日本歴史地名大系ジャーナル 知識の泉へ
日本全国のおもしろ地名、話題の地名、ニュースに取り上げられた地名などをご紹介。
地名の由来、歴史、風土に至るまで、JK版「日本歴史地名大系」を駆使して解説します。
さらに、その地名の場所をGoogleマップを使って探索してみましょう。

第150回 標高2020メートルの山

2019年01月11日

新年明けましておめでとうございます。

さて、今回は少しばかり「地名」を離れて山の標高の話です。

昨年(2018年)の暮、久方ぶりに学生時代の友人たちに会い、彼らが2018年に登った山の話となりました。彼らが登った山の一つが雲取くもとり山。東京都と埼玉県の都県境に位置する奥多摩の名峰で、標高は2017.1メートル、東京都の最高峰として広く知られています。

彼らは山頂付近の山小屋に一泊したのですが、10畳前後の部屋に2組4人が割り当てられたそうです。

たまたま彼らと同室となった2人組の話によりますと、2人組は前年(2017年)も雲取山に登り、同じ部屋を割り当てられたのですが、その時は20名以上が同室になり、それこそ立錐の余地もない、といった混みっぷりだったそうです。

一昨年(2017年)は、その年号に掛けて、標高2017メートルの雲取山への登山客が普段に増して多かったのが原因、とのことでした。

そこで、今回は、今年(2019年)をすっ飛ばし、来年(2020年)のオリンピックイヤーに備えて、標高2020メートルの山探しをすることにしました。

国土地理院の「地理院地図(電子国土Web)」などを手掛かりとして標高2020メートル前後の山を探索すると、次の3山に絞り込まれました。

緑岳みどりだけ(松浦岳) 北海道上川町・大雪山系
 地理院地図標高 2020メートル

於呂倶羅山おろぐらやま 栃木県日光市・日光連山
 地理院地図標高 2020.6メートル

おい倉山くらやま 長野県高山村・草津白根山塊
 地理院地図標高 記載なし

はじめは緑岳について検討してみます。緑岳は大雪山系の主峰、旭岳の東南東約5.5キロにそびえています。地理院地図の基準点成果等閲覧サービスで確認すると、三等三角点を有し、基準点成果情報によると、三角点標高の詳細は2019.91メートル。Webで山行記録等を確認すると、山頂標識には(遠慮して)標高2019メートルと記されており、2020年に登る山としては不向きといえるでしょう。

次いで於呂倶羅山。奥日光のハイキングコースとして名高い「切込湖きりこみこ刈込湖かりこみこ」の切込湖(東側の湖)の北東方にそびえています。前掲の緑岳と同じく三等三角点を有し、三角点標高の詳細は2020.64メートル。同じくWebで確認すると、山頂標識には「2020.4m」と記してあります。冬季の登山は高度の技術を必要としますが(大雪山系の緑岳はもちろんですが)、地理院地図には一般登山道が記されておらず、かえって少雪期の登山のほうが楽かもしれません。

切込湖の北東にそびえる於呂倶羅山。ヤブ漕ぎ覚悟

ただし、地理院地図(電子国土Web)でも中縮尺ベースになると2021メートル(四捨五入)の標高表記となっていて、あるいは、山頂の標高表記が「2021」に変更された可能性も否定できません。

最後に老ノ倉山です。群馬県嬬恋村と高山村の境にそびえる御飯岳おめしだけの北北西約1.2キロにそびえています。三角点・水準点はなく、等高線標高ですが、標高は2020メートル。近くを走る県道からの比高も100メートルに満たないのですが、Webの山行記録等によるとヤブ漕ぎ続きで、一般向きとはいい難いようです。さらに、山頂に標高表記はなく、2020年に登山するとしても、標高を記した用具を持参しなければなりません。

県道に程近い老ノ倉山。ここもヤブ漕ぎが必須

ここまでみてきた標高2020メートルの山々のなかで、2020年に登る山として一番のお薦めは奥日光の「於呂倶羅山」ということになると思います。ただし、前述のように一般登山道は整備されていませんので、それなりの準備は必要です。

ところで、この探索を通じて気になるスポットがもう一つありました。それは「鬼怒沼きぬぬま」です。八丁はっちょうの湯、可仁かに湯、手白沢てしろさわ温泉、日光沢にっこうざわ温泉からなる奥鬼怒温泉郷のさらにその奥、標高2020メートル前後に点在する湖沼群です。

「鬼怒沼」についてジャパンナレッジの「日本大百科全書(ニッポニカ)」は次のように記します。

栃木県日光市(にっこうし)の北西部にある高層湿原。鬼怒沼山と物見山の間の平坦(へいたん)面上にあり、周囲1.3キロメートル、面積0.12平方キロメートル。この高層湿原には大小40余りの池塘(ちとう)が点在する。標高2000メートルより高所にあって尾瀬ヶ原(おぜがはら)より高い。湿原にはホロムイソウ、ワタスゲ、モウセンゴケ、チングルマなどがみられる。東武鉄道鬼怒川温泉駅からバスで女夫淵温泉(めおとぶちおんせん)まで行き、ここから徒歩で約4時間。

地理院地図(電子国土Web)で見ると、標高2020メートルと2030メートルの等高線の間にいくつもの湖沼が点在しており、湖面の標高が2020メートルの湖沼が一つくらいあってもいいのではないか、などと想像をたくましくしました。しかし、来年のことを言うと何とやらといいますので、この辺りで。

鬼怒沼の湖沼群。湖面標高2020メートルの湖沼はあるのか?

なお、最後におまけとして「鬼怒沼」を紹介しましたが、この鬼怒沼や尾瀬の存在を広く世間に知らしめた武田久吉(幕末・明治の英国外交官アーネスト・サトウの息子。日本山岳会創設者の一人)の名著「尾瀬と鬼怒沼」の初出誌(「太陽」第32巻第8号)は「JKBooks」で閲覧できます。

(この稿終わり)