前回は『JK版「日本歴史地名大系」の個別検索機能を活用して「中津」地名、「中津川」地名の特色などを探ってみることにします』……というところで話は終わりました。
そこで、さっそく検索に取り掛かります。「日本歴史地名大系」の個別検索で「中津」と入力し、見出し・部分一致の条件で検索をかけると、109件がヒットします。ただし、この109件のなかには「中津川」のキーワードも含まれています。これを取り除くため、先ほどの検索方法に加え「次を含まない(NOT)」に「中津川」を入力し、見出し・部分一致で検索をかけます。この条件では75件がヒット、その検索結果一覧画面と、キーワード分布図機能を利用して得られた都道府県別分布図を下に掲げました。
キーワード分布図を見ますと、中津市が属している大分県が突出、中津市に関連する項目が多く含まれていることも理由の一つと考えられます。また、東日本より西日本に多い傾向も読み取れます。ただし、検索結果一覧のスニペット表示などで75件の内訳を検討しますと、中津原(12件)、中津屋・中津山(各4件)、中津野・中津留(各3件)など、必ずしも「中津」地名とは言い切れない地名も含まれていました。
そこで、できるだけ純粋な「中津」地名を抽出することにします。「日本歴史地名大系」は近世の村(現在の大字地名の母胎となりました)が項目の中心ですから、入力キーワードは「中津村」とします。上・中・下の中津村や東・西・南・北の中津村も見逃さないように、検索条件は「後方一致」として見出し検索をかけると、7件がヒットします。このうち2件は自治体名や変更地名ですので、実際の中津地名は5件、上・中・下や東・西・南・北の中津村はありませんでした。この5件の立地状況などを一覧にして下に掲げます。
項目名 | 現在の地名 (大字・町名) | 地内を流れる川 (《 》内は所属水系) | 川の上・中・下流など | 立地状況 |
中津村 | 京都府宮津市中津・銀丘 | ― | ― | 海岸 |
中津村 | 兵庫県加古川市加古川町中津 | 加古川《加古川》 | 下流部 | 平地 |
中津村 | 鳥取県三朝町中津 | 小鹿川《天神川》 | 最上流部 | 山地 |
中津村 | 島根県安来市中津町 | 飯梨川《飯梨川》 | 下流部 | 平地 |
中津村 | 山口県岩国市中津町1-3丁目、 三角町1-3丁目ほか | 錦川・門前川・ 今津川《錦川》 | 河口部 | 平地・海浜 |
一覧を検討しますと、
「津」は「海岸・河口・川の渡し場などの、船舶の停泊するところ。船つき場。港」、「港をひかえて人の集まる土地。港町。また、一般に人の多く集まる地域をいう」といいますから(JK版「日本国語大辞典」より)、河口部・海岸部に立地していることは、言葉の意にも合致します。中津は、やはり津=港に関連する地名といえるのでしょうか。
ここで、ちょっと寄り道をします。大分県中津市を除くと、もっとも一般的に知られている「中津」といえば、淀川の下流左岸に位置し、大阪市の顔ともいえる「梅田駅」の次の駅「中津駅」(阪急神戸本線・宝塚本線)が所在する大阪市北区中津(1-7丁目)ではないでしょうか(大阪市営地下鉄御堂筋線の中津駅もあります)。
明治22年の町村制施行によって、それまでの
これまでの結果をまとめてみますと、「中津」地名は河口部・海岸部に多くみられ、津=港に関連した地名と考えるのが、もっとも妥当かと思われます。さらに、「中津」地名の近くを流れている「中津川」は、河口部のデルタ地形を形成する河川の呼称である場合が多い、ということもいえるのではないでしょうか。
次回は「中津川」地名の検討に移ります。
(この稿続く)