「オトメ(乙女)」や「ウバ(姥、祖母、乳母)」のつく地名は広く全国に分布しています。これらの地名にはたいてい美しい娘や、老婆、乳母にまつわる地名伝説が残っています。とくにオトメと聞くとなにやらロマンチックな想像をしがちですが、実は「乙女」のつく地名はそんなロマンチックなものではありません。それらは、かつては領主の御用地で、一般の立ち入りが禁止された場所、いわゆる「御留場(オトメバ)」であった可能性が高い場所なのです。静岡・神奈川県境にある乙女峠は「御留峠」とも記し、相模小田原藩が番所を設けて、農民らの通行を禁止していました。
一方、「ウバ」のつく地名は、崖地や岩地に多いといわれています。なかには「姥懐(ウバフトコロ)」「姥ヶ懐(ウバガフトコロ)」という、暖かく居心地がよさそうな地名もあります。この地名も全国に点在し、日当たりがよく、風の当たらない山ふところの地名に多いようです。愛知県瀬戸市の祖母懐(ソボカイ)は、もとはウバガフトコロといいましたが、のちに音読されるようになりました。この地の良質な陶土でつくった茶入れは「ソボカイ」とよばれて珍重されました。