日本歴史地名大系ジャーナル 知識の泉へ
日本全国のおもしろ地名、話題の地名、ニュースに取り上げられた地名などをご紹介。
地名の由来、歴史、風土に至るまで、JK版「日本歴史地名大系」を駆使して解説します。
さらに、その地名の場所をGoogleマップを使って探索してみましょう。

第45回 湊・津・泊・浦、……そして今津(1)

2010年11月26日

船の停泊地をあらわす日本語は、いわゆる「みなと」(港・湊などと表記)のほかにも幾つかあります。たとえば、津(つ)、泊(とまり)など。ちなみにJK版「日本国語大辞典」では「みなと」「つ」「とまり」について、次のように記述しています。

まず「みなと」(漢字表記は【港・湊・水門】)については、「みなと」の「な」は「の」の意で、「水の門」のこととあって、「河海の水の出入りする口。みと。瀬戸。川口」とみえます。さらに「海が陸に深くはいり込んだ所を利用したり、または人工の防波堤を築いたりして、船が安全に停泊し、旅客の乗降や貨物の積卸しなどができるように整えた所。その位置上から、海港・河港などに分かつ」と記しています。

「つ」(漢字表記は【津】)については「海岸・河口・川の渡し場などの、船舶の停泊するところ。船つき場。港」とあり、続けて「港をひかえて人の集まる土地。港町。また、一般に人の多く集まる地域をいう。古代には薩摩坊津(ぼうのつ)・筑前博多津・伊勢安濃津を三箇(さんが)の津と呼び、また、江戸時代には、特に京都・大坂・江戸を三箇の津と称した」とあります。

最後の「とまり」(漢字表記は【止・留・泊】)については、「船が停泊すること。また、そのところ。船着き場。港。津」とみえます。

また、船着場そのものを表す言葉ではないのですが、結果として船がよく出入りする場所を示す言葉に「うら」(浦)があります。JK版「日本国語大辞典」は「うら」について、
「うら」(漢字表記は【浦】)とは、「裏」と同語源で、「海、湖などの湾曲して、陸地に入り込んだ所。入り江。湾」をいい、また、「海岸。海辺。浜辺。水際」、さらに、「海辺の村里。漁村。浦里」のことをいうと記述しています。

ところで、「湊」「津」「泊」「浦」には何か相違があるのでしょうか? そこで、JK版「日本歴史地名大系」の「キーワード分布図」機能を活用して、「湊」「津」「泊」「浦」を含む地名の分布にどのような傾向性がみられるか、探ってみました。

漢字の湊、津、泊、浦を含む地名はそれこそ数多くあります。ただし、船の停泊地を表す場合は、○○湊、○○津、○○泊、○○浦などと、固有地名の後ろに付く場合がほとんどです。また「日本歴史地名大系」の立項項目の基本は、近世の村項目・町項目ですから、これらを勘案して、たとえば湊の場合は、「○○湊」「○○湊村」「○○湊町」の3つをそれぞれ「見出し・後方一致」の条件で「or」検索をかけてみました。検索結果一覧から分布図を表示させると、以下のようになりました。

「湊」のキーワード分布図

キーワード湊の分布図
*分布図をクリックすると、より大きな画像で見られます。

 

「湊」地名のヒット件数は255件。全国にみられますが、琵琶湖のある滋賀県、かつては伊勢湾に面していた岐阜県は別として、栃木県、群馬県、埼玉県、長野県、山梨県、奈良県といった、いわゆる「海なし県」、それに熊本県にはありません。本州の南北両端である青森県と鹿児島県に高密度の分布がみられます。

次に「津」地名の分布傾向をみてみましょう。

「津」のキーワード分布図

キーワード津の分布図
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「津」地名のヒット件数は757件。「湊」の約3倍です。秋田県を除く全国に分布していますが、「湊」の分布が多かった青森県が属する東北地方、同じく鹿児島県が属する九州南部では低い傾向がみられます。

次に「泊」地名の分布傾向をみてみましょう。

「泊」のキーワード分布図

キーワード泊の分布図
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「泊」地名のヒット件数は108 件。「湊」の半分以下です。北海道が29件ともっとも多いのですが、ほかに青森県、鹿児島県、沖縄県といった日本の南北両端部に多い傾向がみられます。ほぼ中央部に位置する新潟県も13件と北海道に次ぐ高い数値です。

最後は「浦」地名の分布傾向をみてみましょう。

「浦」のキーワード分布図

キーワード浦の分布図
*分布図をクリックすると、より大きな画像で見られます。

 

「浦」地名のヒット件数は1304件。他を大きく引き離して堂々の第1位です。都道府県別では長崎県が159件で第1位、以下、福井県88件、大分県77件、愛媛県82件、和歌山県70件と続きますが、東北日本に少なく、西南日本に向かうほど多くなる傾向が顕著です。

「湊」「津」「泊」「浦」の地域的な分布傾向から、どんなことが引き出せるのか、もう少し考察を続けてみましょう。

 

(この稿次回に続く)