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第64回 続報「政令指定都市、ユニーク度ランキング」

2012年06月08日

このコーナー(日本列島「地名」をゆく!)では、かつて(2008年=平成20年5月30日)、当時の17政令指定都市に東京特別区を加えた18都市の共通区名を抽出し、独自区名の比率が高い(他の都市と重複する区名の比率が低い)都市をユニーク度が高い都市と位置付け、ランキングを発表しました。

1位はユニーク度100%の川崎市(川崎区・幸区・中原区・高津区・多摩区・宮前区・麻生区の7区で構成)と北九州市(門司区・若松区・戸畑区・小倉北区・小倉南区・八幡東区・八幡西区の7区で構成)が分け合い、同じようにユニーク度100パーセントながら、総区数の差で(同率ならば、総区数が多いほうが上位)、静岡市(葵区・駿河区・清水区の3区で構成)が3位に入りました。

一方、ランキング下位では浜松市(中区・東区・西区・南区・北区・浜北区・天竜区の7区で構成)と堺市(堺区・中区・東区・西区・南区・北区・美原区の7区で構成)が、ユニーク度28・57パーセントで同率最下位(17位)に並びました。

その折に、他都市との重複頻度が高い区名について「共通区名をながめてみると、当然のことですが、中心を現す中央区(あるいは中区)、それに東・西・南・北の方角を示す4区名が、多くの都市で用いられています。中央(中)+東+西+南+北は、政令指定都市の区名5点セットといえるかもしれません」と記し、中区(または中央区)と東区・西区・南区・北区を「政令指定都市の区名5点セット」と命名しました。

そして、政令指定都市への移行が新しいほど「5点セット」の使用比率が高くなる傾向があることから、各都市の新区名制定担当者のなかには、中(中央)+東西南北の5点セットを「抽象的な地名(区名)であり、かつ先行する多くの政令指定都市が用いているので、〈モダンで都市的な地名だ〉といった錯誤がある」のではないか、との懸念を表明しました。

さらに、無味乾燥な(だから反対も少ないために選ばれる?)中(中央)+東西南北の5点セット区名の使用を控え、ユニーク度の高い(固有区名の比率が高い)政令指定都市の誕生を願いつつ、次のような文章で締め括りました。

現在、相模原市、岡山市、熊本市などが政令指定都市への移行を目指しています。これらの都市が政令指定都市に移行する際には、〈モダン〉で〈金太郎飴〉のような区名ではなく、調整は難しくとも、地域の歴史と伝統が反映された新区名が命名され、〈ユニークな都市〉に成長することを期待してやみません。

さて、その後、先に掲げた相模原・岡山・熊本の3市は、岡山市(平成21年4月1日)、相模原市(平成22年4月1日)、熊本市(平成24年4月1日)と順次政令指定都市に移行しました。そして、残念ながら、筆者の杞憂は杞憂で終わりませんでした。

各都市の新区名は、岡山市が中区・東区・南区・北区の4区、相模原市が中央区・南区・緑区の3区、熊本市は中央区・東区・西区・南区・北区の5区で、計12区名のうち、11区が「5点セット区名」で占められ、残る1区、相模原市緑区も、先行する名古屋市・横浜市・千葉市・さいたま市で重複使用されているため、ユニーク度の視点でいえば、3都市とも0パーセント、ものの見事に最下位を分け合うかたちになりました。

3都市ともにユニーク度0パーセントとは、「5点セット区名」の濫用を深く懸念していた筆者でさえ、想定外の数値でした。


そこで、今回は、覆水盆に返らずではありますが、「5点セット区名」を使用しない、岡山・相模原・熊本3都市における区名改正案(要らぬお節介)を提案することとしました。なお、筆者は上記3都市での居住経験などは皆無のため、該当地域の歴史的特色等についてはJK版「日本歴史地名大系」を参照しました。

まずは中区・東区・南区・北区の4区からなる岡山市から。中区は江戸時代以前には上道郡(郡名の読みは「じょうどう」、ただし、古くは「かみつみち」)に属した地域が中心ですから、上道じょうどう区がまず候補となります。しかし、筆者は中央部に聳え、区内のどこからも仰ぎ見ることができる操山みさおやま(標高169メートル)に着目しました。ただし、読みは「みさおやま」ではなく、音読み(漢語風)を採用して「そうざん」とし(「そうざん」の読みは岡山市民に定着しています)、操山そうざん区を推薦したいと思います。

次いで東区は、岡山市の旧西大寺市さいだいじし地区と旧瀬戸町せとちよう地区を合わせた範囲に相当します。区内の大部分が中央部を貫流する砂川の流域ですから、砂川区は有力候補です。しかし、筆者は昭和44年(1969年)に岡山市に編入されて消滅した西大寺市の市名を惜しみます。そこで、これを復活させて西大寺区としました(旧瀬戸町にお住みの方々はご免なさい)。

