日本歴史地名大系ジャーナル 知識の泉へ
日本全国のおもしろ地名、話題の地名、ニュースに取り上げられた地名などをご紹介。
地名の由来、歴史、風土に至るまで、JK版「日本歴史地名大系」を駆使して解説します。
さらに、その地名の場所をGoogleマップを使って探索してみましょう。

第41回 柏原あれこれ(2)

2010年07月23日

全国に広く分布する「柏原」という地名について、前回はその読みと地域分布をJK版「日本歴史地名大系」の個別検索機能を活用して調べました。その結果、読みは「かしはら」「かしわら」「かいばら」「かしばら」「かせばら」「かしわはら」「かしわばら」「かしわばる」「かしょうばら」「かしわっぱら」の10種にのぼること、「東北・北海道」「関東」「中部」「近畿」「中国・四国」「九州・沖縄」の6地域区分では、近畿地方に多くみられること(全67件のうち28件。2位の「中部」と「九州・沖縄」は、ともに13件)、また、読みの種類も近畿地方がもっともバラエティーに富んでいること(10種のうち7種があり、2位の「中国・四国」は4種)などが判明しました。

この10種の読みを「柏」と「原」に分けてみると、「柏」は「かし」「かい」「かせ」「かしわ」「かしょう」の5種、「原」は「はら」「わら」「ぱら」「ばら」「ばる」の5種で、これらの組み合わせで10種の読みとなっています。

ところで、地名は一般的にその表記(漢字)よりも音(読み)のほうが、地名が本来もっている意味をよく示していることが多いので、今度は「柏原」と入力するのではなく、先にあげた10種の読みで、JK版「日本歴史地名大系」に検索(個別検索)をかけてみました(前回と同じく、見出し・前方一致の条件)。その結果が次表です。

入力文字ヒット件数「柏原」以外の表記
 かしはら19  「樫原」「橿原」「加志波良」
 かしわら11  「樫原」「橿原」
 かいばら10  「貝原」「皆原」「栢原」
 かしばら5  「樫原」
 かせばら4 ナ シ
 かしわはら4 ナ シ
 かしわばら25 ナ シ
 かしわばる7 ナ シ
 かしょうばら1 ナ シ
 かしわっぱら1 ナ シ

 

検索結果を「柏」の異記と「原」の異記に分けて検討してみます。「柏」の異記は「かし」と発音する場合には「樫」と「橿」があり、「かい」と発音する場合には「貝」と「皆」があります。「かい」には「栢」もありますが、「栢」は「柏」の異体字ですから、今回は「柏」と同字とみなします。「かしわ」および「かせ」「かしょう」と発音する場合には「柏」以外の字はあてられていません。

次に「原」の場合は「(加志)波良」の「波良」以外は、すべて「原」の字です。この「加志波良」は、石川県珠洲すず宝立町ほうりゅうまち柏原かしはらの「加志波良比古かしはらひこ神社」が前方一致でヒットしたのですが、元来は地名「柏原」(古い史料には「樫原」ともみえる)に「加志波良」の字をあてたものですから、「波良」は「原」と同一とみなすことができます。

石川県珠洲市宝立町柏原の「加志波良」神社

Googleマップのページを開く

以上をまとめてみますと、「柏原」の地名は、「柏」以外に「樫」「橿」の木も視野に入れ、「かい」(貝・皆)の発音に注意しつつ、「原」はおおむね「野原」「原っぱ」の原(平地・平原)を想定すればよいというこになります。ただし、「はら」ではなく「ばら」と濁ると、「茨の原」(茨の叢生地)の意味もありますから(鏡味完二・鏡味明克『地名の語源』、1977年・角川小辞典13)、少し注意が必要です。

次回は、いよいよ「柏」(かしわ・かい・かし)の検討に入ります。

(この稿続く)