日本歴史地名大系ジャーナル 知識の泉へ
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第99回 地域区分のいろいろ(1)

2015年06月26日

47都道府県を地域ごとにまとめて幾つかの地方に区分する……この場合、北海道地方、東北地方、関東地方、中部地方、近畿地方、中国地方、四国地方、九州・沖縄地方の8地方に区分するのが一般的です。ただし、北海道と東北をひとまとめにして北海道・東北地方、中国と四国をひとまとめにして中国・四国地方とすることもよくありますから、実際には6~8の地方に区分されている、といえるでしょうか。

ちなみに、ジャパンナレッジ「日本歴史地名大系」の地域区分は、北海道・東北をひとまとめにして、計7つの地域に区分けしています。

ところで、三重県は中部地方か、近畿地方か? が、よく話題になります(三重県にお住まいの方々はあしからず)。三重県の所属が問題となっている中部地方と近畿地方を除いた北海道、東北、関東、中国、四国、九州・沖縄の6地方では、その所属する都道府県(2府はすべて近畿地方ですが)についての異論はほとんどありません。

そこで、今回は、三重県は中部地方か、近畿地方か? の考察です。結論を先に述べますと、三重県は教科書的見解でいえば近畿地方に属します(実際、小・中学校の教科書では近畿地方に区分けされています)。しかし、この「教科書的見解」にも矛盾が隠されています。

教科書ではないのですが、ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」で【中部地方】の項目を引くと、

本州の中央部を占める地方。愛知・岐阜・静岡・山梨・長野・新潟・富山・石川・福井の九県から成る。雄大な山岳地域を含み、気候および人文現象から日本海側の北陸地方、山岳地域の中央高地、太平洋側の東海地方に分けられる。中部。

とあります。一方【近畿地方】の項目には、

本州中央部、京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山・滋賀・三重の二府五県から成る地方。大和朝廷成立以来、日本における政治・文化の中心となる。大阪、京都、神戸などの大都市、阪神工業地帯などの臨海工業地帯が発達。北部に琵琶湖、南部に紀伊半島がある。近畿。

とあります。三重県は近畿地方に所属し、何の矛盾も存在しません。ところが、【中部地方】項目の「日本海側の北陸地方、山岳地域の中央高地、太平洋側の東海地方に分けられる」という文言に着目すると、様相は少し変わってきます。

はじめに【北陸地方】の記述をみますと、

中部地方のうちの北陸道の地域で、福井・石川・富山・新潟の四県をいう。狭義には、新潟県を除く三県をいう。日本海に面する多雪地帯。北陸。

とあります。次いで【中央高地】の項目をみますと、語釈の2番目に「山梨・長野・岐阜県の山岳地方をさす」とあり、さらに、【東海地方】の項目では、

本州中央部の太平洋側の地方。一般に静岡・愛知・三重の三県と岐阜県南部を含む。北陸地方・中央高地(東山地方)に対応する地方名として用いられる。

ここで、少し補足しますと、【中央高地】の項目にみえる「岐阜県の山岳地方」というのは、岐阜県北部、旧飛騨国地域を指しています。また【東海地方】の項目が記す「岐阜県南部」とは、旧美濃国地域のことで、旧飛騨国+旧美濃国で現在の岐阜県全域(旧信濃国地域も一部存在しますが、今回は無視します)に相当します。

岐阜県の北部、旧飛騨国は中央高地に、南部、旧美濃国は東海地方に分けられる

ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」の【中部地方】と【近畿地方】の項目間には矛盾はないのですが、中部地方を「北陸」+「中央高地」+「東海」と捉えると、中部地方は、新潟・富山・石川・福井(北陸)+山梨・長野と岐阜の北部(中央高地)+静岡・愛知・三重と岐阜の南部(東海)となり、三重県は紛れもなく中部地方に所属することになります。

そこで今度は、近畿地方の「近畿」について考察してみます。ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」の【近畿】は、まず「都に近い国々。日本では、京都付近の国々」と記述し、【畿内】への送り項目となっています。そこで、【畿内】の項目をみますと、「昔中国で、王都を中心として四方五〇〇里の天子直属の地のこと。王城付近の地」を第一義にあげ、次いで以下のように記します。

日本で、朝廷のあった主都周辺の四ないし五か国の総称、また、その範囲内に属する地。五か国の場合は、山城(京都府)、大和(奈良県)、河内(大阪府)、和泉(大阪府)、摂津(大阪府と兵庫県の一部)をいう。うちつくに。五畿内(ごきない)。

とみえます。「四ないし五か国」というのは、和泉国が河内国から正式に分離して一カ国となったのが天平宝字元年(757)ですから、それまでが「四カ国」、以降が「五畿内」ということになるのだと思います。

しかし、五畿内=近畿としますと、奈良・京都・大阪と兵庫の一部が近畿地方となって、三重県だけではなく、今度は滋賀県や和歌山県も「近畿地方」の蚊帳の外になってしまいます。そのあたりの考察は次回に。

(この稿続く)