日本歴史地名大系ジャーナル 知識の泉へ
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第149回 「神戸」の読み方(2)

2018年12月07日

先回は、古代に神社の封戸を中心に成立した郷=「神戸郷」の読みについて検討しました。そのなかで、現在の港・神戸に継承される摂津国八部郡の「神戸郷」の読みは「こうべ」であること、それ以外の「神戸郷」の読みは、すべて「かんべ」であることが判明しました。

また、江戸時代の「神戸村」「神戸町」では「ごうど」と読むケースがもっとも多い(約半数)こともわかりました。鏡味完二・鏡味明克の『地名の語源』(1977年、角川小辞典13)では「ゴード・ゴート」の地名は(1)渓谷、(2)川の渡し場、(3)神社所属の住民(カンベ)が語源とし、その分布地域は紀伊から北関東としています。

そこで、「ごうど」の読みに着目、ジャパンナレッジ「日本歴史地名大系」で「ごうどむら」(見出し・部分一致)で検索すると30件がヒット。地域別でみると北海道・東北が8件(ただし、すべて福島県)、関東が9件、中部が12件、近畿が1件(滋賀県)で、四国、中国、九州・沖縄にはみられませんでした。

中部地方を中心に、北は東北地方南部(福島県)、西は近畿地方(滋賀県)まで分布していますが、中国、四国以西、北東北には分布しておらず、近畿地方も限られた分布となっていることがわかります。

なお、漢字表記では「神戸村」が13件でもっとも多く、以下、「河内村」が4件、「合戸村」と「顔戸村」が各3件、「郷渡村」が2件で、「強戸村」「河渡村」「神門村」「越戸村」「郷戸村」が各1件ずつとなっています。

ここで、悉皆ではありませんが、「ごうどむら」の立地状況をみてみましょう。

まず、『地名の語源』が指摘する(1)渓谷ですが、「渓谷」が河川上流部のV字谷のような渓谷をいうのであれば、そういった地形はみられませんでした。多くみられたのは丘陵地と平地が接するような地形で、「日本歴史地名大系」の埼玉県東松山市【神戸村】の項目には次のような記述がみえます。

都幾とき川を挟み上唐子かみがらこ村・下唐子村の南にあり、村域は都幾川右岸の低地から岩殿いわどの丘陵上に展開する。村の南から西にかけては丘陵、北から東にかけては都幾川が囲み、地名はこういった地形を表すゴウド(川渡・川戸・郷戸などと記す)に由来すると考えられる。

都幾川と岩殿丘陵との間に平地が開ける東松山市神戸地区。

確かに「ごうどむら」の立地は、川と丘陵地の間に狭小な平地が開けている、といった地形が多いようです。

ただし、岐阜県岐阜市の「ごうどむら」(【河渡村】)のように、中山道の長良川渡河点に位置していて、『地名の語源』がいう(2)川の渡し場、にあたる「ごうどむら」もみられました。神奈川県伊勢原市の「ごうどむら」(【神戸村】)も矢倉沢やぐらさわ往還のすず川(金目かなめ川水系)渡河点に位置し、(2)の川の渡し場にあたるような地形状況ですが、「日本歴史地名大系」では、「新編相模国風土記稿」の記述を引いて「比々多ひびた神社の神戸であったことに由来」との一説を載せています。

長良川の渡河点に位置する岐阜市河渡地区。現在は河渡橋が架かる。

伊勢原市の神戸地区は渡河点由来か、神社の封戸由来か。

『地名の語源』がいう(3)神社所属の住民(カンベ)が語源、については(初回に述べたように「神社の封戸」の本来の読みは「かんべ」ですが)、「日本歴史地名大系」では前掲伊勢原市の【神戸村】のほかにも、群馬県榛名町(現高崎市)の「ごうどむら」(【神戸村】)の記述に「古くは榛名山榛名神社神領で、祝部居住の神戸であったことから地名が生じたと推定される」とみえます。

ただし、榛名町【神戸村】の地形の状況は、河川と丘陵地に挟まれて狭小な平地が開ける、といった一般的な「ごうど」地形にも合致していました。

高崎市神戸地区は封戸由来か、河川と丘陵に挟まれた地か。

ここまでジャパンナレッジ「日本歴史地名大系」を手掛かりにしながら「神戸」の読みを検討してきました。現在の大字・町名に継承される江戸時代の「神戸村」「神戸町」の読みについて、初回に次のように述べました。

(「神戸村」と「神戸町」の)ヒット数は計28件で、うち地名は27件。「神戸村」が23件、「神戸町」が4件ヒットしました。神戸村の読みは「ごうど(「こうど」1件を含む)」が14件ともっとも多く、ついで「かんべ」が5件、「こうべ」(港・神戸の「神戸村」)、「じんご」(前出、津山市の【神戸郷(じんごごう)】の後身の「神戸村」)、「かど」(鳥取県日南にちなん町の「神戸村」)が各1件で、残る1件は岐阜県根尾ねお村(現本巣もとす市)の「天神戸(てんじんどう)村」がヒットしたものでした。
「神戸町」4件(うち1件は自治体名=岐阜県安八郡神戸町)の読みは、すべて「ごうど」でした。

ここまでの検討は、この初回の記述を追認する結果となりました。

「神戸」の読みでもっとも多いのは「ごうど」で、「河川と丘陵地に挟まれて狭小な平地が開ける地形」に名付けられることが多いことが判明しました。また、河川の渡河点にも「ごうど」地名が存在することもわかりました。

古代の「神社の封戸」に由来するに「かんべ」は2番目に多い読みですが、このケースでも「ごうど」と読む可能性があることもわかりました。一方で、「こうべ」の読みは「神社の封戸」に由来しますが、「かど」(鳥取県日南町)や「じんご」(岡山県津山市)などと並んで、きわめて特殊な読み方であることも確認できました。

さて、最後になりましたが、いちばん初めと同じ質問をいたします。
「神戸」と記す地名を何と読みますか?

(この稿終わり)