このシリーズのはじめの頃に、「三田」(「ミタ」と「サンダ」)や「新宿」(「シンジュク」と「ニイジュク」と「アラジュク」)を例にあげ、同じ表記の地名でも地域によって標準的な読み方が異なることに触れました(第3回 難読地名~鳥獣編(1))。
首都圏では「新宿」と似たような例として「立川」もあげられます。東京都
「立川」や「新宿」を例にあげたように、駅名の読み方が一帯の標準的な読み方になるケースは数多くみられます。
では、近畿地方に住んでいる人たちに「柏原」と書いて何と読みますか? と尋ねたら、どんな答えが返ってくるでしょうか。大阪府の人は「カシワラ」、滋賀県の人は「カシワバラ」、兵庫県に住んでいる人は「カイバラ」と答えるのではないでしょうか。
じつは、近畿地方には「柏原」と記す駅が3箇所もあります。読みは大阪府
「柏原」と記す地名は広く全国に分布します。ただし、表記は同じ「柏原」でも、その読み方はじつにバラエティーに富んでいます。一般には「カシワバラ」と読む人が多いと思いますが、九州では「原」を「ハル」「バル」といいますから「カシワバル」と読む人が圧倒的かもしれません。
「柏原」という地名は、読み方などでどのような分布傾向がみられるのか、JK版「日本歴史地名大系」の個別検索の各種機能を活用して調べてみました。
見出し・前方一致の条件(東・西・南・北の柏原など、重複を避けるために前方一致としました)で「柏原」と入力すると、72件がヒットします。ただし72件のうち5件は、中見出しや市町村合併関連の地名が当たったものなので、これらを除いた67件が本項目のヒット件数ということになります。67件の読みは「かしはら」「かしわら」「かいばら」「かしばら」「かせばら」「かしわはら」「かしわばら」「かしわばる」「かしょうばら」「かしわっぱら」の10種に及びます。
これら10種の読みと、集計表(キーワード集計表)機能を利用して導き出した《東北・北海道》《関東》《中部》《近畿》《四国・中国》《九州・沖縄》の6地域区分の数値を重ね合わせ、次のような表を作成しました。
東北・北海道 | 関東 | 中部 | 近畿 | 中国・四国 | 九州・沖縄 | |
かしはら | 0 | 0 | 2 | 6 | 1 | 3 |
かしわら | 0 | 0 | 0 | 5 | 0 | 0 |
かいばら | 0 | 0 | 0 | 5 | 0 | 0 |
かしばら | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 |
かせばら | 0 | 0 | 0 | 4 | 0 | 0 |
かしわはら | 0 | 1 | 2 | 1 | 0 | 0 |
かしわばら | 3 | 4 | 9 | 6 | 1 | 2 |
かしわばる | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 7 |
かしょうばら | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 |
かしわっぱら | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
(小計) | 4 | 5 | 13 | 28 | 4 | 13 |
先に推測したように、九州・沖縄地方では「カシワバル」が多く、また「カシワバル」という読み方は九州・沖縄地方以外ではみられないことなどが判明します。もう少し詳しい検討は次回に……。
(この稿続く)