全国に広く分布する「柏原」という地名について、前回はその読みと地域分布をJK版「日本歴史地名大系」の個別検索機能を活用して調べました。その結果、読みは「かしはら」「かしわら」「かいばら」「かしばら」「かせばら」「かしわはら」「かしわばら」「かしわばる」「かしょうばら」「かしわっぱら」の10種にのぼること、「東北・北海道」「関東」「中部」「近畿」「中国・四国」「九州・沖縄」の6地域区分では、近畿地方に多くみられること(全67件のうち28件。2位の「中部」と「九州・沖縄」は、ともに13件)、また、読みの種類も近畿地方がもっともバラエティーに富んでいること(10種のうち7種があり、2位の「中国・四国」は4種)などが判明しました。
この10種の読みを「柏」と「原」に分けてみると、「柏」は「かし」「かい」「かせ」「かしわ」「かしょう」の5種、「原」は「はら」「わら」「ぱら」「ばら」「ばる」の5種で、これらの組み合わせで10種の読みとなっています。
ところで、地名は一般的にその表記(漢字)よりも音(読み)のほうが、地名が本来もっている意味をよく示していることが多いので、今度は「柏原」と入力するのではなく、先にあげた10種の読みで、JK版「日本歴史地名大系」に検索(個別検索)をかけてみました(前回と同じく、見出し・前方一致の条件)。その結果が次表です。
入力文字 | ヒット件数 | 「柏原」以外の表記 |
かしはら | 19 | 「樫原」「橿原」「加志波良」 |
かしわら | 11 | 「樫原」「橿原」 |
かいばら | 10 | 「貝原」「皆原」「栢原」 |
かしばら | 5 | 「樫原」 |
かせばら | 4 | ナ シ |
かしわはら | 4 | ナ シ |
かしわばら | 25 | ナ シ |
かしわばる | 7 | ナ シ |
かしょうばら | 1 | ナ シ |
かしわっぱら | 1 | ナ シ |
検索結果を「柏」の異記と「原」の異記に分けて検討してみます。「柏」の異記は「かし」と発音する場合には「樫」と「橿」があり、「かい」と発音する場合には「貝」と「皆」があります。「かい」には「栢」もありますが、「栢」は「柏」の異体字ですから、今回は「柏」と同字とみなします。「かしわ」および「かせ」「かしょう」と発音する場合には「柏」以外の字はあてられていません。
次に「原」の場合は「(加志)波良」の「波良」以外は、すべて「原」の字です。この「加志波良」は、石川県
以上をまとめてみますと、「柏原」の地名は、「柏」以外に「樫」「橿」の木も視野に入れ、「かい」(貝・皆)の発音に注意しつつ、「原」はおおむね「野原」「原っぱ」の原(平地・平原)を想定すればよいというこになります。ただし、「はら」ではなく「ばら」と濁ると、「茨の原」(茨の叢生地)の意味もありますから(鏡味完二・鏡味明克『地名の語源』、1977年・角川小辞典13)、少し注意が必要です。
次回は、いよいよ「柏」(かしわ・かい・かし)の検討に入ります。
(この稿続く)