みなさんは、重要伝統的建造物群保存地区(略して重伝建)という言葉を聞いたことがありますか? 城下町、宿場町、門前町といった全国各地に残る歴史的な集落、町並み(=伝統的建造物群)の保存を図るため、昭和50年(1975)の文化財保護法改正によって発足した制度です。
文化庁のホームページには、「市町村は、都市計画または条例により伝統的建造物群保存地区を定め、国はその中から価値の高いものを重要伝統的建造物群保存地区として選定し、市町村の保存事業への財政的援助や技術的指導を行っています」と記されています。
昭和50年9月に現在の秋田県
また、こうした保存地区を有する自治体が集まって結成された「全国伝統的建造物群保存地区協議会」(略して伝建協=デンケンキョウ。平成20年4月現在で71市町村が加盟)という組織や、先述した昭和50年の文化財保護法改正に先立って、愛知県名古屋市緑区
歴史的な町並みや周囲の景観を保存して、次代に伝えようとする活動は、少しずつではありますが、その成果を実らせているようです。ちなみに、伝建協のホームページは、協議会の主旨について、次のように記しています。
「幾多の風雪に耐えてきた茅葺屋根の集落、土塀や生垣に囲まれ静かな佇まいを残した武家屋敷群、重厚な土蔵造など昔の繁栄を偲ばせる商家の町並などは、長い年月をかけて何代にも亘り受け継がれてきた貴重な日本の文化遺産です。これらは、我が国の歴史や文化を理解するために欠くことのできないものであり、私たちはこれらを後世に伝える大切な責務を持っていると考えます。
(中略)
成熟社会を迎える日本において、国民の歴史や伝統を求める文化的志向はますます強くなり、多くの人々がこれらの地区を訪れています。また、近年では、このような伝統的建造物群保存地区の集落・町並の保存は、地区の個性を活かした持続可能なまちづくりとして、国の内外から注目を集めるようになり、ますますその重要性が高まっています。
(中略)
協議会では、保存地区の歴史的町並を保存するためのさまざまな情報を収集・蓄積し、これらを会員相互で共有するとともに全国に発信するため、歴史的町並の保存に関わる講演会の開催や写真パネル展、協議会のインターネットホームページの開設などを行っています」
活気のある街づくりと文化財の保存という、一見相反するようにみえる課題を克服するのは、一地方自治体の手に余るものかもしれません。
ところで、文化庁の「国指定文化財等データベース」では「重要伝統的建造物群保存地区」の選定事由を次の22種(その他を含む)に分類しています。
〈港町=12件〉〈講中宿=1件〉〈鉱山町=2件〉〈在郷町=8件〉〈山村=1件〉〈山村集落=8件〉〈寺内町=2件〉〈社家町=1件〉〈宿場町=6件〉〈商家町=18件〉〈城下町=3件〉〈製塩町=1件〉〈製磁町=1件〉〈製蝋町=1件〉〈茶屋町=4件〉〈島の農村集落=2件〉〈農村集落=1件〉〈武家町=10件〉〈門前町=3件〉〈養蚕町=1件〉〈里坊群=1件〉〈その他=9件〉
合計は96件になりますが、たとえば長野県
ちなみに、「国指定文化財等データベース」では県別検索もでき、これによりますと、選定地区が最も多いのは京都府の7件(なんとなく納得)、次に長野県・岐阜県の5件が続いています。逆に、宮城県・山形県・栃木県・東京都・神奈川県・静岡県・愛知県・熊本県の8都県では選定地区が1件もありません。これらの都県に歴史的な町並みが残っていないとは思えないのですが。たとえば前述した町並み保存活動の草分けともいえる名古屋市緑区有松地区は愛知県ですし、「蔵の街」として有名な栃木市は栃木県、鎌倉が神奈川県などと、伝統的建造物群が残っていそうな地区をすぐに思い浮かべることができます。あるいは、保存地区に選定されないのは、開発とのバランスなどがネックとなっているのでしょうか。
一方、伝建協のデータベース「伝建資料室」の伝建台帳(=デンケンダイチョウ)では、重要伝統的建造物群保存地区を次の8種に分類しています。
〈集落〉
〈宿場の町並〉
〈港と結びついた町並〉
〈商家の町並〉
〈産業と結びついた町並〉
〈社寺を中心とした町並〉
〈茶屋の町並〉
〈武家を中心とした町並〉
文化庁のデータベースと比べると、はるかにわかりやすい分類ですね。ちなみに、〈集落〉とは、都市的な町並みに対しての「農山漁村の集落」といった意味合いと思われます。ここで、伝建台帳の地域区分に従った全国6地域ごとの種別を一覧表にまとめてみました(重複はカウントしていませんので、合計は87件です)。
北海道・東北 | 関東・甲信越 | 中部・北陸 | 近 畿 | 中国・四国 | 九州・沖縄 | (計) | |
集落 | 0 | 2 | 5 | 3 | 1 | 3 | 14 |
宿場 | 1 | 4 | 2 | 0 | 0 | 0 | 7 |
港 | 1 | 1 | 0 | 1 | 4 | 5 | 12 |
商家 | 1 | 3 | 6 | 2 | 6 | 5 | 23 |
産業 | 0 | 1 | 0 | 2 | 4 | 2 | 9 |
社寺 | 0 | 0 | 0 | 6 | 0 | 0 | 6 |
茶屋 | 0 | 0 | 2 | 1 | 0 | 0 | 3 |
武家 | 3 | 0 | 0 | 2 | 2 | 6 | 13 |
(計) | 6 | 11 | 15 | 17 | 17 | 21 | (87) |
伝建台帳の分類でもっとも件数が多いのは〈商家の町並〉で23件、これは文化庁の分類では〈在郷町=8件〉や〈商家町=18件〉に相当すると思われます。次に多い〈集落〉14件は、文化庁の〈山村=1件〉〈山村集落=8件〉〈島の農村集落=2件〉〈農村集落=1件〉といったあたりでしょう。その次に多い〈武家を中心とした集落〉13件は〈城下町=3件〉〈武家町=10件〉の合計になります。
ところで、伝建台帳の分類では〈産業と結びついた町並〉が全国で9件あります。以下の9地区です。
A.長野県
B.京都府
C.和歌山県
D.島根県
E.岡山県
F.広島県
G.愛媛県
H.佐賀県
I.佐賀県
では、それぞれの地区ではどんな産業が盛んだったのかわかりますか? 解答と続きは次回に。
(この稿続く)