日本歴史地名大系ジャーナル 知識の泉へ
日本全国のおもしろ地名、話題の地名、ニュースに取り上げられた地名などをご紹介。
地名の由来、歴史、風土に至るまで、JK版「日本歴史地名大系」を駆使して解説します。
さらに、その地名の場所をGoogleマップを使って探索してみましょう。

第162回 初詣はどちらへ?

2020年01月10日

新年明けましておめでとうございます。

三が日に初詣に行かれた方も多いことと思います。……という書き出しで、以前にも年初の記事を書いたことがあります(第138回 「初詣、羽田穴守神社と柳島妙見」、2018年01月12日)。

その折には、現在のように、ちょっと遠出をして、高名な社寺にお参りする「初詣」は意外と新しい(近代以降の)風習であることを考察しました。

かくいう筆者も、ここ十数年は「ちょっと遠出をして、高名な社寺」(関東地方の諸国一宮や二宮、坂東三十三観音札所など)にお参りしてきましたが、今年は「村の鎮守」で済ませました。筆者の住まいは町奉行支配の「江戸」から数百メートルほど外れていて、関東郡代や関東取締出役の管轄下でしたから、「村の鎮守」となったわけです。

ところで、第138回の記事のなかで、2009年1月9日付の読売新聞(東京)夕刊から警視庁がまとめた同年正月三が日の初詣参拝者の多かった神社・仏閣のベストテンをあげ(下掲)、「9年前の統計ですが(2010年以降は警視庁による全国規模の発表はありません)、ベストテンの顔ぶれは今もあまり変動はないでしょう」と記しました。その顔ぶれは、

1位=明治神宮(東京都渋谷区)
2位=成田山新勝寺(千葉県成田市)
3位=川崎大師(川崎市川崎区平間寺)
4位=伏見稲荷大社(京都市伏見区)
5位=鶴岡つるがおか八幡宮(神奈川県鎌倉市)
6位=浅草せんそう寺(東京都台東区)
7位=住吉大社(大阪市住吉区)
7位=熱田神宮(名古屋市熱田区)
9位=大宮氷川神社(さいたま市大宮区)
10位=太宰府天満宮(福岡県太宰府市)

以上で、現在もあまり変化はないと思われます。人口規模が大きい首都圏が6か所、関西圏が2か所、中京圏と福岡都市圏が各1か所、という分布で、都府県別でみれば、東京都と神奈川県が各2か所、以下、埼玉・千葉・愛知・京都・大阪・福岡の府県が1か所ずつ、これも人口規模に見合ったものといえるでしょう。

ある意味でいえば、経済圏の広がりや交通網の拡充に合わせた「村の鎮守」の拡大版といえるかもしれません。

ところで、ベストテンを眺めてみますと、第1位の明治神宮を除くと、いずれも地名を冠した寺社名となっています。そこで、ジャパンナレッジ「日本歴史地名大系」で、その地名がどういった分布をしているか、調査してみようと思い立ちました。ただし、第10位の「太宰府」天満宮の「太宰府」は、地名といっても少し特殊ですから、これも調査対象からはずしました。

「日本歴史地名大系」の項目の基本は、現在の大字・町名につながる江戸時代の村(と町)ですから、調査は寺社の「固有地名+村」で見出し検索(部分一致)をかけることにしました(以下、ヒット件数は変更地名や文献解題のヒットもカウントしています)。

まずは第9位の「大宮」氷川神社は「大宮村」がキーワードとなります。その結果、「大宮村」は北海道・東北3、関東2、中部1、中国2、四国1で、近畿と九州・沖縄は0ヒットでした。「大宮」は(大きな神社を中心に集落が発達した)一般的な名称であり、「大宮村」は全国に分布すると思ったのですが、西日本には少ないことが判明しました。ただし、「大宮町」となると、京都市を中心に近畿地域に色濃く分布しています。

武蔵国一宮として知られる大宮氷川神社

7位で並ぶ住吉大社と熱田神宮は、それぞれ「住吉村」「熱田村」で検索します。その結果、「住吉村」は北海道・東北、関東各1、中部、近畿各5、中国、四国各1、九州・沖縄9と西日本に多く、東日本に少ない分布。「熱田村」は中部、中国、九州・沖縄各1で、その他の地域は0ヒットと、全般的に希少な地名であることがわかります。

「住吉」は「住吉神社」が勧請されたのちに、神社の周辺を「住吉」の呼称でよび、やがて地名として定着した場合も多いと思いますが、関東以北は非常に少ないことがわかります。「熱田」は「厚田村」の表記で検索すると、北海道・東北4、関東、中部各1がヒットしますが、他地域は0ヒット。やはり、全体に少ない地名のようです。

6位の「浅草村」は0ヒット。浅草寺の所在する「浅草あさくさ」は古い地名ですが、江戸時代には「浅草村」という村落としては把握されていませんでした。「浅草岳」など著名な山名などもあるのに、0ヒットとは驚きです。5位の「鶴岡村」も0ヒット。表記の揺れも考えられますから、「つるがおかむら」と「つるおかむら」という二つの読みでOR検索をかけてみましたが、これでもヒット数は2件のみ。いかにもありそうな地名なのですが……。

4位の「伏見村」は、北海道・東北2、中部3、近畿1で、他の地域は0ヒット。「伏見町」では関東、中部、中国が各1ヒット、近畿が3ヒット。「村」と「町」を合わせると近畿地方に多い地名といえますが、あまり一般的な地名とはいえないようです。

3位の「川崎村」は、北海道・東北11、関東22、中部6、近畿3、中国1、四国、九州・沖縄各4。2位の「成田村」は北海道・東北22、関東8、中部2、近畿以西は0ヒットでした。「川崎」「成田」で、ようやくヒット件数が増加しました。

しかし、「川崎」など、全国どこにでもありそうな地名と思うのですが、分布は東日本に偏っていました。「成田」も「成田空港」など、とても馴染み深い地名と思いがちですが、近畿以西では0ヒット、やはり偏った分布をしています。

全国2位の初詣客を集める成田山新勝寺。「成田」の地名は関西以西にはない

「成田」「川崎」「伏見」「鶴岡」「浅草」「住吉」「熱田」「大宮」、どの地名も、そこに所在する著名な寺社によって、耳慣れた地名と思いがちでしたが、ヒット数が多かった「成田」「川崎」を含め、「山田村」(ヒット数272件)、「本郷村」(同107件)、曽根村(同105件)などと比べてみると、意外にも「希少地名」であったことが判明しました。

(この稿終わり)