分水界とは「地上に降った雨が二つ以上の水系に分かれる境界」(JK版「日本国語大辞典」)のことをいいます。富士山、立山と並んで日本三霊山の一つに数えられる白山を例にとれば、その東側に降った雨は、まず
つまり、白山は庄川水系と手取川水系の分水界にあたります。白山の例でみたように、日本では山の尾根が分水界となることが多いので、分水界よりも分水嶺といったほうが一般的かもしれません。
北海道の知床半島の山並はオホーツク海に注ぐ水系と太平洋に注ぐ水系とを分ける、伊豆半島の山並は相模湾に注ぐ水系と駿河湾に注ぐ水系とを分ける、紀伊半島の山並は熊野灘に注ぐ水系と紀伊水道に注ぐ水系とを分ける、それぞれ分水界(分水嶺)といえます。こうした、数多ある分水界のなかで、日本海側に注ぐ水系と太平洋側(瀬戸内海を含める)に注ぐ水系とに大きく2分する分水界を大分水界(大分水嶺)、あるいは中央分水界とよびます。
大分水界は北海道から九州まで連なっていますが、「国道180本と鉄道61路線」が横断しているといいますから(堀公俊著「日本の分水嶺」2000年、山と渓谷社刊)、皆さんも知らず知らずのうちに、大分水界を通過していることでしょう。
もっとも、近年は土木技術が発達、田沢湖線(秋田新幹線)
ところで、この大分水界が観光スポットとなっている地域もあります。兵庫県
丹波市の水分れ公園は、本州でもっとも低い中央分水界を謳い文句にしている丹波市
郡上市の《分水嶺公園》は、大日ヶ岳(1708.9メートル)の東麓、ひるがの高原(標高約900メートル)にあります。大日ヶ岳東麓の水を水源とする公園内の水路は南北2流に分かれ、北への流れは
最上町の《堺田分水嶺》は、JR陸羽東線堺田駅前にあり(標高約340メートル)、駅の北側に広がる田地を南へと流れる用水路が駅前で東西2流に分かれます。東の流れは、
「堺田」については、JK版「日本歴史地名大系」に次のような記述があります(山形県>最上郡>最上町>「堺田村」の項目)。
近世は(出羽国)最上郡(新庄藩領)と陸奥国
近代以前に分水界をもって村境、郡境、藩境、国境とするケースはよくみられますが、堺田分水嶺は分水界が不分明で境界を見極めることが難しかったようで、少しだけ新庄藩に有利に(東方=陸奥国仙台藩領側に入り込んで)藩境が決められたようです。「関沢」は現在の大谷川最上流域の渓谷にあたると考えられます。なお、元禄2年(1689)「おくのほそ道」の旅に出た松尾芭蕉は、同年5月、この堺田分水嶺を越えており、前掲「堺田村」の項目は次のように記します。
東方の
「封人」とは「国境を守る役人。また、くにざかいに住む人」のこと(JK版「日本国語大辞典」)。有路家は堺田村の庄屋家で、最上小国街道の「問屋的性格も兼ね備えて」いました(前掲「堺田村」の項目)。
今まで紹介してきた分水界観光スポットは比較的平坦な地に設けられていて、一筋の水流が二手に分かれる場面を見ることができます。仮に二手に分かれる前の流れに笹舟を浮かべたとすれば、その先どちらに向かうのか(太平洋か日本海か)、笹舟が分流点を通過するまでは不明といえます。
「日本では山の尾根が分水界となることが多い」と先述しましたが、いわゆる大分水嶺をもって日本列島を日本海側と太平洋側に黒白2色で色分けした場合、先に掲げた分水界観光スポットはグレーゾーンとなります。ただし、グレーに塗られる地域は、向山の西南麓(氷上市)、大日ヶ岳の東麓(郡上市)、堺田駅前の田地(最上町)といった具合に、ごく限られた地域です。
次回は、もっと広い範囲に展開する「大分水界のグレーゾーン」を御紹介しましょう。
(この稿続く)