 一富士、二鷹、三茄子

2016年01月08日

皆さんは初夢をご覧になられましたか? 昔から縁起のよい初夢といえば、「一富士、二鷹、三茄子」と相場が決まっているようです。2016年の年始めは、めでたい夢の代表格「富士」のつく地名の周辺を巡ります。

ところで、「富士」のつく地名はいったいどのくらいあるのでしょうか? ジャパンナレッジ「日本歴史地名大系」で「富士」と入力して全文検索をかけてみました。ヒット数は2732件。もちろん、全文検索ですので重複も多くありますし、地名だけではなく、「富士氏」といった人名なども含んでの数値ですが……。

2732件を地域・地方別でみますと、お膝元の中部地方が1316件でトップ。次いで富士山のビューポイントが多い関東地方が833件。以下、北海道・東北地方217件、近畿地方139件、九州・沖縄地方132件、中国・四国地方95件となっています。都道府県別では、所在地である静岡県(561件)と山梨県(388件)が群を抜いています。3位には171件の東京都が入り、僅差で神奈川県(169件)、以下、埼玉県(136件)、北海道・長野県(129件)、群馬県(112件)、愛知県(103件)と続き、ここまでが100件以上となります。

都道府県別では、富士山から最も離れている沖縄県を含めてゼロヒットはありません。空白県を作らずに「富士」地名が分布しているのは、南部富士(岩手山)、近江富士(三上みかみ山)、伯耆ほうき富士(大山だいせん)、讃岐富士(飯野いいの山)、薩摩富士(開聞かいもん岳)といったように、全国各地にいわゆる「ご当地富士」がそびえているからではないでしょうか。

それにしても北海道の健闘が目立ちます。じつは、北海道には蝦夷えぞ富士(羊蹄ようてい山・1898メートル)を筆頭として、美瑛びえい富士(1888メートル)、利尻りしり富士(利尻山・1721メートル)、新冠にいかっぷ富士(1667メートル)、阿寒あかん富士(1476メートル)、北見きたみ富士(1291メートル)、渡島おしま富士(駒ケ岳・1131メートル)、浜益はまます富士(黄金こがね山・739メートル)、母恋ぼこい富士(156メートル)、手宮てみや富士(いし山・140メートル)等々、数多くの「ご当地富士」があり、これが上位進出の要因となったようです。

数多い北海道「ご当地富士」のなかで、筆頭格といえる蝦夷富士

次に「日本歴史地名大系」に立項されている項目(見出し項目)で「富士」を含むものがいくつあるのかみてみましょう。「富士」と入力して、今度は見出し(部分一致)を選択、検索をかけますと82件がヒットしました。地域・地方別では、やはり中部地方と関東地方が多く36件でトップに並び、以下、北海道・東北地方5件、九州・沖縄地方4件、中国・四国地方1件(1件は四国地方)で、近畿地方はゼロヒットでした。

82件のうちには、本家本元である富士山(山梨県・静岡県)はもちろんのこと、先にあげた利尻富士・阿寒富士(北海道)や八丈はちじょう富士(東京都)といった「ご当地富士」、また、富士川(山梨県・静岡県)や富士見ふじみ峠(栃木県)といった自然地名項目が含まれています。そのほかでは、富士信仰の中心である富士山本宮ふじさんほんぐう浅間せんげん大社(静岡県富士宮市)をはじめとして富士浅間神社(群馬県・静岡県・愛知県)、富士神社(東京都・愛知県)といった神社項目、富士山ふじやま古墳(古墳群を含めて栃木県に3箇所)、富士見台ふじみだい貝塚(千葉県)、富士見台遺跡(東京都)といった考古学関連項目なども数多く含まれていました。一方で、現在の町名・大字に相当する、いわゆる町村項目を中心とした歴史地名項目は、思ったほど多くはありませんでした。

富士山信仰の中心的な神社、静岡県富士宮市の富士山本宮浅間大社

また、歴史地名項目をみても、古代・中世にさかのぼることができる項目は(駿河国)富士郡(静岡県)、この富士郡内に成立した富士庄、中世に富士郡が二分して誕生した富士上方かみかた・富士下方しもかたなど少数で、そのほかの項目は江戸の駒込こまごめ上富士前かみふじまえ町(東京都文京区)、明治初年に江戸の旧番町ばんちょう地域を再編して誕生した富士見町一~六丁目(東京都千代田区)といった近世以降に誕生した比較的新しい歴史地名が多いといえます。

なかでも「富士」の名がついた新田が目につきます。富士山ふじやま新田(栃木県)、富士新田(群馬県、2箇所)、富士山栗原ふじやまくりはら新田(東京都)といったあたりで、富士山を望む大地を開発した人々が、その発展を願って、縁起のよい「富士」を村名に冠したと推測したいところです。しかし、東京都の富士山栗原新田は「富士山村名主栗原七右衛門が開墾した新田」で、親村自体がすでに「富士」を冠していました。また、栃木県の富士山新田は「富士山の山麓を占める」新田で、旧岩舟いわふね町(現栃木市)の「ご当地富士」である富士山(93.7メートル)の山麓を開発した村であることが判明します。筆者の推測どおり……というわけにはいきませんでした。

現在の地方自治体では、富士山の静岡県側に富士宮ふじのみや市・富士市、山梨県側に富士吉田ふじよしだ市・富士河口湖ふじかわぐちこ町(南都留みなみつる郡)があります。そのほか長野県に富士見町(諏訪すわ郡)、埼玉県に富士見市があります。2005年には、埼玉県富士見市の北西に位置した上福岡かみふくおか市と入間いるま大井おおい町が合併して「ふじみ野市」も誕生しました。また、1990年には、北海道の利尻島東部を占める東利尻町(利尻郡)が、開村110年を記念して利尻富士町と改称しました。やはり、ご当地富士の多い北海道ならではの改称といえるでしょうか。

その一方で、佐賀県佐賀郡富士町(2005年に佐賀市に合併)、群馬県勢多せた郡富士見村(2009年に前橋市に編入)など、馴染み深かった「富士」を冠した地方自治体が、いわゆる平成の大合併でその姿を消しています。