ジャパンナレッジにログインしてはじめに表示される「基本検索」の画面。現在、検索ボックスには、その時期の二十四節気を表わす言葉があらかじめ入力されています。
「詳細(個別)検索」を選択しても同様で、「日本歴史地名大系」を選択した場合は、3つある検索ボックスの最上段に、該当する時期の節気を表わす言葉(このコラムの更新時ならば「雨水」)が入力されています。
しかし、「日本歴史地名大系」の見出し項目(初期設定は「見出し・部分一致」)で二十四節気を表わす言葉を含むものは意外と少なく、わずかに「
ところで、「小寒」でヒットした日田市の【小寒水村】の読みは「おそうずむら」(「おそずむら」とも)。「そうず」(寒水)は一般に泉や清水の意で、「日本歴史地名大系」の項目に記述はありませんが、「小寒水村」は小さな湧水を核として発達した村落かもしれません。
「そうず」は「寒水」のほかに、「早水」「浅水」「沢水」「清水」「草水」「左右水」「僧都」などの表記があり、また「そうづ」の振り仮名(意味は同じく泉・清水)では、「相津」「宗津」「惣津」「僧津」などの表記もあります。
今度は「そうずむら」「そうづむら」と2つの検索語を入力して、いずれも「見出し・部分一致」の条件で、「または(OR)」検索をかけますと22件がヒット。地方別では九州・沖縄地方が13件で、過半を占めます。旱害の多かった西南日本で、泉・清水が貴重であったことが反映しているのでしょうか。
この22件のなかには「くそうずむら(草水村)」と「くそうづむら(草生津村)」という、あまり聞きなれない村名も計2件含まれています。じつは、「くそうず」は石油の古称で「くさみず」が変化した語といい、一般には臭水・草生水などの字が充てられます(ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」)。
ヒットした「草水村」(新潟県/北蒲原郡/安田町=現阿賀野市)、「草生津村」(新潟県/長岡市)の項目に石油に関連する記述はありません。しかし、両村が属する新潟県は日本で数少ない産油県の一つですから、村名由来に石油が関連していた可能性は否定できません。
そこで、今度は検索範囲を「全文」とし、「くそうず」「くそうづ」の2語を1段目と2段目の検索ボックスに入れて「または(OR)」の条件で検索をかけると、43件がヒットします。この43件を検証しますと、県別では29 件で新潟県がトップ、次いで秋田県が10 件、産油県が上位を占めています。また、3分の1近い項目で石油に関連した記述がみられます。そのなかの1件、新潟県三条市の【
当村には「如法寺村の火井」として知られた天然ガス井戸があった。石油を
「此村に自然と
(中略)此火有るゆゑに、庄右衛門家はむかしより油火は不用、家内隅々までも昼のごとし。」
南谿の問いに対して庄右衛門は、正保二年(一六四五)同家でふいごを吹いた折、ふと地中より出て、以来絶えず、家の普請などの際も挽臼は動かさず大切にしていると語っている。藩主や幕府巡見使なども通行時に見物したことが記録にみえる。火井は近年まで煮炊きなどに利用されていた。
現在の新潟県三条市如法寺地区
>天然ガスのことを古くは「風臭水」といったのですね。ところで、「日本歴史地名大系」で引用されていた橘南谿の「東遊記」は、ジャパンナレッジの「東洋文庫」では「東西遊記」(248)の名称で搭載されています。南谿は如法寺村の風臭水の記述のあとに続けて、
「其所に
(中略)
此所より
南谿の「何でも見てやろう」の精神が伝わってきて、ついつい引き込まれてしまいます。それにしても、石油採掘権は昔から随分と高値で取引されていたようですね。「日本歴史地名大系」の【館村】の項目に「東遊記」からの引用はありませんが、「正安二年(一三〇〇)から汲上げていると伝えられる草生水油を産し、一年のうち六ヵ月は運上用、二ヵ月は願人分油坪小屋普請料、四ヵ月は百姓六分と決められていた」とあって、石油生産が住民の収入源となっていた様子がうかがえます。
また、「日本歴史地名大系」の北蒲原郡【黒川村】の項目には、「村名の由来については諸説あるが、古くから臭水(石油)の産地で、また奥山庄波月条絵図(中条町役場蔵)に当村域と推定される地に『久佐宇津条』とみえていることなどから、黒い水(石油)の流れる川によるともいわれる」と記されています。「久佐宇津条」とは「
こうしたことから、「日本書記」天智天皇7年(668)7月条に「又、
胎内川の流域に展開した旧北蒲原郡黒川村
ところで、現在、胎内市の旧「館村」地区に黒川石油公園があります。同公園は明治時代中期から昭和50年代まで稼動していた「黒川油田」を史跡として整備した公園。園内の「シンクルトン記念館」は、明治6年、当地に竪穴掘りの石油採掘法を導入したイギリス人医師シンクルトンを記念して建立された展示・資料館で、彼が伝えた近代的掘削法が黒川油田の基礎となったといいます。
例年7月1日、黒川石油公園では園内の
「小寒」から始まった「ジャパンナレッジサーフィン」の旅は、大津市近江神宮の「燃水祭」にたどりついたところで終わりました。皆さんもぜひ「ナレッジサーファー」になって、「知識の大海原」へと漕ぎ出してみてはいかがでしょう。
(この稿終わり)