「神戸」と記す地名を何と読みますか?
港・神戸が高名ですから「こうべ」と答える方が多いのではないでしょうか。ただし、「かんべ」と読む人もかなりの数になると思います。
普通名詞の「神戸」は一般的に「かんべ」とよみ、古代の「令制での神社の封戸(ふこ)。神社に属して租、庸、調や雑役を神社に納めた民戸」のことで(ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」)、「じんこ」とも読み「神部」とも記します(同上)。
神社の封戸「神戸」について、ジャパンナレッジ「ニッポニカ」は、もう少し詳しく次のように記します。
古代、神社に属し、その祭祀(さいし)や経済を支えた民。「じんこ」とも読む。『日本書紀』崇神(すじん)天皇7年条にその制定記事がみえる。律令(りつりょう)制下では、朝廷から特定の神社に寄せられた封戸(ふこ)の一種に規定され、神封(しんぷう)ともいう。神戸の出す調庸(ちょうよう)および田租(でんそ)は、神社の造営や神に供する調度の料にあてられた。また神戸は公役につかず、もっぱら神社の維持修理にあたり、神戸のなかから神社の祭祀に奉仕する祝部(はふりべ)も任命された。祝部の名帳や神戸の戸籍は特別につくられ、806年(大同1)牒(ちょう)では、神戸を有する神社は170社、神戸の総数は5884戸を数える。宇佐八幡宮(うさはちまんぐう)の1660戸、伊勢(いせ)大神宮の1130戸が多いが、1戸から数戸の神社が大半である。
古代の郡郷制(現在の市区町村にあたる)では、神社の封戸「神戸」を中心に成立した郷は「神戸郷」としてみえ、一般には「かんべごう」とよびます。ジャパンナレッジ「日本歴史地名大系」で「神戸郷」と入力して見出し検索(部分一致)をかけると57件がヒットしました。
57件のうち、兵庫県
ただし、宍粟市の【神戸庄(かんべのしょう)・神戸郷(かんべごう)】は、播磨国一宮の
55件の古代郷を地域別にみると、関東が1件、中部が12件、近畿が27件、中国が9件、四国が6件で、東北・北海道と九州・沖縄にはみえません。近畿が中心ですが、北東は安房国安房郡の神戸郷(千葉県)から南西は土佐国土佐郡の神戸郷(高知県)まで広範囲に分布しています。
鈴鹿市神戸(かんべ)地区は、伊勢太神宮の封戸であったことから地名が生じた。
「日本歴史地名大系」での【神戸郷】の読みは、港・神戸の母胎となった摂津国
港・神戸の母胎となった摂津国八部郡の神戸郷(こうべごう)について、「日本歴史地名大系」では次のように記述しています。
「和名抄」所載の郷。同書高山寺本・東急本とも訓を欠く。訓は「大日本地名辞書」による。現神戸市中央区の
生田神社の封戸に由来すると思われる郷名で、読みは吉田東伍の「大日本地名辞書」に従っています。遺称地は神戸(こうべ)ですから妥当な読み方といえますが、あるいは、古く「かんべごう」と称していたものが、のちに「こうべ」に転訛した可能性も考えられるのではないでしょうか。
港町「神戸」の地名は生田神社の神封に由来するとされる。
ともかく、神社の封戸に由来する「神戸」地名の読みの基本は「かんべ」と考えられます。
「日本歴史地名大系」の項目の中心は、現在の大字・町名につながる江戸時代の村名と町名です。そこで次に「神戸村」(江戸時代の村名)と「神戸町」(江戸時代の町名)のふたつをOR検索(見出し・部分一致)でつないで探してみました。
その結果、ヒット数は計28件で、うち地名は27件。「神戸村」が23件、「神戸町」が4件ヒットしました。神戸村の読みは「ごうど(「こうど」1件を含む)」が14件ともっとも多く、ついで「かんべ」が5件、「こうべ」(港・神戸の「神戸村」)、「じんご」(前出、津山市の【神戸郷(じんごごう)】の後身の「神戸村」)、「かど」(鳥取県
「神戸町」4件(うち1件は自治体名=岐阜県安八郡神戸町)の読みは、すべて「ごうど」でした。
先程、「神戸」の読みは「かんべ」が基本と記しましたが、江戸時代以降になると、基本が「ごうど」に変わるのでしょうか。そのあたりについては次回に。
(この稿続く)