南区は児島こじま湾に面し、江戸時代には児島郡であった地域ですから、児島区でスッキリ決定です。

最後の北区が一番の問題となります。北区は現在の岡山市街の中核となる旧岡山城下を含み、旧御津町みつちょう域や旧建部町たけべちょう域に及びます。さらに、区内には備前国一宮の吉備津彦きびつひこ神社や備中国一宮の吉備津神社も鎮座します。江戸時代までの郡域でいえば、美作国久米南条くめなんじょう郡・久米北条郡、備前国御野みの郡・津高つだか郡・赤坂あかさか郡、備中国賀陽郡(郡名の読みは古くは「かや」、江戸時代には「かよう」)・都宇つう郡など、多くの郡域が錯綜しています。吉備津区・烏城うじょう区(「烏城」は岡山城の雅称)などが候補となりますが、筆者は区域東部を流れる旭川あさひがわ(下流では中区との境界となる)から採用して、旭区を提案します。

以上の結果、岡山市は操山区・西大寺区・児島区・旭区の4区ということになり、ユニーク度は75パーセント(旭区は大阪市・横浜市に同一区名があります)に上昇します。先回のランキングでいえば、6位の大阪市と肩を並べることになります。

次は中央区・南区・緑区の3区からなる相模原市の検討です。江戸時代までの郡域でいえば緑区は津久井つくい郡、中央区・南区は高座郡(郡名の読みは古くは「たかくら」、江戸時代には「こうざ」)に属しました。旧津久井郡の郡域は現在の緑区の区域とほぼ合致しますので、緑区の改正案は津久井区で決まりです。しかし、旧高座郡の郡域は広大ですから(相模原市のほか、大和・座間・綾瀬・海老名・藤沢・茅ヶ崎の6市と寒川町が旧郡域に含まれる)、高座こうざ区は中央区・南区どちらの区名にも適さないと思います。

ところで、江戸時代まで中央区・南区の一帯は相模野さがみのとよばれる原野(南部は大和・座間・海老名の3市にも広がる)で、北西方(中央区・緑区寄り)に向かっては横山よこやま丘陵が続いていました。そこで、南区は相模野区、中央区は横山区を改正案として提案します。

相模原市は横山区、相模野区・津久井区の3区ですから、ユニーク度は100パーセントとなります。

最後は中央区・東区・西区・南区・北区の5区からなる熊本市の検討です。中央区は江戸時代の熊本城下を中心とした地域。熊本城や藤崎ふじさき八幡宮など、シンボルとなる史跡も数多いのですが、そのなかの一つである水前寺成趣すいぜんじじょうじゅ園(水前寺公園)から採用して水前寺区としました。東区は江戸時代までは託麻たくま郡に属していましたから、託麻区で決定です

西区は江戸時代には飽田あきた郡域でしたから飽田区が有力候補ですが、じつは旧飽田郡域は広大で、旧郡の中心地区は現在の中央区域にあたりますので、落選です。また、広く島原しまばら湾に面しているので島原区もあるのでしょうが、島原は長崎県のイメージが強いので、これも落選。そこで区の北部に聳える金峰山(読みは「きんぼうざん」とも「きんぽうざん」とも)(標高665メートル)から頂戴して金峰山きんぼうざん区(読みはJK版「日本歴史地名大系」の「きんぼうざん」を採用)にします。南区は熊本県の3大河川の一つ、緑川みどりかわの下流域に展開していますから、緑川区で決まり。

熊本市でも問題は北区です。北区の境域は合併前の熊本市の北部(旧飽田郡)から旧北部町ほくぶまち(旧飽田郡)、旧植木町うえきまち(旧山本郡)まで広がります。植木地区には西南戦争の激戦地で知られる田原坂たばるざかがあり、田原区も有力なのですが、区域の北に偏っているきらいがあります。ところで、熊本市のホーム・ページでは「北区の紹介」欄で、植木温泉・宮原みやばる温泉・菊南きくなん温泉・梶尾かじお温泉などの温泉に恵まれていることを特徴にあげています。そこで、これを頂戴して、温泉区(区名の読みは「ゆのく」)はどうでしょうか。

この結果、熊本市は水前寺区・託麻区・金峰山区・緑川区・温泉区の5区となり、これもユニーク度100パーセントとなりました。


ここまで、詮無い戯言を書き連ねてきました。しかし、前述のように、4年前の筆者の危惧は見事に(あまりに見事に)的中してしまいました。今年4月に移行した熊本市の「次」を目指して船橋市・八王子市・姫路市などが、虎視眈眈と政令指定都市移行の機会を窺っています。これらの都市が新区名を制定するにあたって、少なくとも50パーセント以上の区名ユニーク度を達成してほしい、「区名5点セット」はできるだけ使用しないでほしい、と改めて思いを強くする次第です。

岡山市中区のシンボル、操山(みさおやま)

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