秀でたもの、強力なもの、あるいは特徴のあるものを幾つかまとめ、その数をつけてよぶ言い方を一般に「
昔、学校で三筆(嵯峨天皇・空海・橘逸勢)と三蹟(小野道風・藤原佐理・藤原行成)を習い、あとで「空海は三筆・三蹟のどっちだったけ」などと迷った覚えはありませんか?
「日本歴史地名大系」の項目のなかでも、こうした名数を使用した記述は随所にみられます。ただし、たとえば「日本三大祭」といった場合、京都
そこで「日本歴史地名大系」では、史料に明確な記述がある場合や、たとえば「日本三景」(陸前
おやおや、先ほど「名数を使用した記述は随所にみられます」と述べたことと矛盾しますね。しかし、これは、ある限られた地域で「三大○○」とか「五大○○」などを称している場合、ほかの地域の項目と抵触する可能性が低く、「名数を使用した記述」でも齟齬が生じにくいと考えたからです。
名数表現のなかでよく耳にするものに「八景」があります。もともとは中国
中国では宋代から絵画の題材として数多く描かれ、日本でも鎌倉末期以降、漢画(唐絵)の主要なモチーフの一つとなりました。やがて、瀟湘にならって近江八景、大和八景、金沢八景など多くの和製八景が誕生します(JK版「日本大百科全書」など)。ちなみに、JK版「日本歴史地名大系」の全文検索で「八景」と入力すると、314件がヒット。分布図(下掲)をみると、それこそ全国各地で「八景」が選定されていたことが判明します。
※ 画像をクリックすると別ウィンドウが開き、
拡大画像が表示されます
地域は変わっても、多くの場合、青嵐・夕照・夜雨・帰帆・晩鐘・秋月・落雁・暮雪の八景に変わりはなく、たとえば、近江八景の場合、
「七不思議」もよく耳にする名数表現の一つですが、「日本七不思議」という言い方は一般的ではありません。ところが、地域では、それぞれの七不思議を伝えてきました。試しにJK版「日本歴史地名大系」の全文検索で「七不思議」と入力すると、51件がヒット。分布図は下図となります。
※ 画像をクリックすると別ウィンドウが開き、
拡大画像が表示されます
検索結果一覧のスニペット(抜書き)表示からは、寺院や神社に伝わる「七不思議」が多いことがわかります。また、岩手県の
もう一つ、名数表現の代表的なものに「三十三所」の観音霊場(札所)があります。33の数は、観音の化身の数33に擬したもので(JK版「日本国語大辞典」)、
三十三所観音霊場(札所)がどのような広がりをみせるのか、JK版「日本歴史地名大系」の全文検索を使って調べてみましょう。ただし、地域によっては「三十三所」を「三十三箇所」とか「三十三番」と記したり、単に「三十三観音」と表記したりします。そこで「三十三」と「観音」をキーワードとして「and検索」で入力します。ヒット件数はじつに1221件にのぼります(分布図・グラフ表示は下掲)。
※ 画像をクリックすると別ウィンドウが開き、拡大画像が表示されます
県別トップは福島県の152件。福島県は東北地方ですから、西国三十三所や坂東三十三所や秩父三十三所には関係はありません。そこで、検索対象地域を「福島県」単独に絞り込んで再検索、スニペット表示を見て「三十三所観音霊場」の記述が多い理由を探ってみました。その結果、福島県内には、主なものだけでも
こうしてみますと、JK版「日本歴史地名大系」で「○○箇所」といった名数表現のキーワード検索を行ったとき、「○○箇所」の何倍もの件数がヒットする背景には、地域ごとに、それぞれの「ベストテン」を選定してきた歴史が積み重ねられているといえるかもしれません。