前回は「全国の〈大塚〉地名の傾向性や古墳との関連性の濃淡について探ってみたいと思います」というところで話は終わりました。さっそく、JK版「日本歴史地名大系」の個別検索機能を活用して探ってみましょう。
まず、「日本歴史地名大系」にどれくらい〈大塚古墳〉が項目立てされているかを調べます。もちろん、独立した項目になっていない大塚古墳もたくさんあるでしょう。しかし、何しろ〈大塚〉とよばれるくらいですから、きっと首長墓クラスに違いないと推測、それ故に立項されている場合が多い、と考えました。そこで、検索範囲は〈見出し〉検索となります。〈古墳〉ですから、検索対象地域から北海道と沖縄県ははずします。また、前回述べたように東京都大田区の〈雪谷大塚〉は鵜ノ木大塚古墳に由来していますので、〈○○大塚古墳〉〈××大塚古墳〉といった〈大塚古墳〉も見逃さないように、条件は〈部分一致〉としました。
キーワードは〈大塚古墳〉、検索範囲は〈見出し〉、検索条件は〈部分一致〉、検索対象地域は(北海道と沖縄県を除く)全国に設定して検索を掛けてみますと、65件がヒット、〈分布図〉機能を用いて得られた〈大塚古墳〉の分布図は次のようになりました。
分布図を見る限り、東・西の比重は若干ですが西日本に厚いようにも思われます。そこで、便宜的に中部地方以東を東日本、近畿地方以西を西日本として再確認してみましょう。検索対象地域をいったん〈全解除〉し、東北、関東、中部にチェックを入れて(青森県から愛知県までの22都県が対象地域となります)検索しますと、31件がヒット。同様にして西日本(三重県から鹿児島県までの23府県が対象地域)を検索しますと、34件がヒットしました。
上に掲げたのは〈グラフで見る〉機能を活用した図。都府県別では8件の奈良県がトップ、次いで長野県(7件)、岡山県(6件)、熊本県・愛知県・静岡県(各4件)、兵庫県・岐阜県(各3件)と続き、栃木・大分・広島・京都・山梨・東京・埼玉の7都府県が2件で並んでいます。
西日本に若干厚いのでは? という筆者の見方は、トップが奈良県なので当たったともいえますが、差がなく長野県が続いていますから、公平にみれば東・西はほぼ均衡している、といえるでしょう。
次に〈大塚〉地名の分布をみてみます。「日本歴史地名大系」の立項の基本は江戸時代の村(村落)ですから、検索キーワードは〈大塚村〉となります。古墳の場合に合わせて検索対象地域から北海道と沖縄県をはずし、〈見出し〉〈部分一致〉の条件で検索をかけます。67件がヒットし、分布図は次のようになりました。
あきらかに東日本に厚くみえます。〈大塚古墳〉の場合と同様に、東・西に二分して比べてみましょう。その結果、東日本は40件、西日本が27件となり、東日本が優位であることがわかりました。
〈大塚古墳〉の分布が東・西で均衡しているのに対して、〈大塚〉地名(大塚村。ただし、必ずしも〈古墳〉に由来する地名とは限りませんが)は東日本に多い、という結論が得られたといっていいでしょう。この傾向性に対して筆者はある仮説を立ててみました。
それは、開発の早かった西日本では、古墳時代に古墳が営まれた場所はすでに開墾されていて、地名も存在していた……、一方、東日本では古墳の造営場所は未墾の地で、その周辺が開かれたのは古墳時代より後のことであり、そのために古墳に因む〈大塚〉地名(繰り返しますが、すべてが古墳由来というわけではありません)が数多く残された……という仮説です。
この仮説を立証するために、次のような検索を掛けてみました。まず、キーワードは〈大塚村〉で、範囲はもちろん〈見出し〉検索。さらにAND検索で〈古墳〉の〈全文〉検索を加えます。これは、「日本歴史地名大系」の各項目(今回は〈大塚村〉)の記述では、地内(村内)ある遺跡・寺社・施設等々に言及することが基本ですから、当然、古墳について触れているに違いない、との推測に基づきました。検索対象地域は北海道・沖縄県を除く全国であることは変わりません。入力画面は次のようになります。
筆者の予測では、(開発の遅かった)東日本、あるいは同様の条件下にある畿内周縁部に行けば行くほど、「〈大塚村〉(見出し)AND〈古墳〉(全文)」の分布が色濃くなる……はずです。あるいは、〈大塚古墳〉の場合と同様に東・西でほぼ均衡し、東西差があまり見られないことも想定されます。この場合は、東日本では古墳と関連性の薄い〈大塚〉地名が多い……言いかえれば、古墳以外の「塚」(土が盛り上がって小高くなった所。土を小高く盛り上げた所=JK版「日本国語大辞典」)に関連した地名が多い、という傾向性が想定できるかもしれません。
さて、結果はどうなったのでしょうか。これまでと同様に、〈分布図〉機能で得られた結果を次に掲げます。
ヒット総数は21件。この21件の〈大塚〉地名は、〈古墳〉に由来する地名である確率がかなり高いといえます。〈古墳〉の名称は、必ずしも〈大塚古墳〉とは限りませんが……。
ところが、分布傾向は筆者の予想とはかなり食い違ってしまいました。北部九州、畿内近国、関東甲信越に広く分布し、中国・四国、北陸・東海、東北は非常に薄いという傾向性がみられます。こうした分布傾向にどのよう命題が隠されているのか? 何か新しい知見を得ることができるのか?
とてもとても、筆者の手に負える問題ではない、という気がします。ただし、タイトルの「〈大塚〉地名は古墳に由来するか?」という設問に対してならば、「少なくとも3分の1くらいは古墳に由来する!」といえる、という結果は得られたのではないでしょうか。もちろん「〈大塚村〉(見出し)AND〈古墳〉(全文)」の検索結果21件のすべてが古墳由来の大塚地名というわけではないのですが、一方で、「〈大塚村〉(見出し)NOT〈古墳〉(全文)」の検索結果46件のうちにも古墳由来の大塚地名がありますから、双方を差し引きすれば、3分の1くらいには該当するでしょう。
少々腰砕けの結論となりましたが、皆さんも「日本歴史地名大系」〈個別検索〉のさまざまな機能を活用して、地名と歴史の新しい設問にチャレンジしてみたらいかがでしょうか。
(この稿終わり)