このコーナー(日本列島「地名」をゆく!)では、かつて(2008年=平成20年5月30日)、当時の17政令指定都市に東京特別区を加えた18都市の共通区名を抽出し、独自区名の比率が高い(他の都市と重複する区名の比率が低い)都市をユニーク度が高い都市と位置付け、ランキングを発表しました。
1位はユニーク度100%の川崎市(川崎区・幸区・中原区・高津区・多摩区・宮前区・麻生区の7区で構成)と北九州市(門司区・若松区・戸畑区・小倉北区・小倉南区・八幡東区・八幡西区の7区で構成)が分け合い、同じようにユニーク度100パーセントながら、総区数の差で(同率ならば、総区数が多いほうが上位)、静岡市(葵区・駿河区・清水区の3区で構成)が3位に入りました。
一方、ランキング下位では浜松市(中区・東区・西区・南区・北区・浜北区・天竜区の7区で構成)と堺市(堺区・中区・東区・西区・南区・北区・美原区の7区で構成)が、ユニーク度28・57パーセントで同率最下位(17位)に並びました。
その折に、他都市との重複頻度が高い区名について「共通区名をながめてみると、当然のことですが、中心を現す中央区(あるいは中区)、それに東・西・南・北の方角を示す4区名が、多くの都市で用いられています。中央(中)+東+西+南+北は、政令指定都市の区名5点セットといえるかもしれません」と記し、中区(または中央区)と東区・西区・南区・北区を「政令指定都市の区名5点セット」と命名しました。
そして、政令指定都市への移行が新しいほど「5点セット」の使用比率が高くなる傾向があることから、各都市の新区名制定担当者のなかには、中(中央)+東西南北の5点セットを「抽象的な地名(区名)であり、かつ先行する多くの政令指定都市が用いているので、〈モダンで都市的な地名だ〉といった錯誤がある」のではないか、との懸念を表明しました。
さらに、無味乾燥な(だから反対も少ないために選ばれる?)中(中央)+東西南北の5点セット区名の使用を控え、ユニーク度の高い(固有区名の比率が高い)政令指定都市の誕生を願いつつ、次のような文章で締め括りました。
現在、相模原市、岡山市、熊本市などが政令指定都市への移行を目指しています。これらの都市が政令指定都市に移行する際には、〈モダン〉で〈金太郎飴〉のような区名ではなく、調整は難しくとも、地域の歴史と伝統が反映された新区名が命名され、〈ユニークな都市〉に成長することを期待してやみません。
さて、その後、先に掲げた相模原・岡山・熊本の3市は、岡山市(平成21年4月1日)、相模原市(平成22年4月1日)、熊本市(平成24年4月1日)と順次政令指定都市に移行しました。そして、残念ながら、筆者の杞憂は杞憂で終わりませんでした。
各都市の新区名は、岡山市が中区・東区・南区・北区の4区、相模原市が中央区・南区・緑区の3区、熊本市は中央区・東区・西区・南区・北区の5区で、計12区名のうち、11区が「5点セット区名」で占められ、残る1区、相模原市緑区も、先行する名古屋市・横浜市・千葉市・さいたま市で重複使用されているため、ユニーク度の視点でいえば、3都市とも0パーセント、ものの見事に最下位を分け合うかたちになりました。
3都市ともにユニーク度0パーセントとは、「5点セット区名」の濫用を深く懸念していた筆者でさえ、想定外の数値でした。
そこで、今回は、覆水盆に返らずではありますが、「5点セット区名」を使用しない、岡山・相模原・熊本3都市における区名改正案(要らぬお節介)を提案することとしました。なお、筆者は上記3都市での居住経験などは皆無のため、該当地域の歴史的特色等についてはJK版「日本歴史地名大系」を参照しました。
まずは中区・東区・南区・北区の4区からなる岡山市から。中区は江戸時代以前には上道郡(郡名の読みは「じょうどう」、ただし、古くは「かみつみち」)に属した地域が中心ですから、
次いで東区は、岡山市の旧
南区は
最後の北区が一番の問題となります。北区は現在の岡山市街の中核となる旧岡山城下を含み、旧
以上の結果、岡山市は操山区・西大寺区・児島区・旭区の4区ということになり、ユニーク度は75パーセント(旭区は大阪市・横浜市に同一区名があります)に上昇します。先回のランキングでいえば、6位の大阪市と肩を並べることになります。
次は中央区・南区・緑区の3区からなる相模原市の検討です。江戸時代までの郡域でいえば緑区は
ところで、江戸時代まで中央区・南区の一帯は
相模原市は横山区、相模野区・津久井区の3区ですから、ユニーク度は100パーセントとなります。
最後は中央区・東区・西区・南区・北区の5区からなる熊本市の検討です。中央区は江戸時代の熊本城下を中心とした地域。熊本城や
西区は江戸時代には
熊本市でも問題は北区です。北区の境域は合併前の熊本市の北部(旧飽田郡)から旧
この結果、熊本市は水前寺区・託麻区・金峰山区・緑川区・温泉区の5区となり、これもユニーク度100パーセントとなりました。
ここまで、詮無い戯言を書き連ねてきました。しかし、前述のように、4年前の筆者の危惧は見事に(あまりに見事に)的中してしまいました。今年4月に移行した熊本市の「次」を目指して船橋市・八王子市・姫路市などが、虎視眈眈と政令指定都市移行の機会を窺っています。これらの都市が新区名を制定するにあたって、少なくとも50パーセント以上の区名ユニーク度を達成してほしい、「区名5点セット」はできるだけ使用しないでほしい、と改めて思いを強くする次第です。