難読地名~鳥獣編の3回目は鳥。今回は鶯・鶴・鴨・鷲などトリヘンの字ではなく、そのものズバリ、鳥の字のつく地名です(トリヘンの字を含む難読地名は次回を予定)。鳥の字がつく難読地名といえば、真っ先に飛鳥(アスカ)が思い浮かびますが、あまりにも知られていますので、今回の問題からは省きます。では、まず入門編から始めます。
「鳥羽」(トバ)はよくある地名で、「トバ」は谷の入口(とばくち)、あるいは川の渡し場(渡場=どば)、貯木場、流木を陸揚げするところ(土場=どば)などの転とされ、また鳥羽と記す「トバ」の語源説について、「日本国語大辞典」(第二版、小学館)は曲亭馬琴の『玄同放言』を引いて「トマリ(泊)、ミナト場、ヤトバ(野渡場)の義か」と紹介しています。三重県の鳥羽市や京都市の鳥羽(鳥羽・伏見の戦いの舞台となりました)などは広く知られています。ちなみにJK版日本歴史地名大系の検索機能を利用すると、「鳥羽」の字は見出し検索(部分一致)で47件、全文検索では2,040件ヒットします。では、「鳥羽」の字が含まれる次の地名は何と読むでしょうか? もちろん「鳥羽」は「トバ」とは読みません。
茨城町(イバラキマチ)の南部、鉾田(ホコタ)市との境に位置し、涸沼(ヒヌマ)に注ぐ寛政川(カンセイガワ)の支流、逆川(サカサガワ)が地内を流れています。
前橋市(マエバシシ)の西部、高崎市(タカサキシ)との境に位置します。南方には関越自動車道の前橋インターチェンジが置かれ、地内に群馬工業高等専門学校やトステム前橋工場があります。
香取市(カトリシ)のうち、旧佐原(サワラ)市地区の南部、下総(シモウサ)台地北部の丘陵地に位置します。地区の東端部を佐原街道(国道51号)が走っています。
次は初級編です。いずれの地名も後ろにつく「鳥」の字の読みはトリ、あるいはドリですが、その前の字の読み方が難しい。
読みは「ニトリ」ではありません。岩手県の北部、青森県境に位置する二戸市(ニノヘシ)にあり、馬淵川(マベチガワ)の支流、安比川(アッピガワ)の流域を占めます。幕末~明治初頭頃は漆陟氈E藍・煙草などが特産でした(新撰陸奥国誌)。
読みは「アリトリ」ではありません。揖斐川町(イビガワチョウ)の南部に位置します。古くは岐阜県揖斐郡谷汲村(タニグミムラ)有鳥でしたが、平成17年(2005)1月に揖斐川町と谷汲村など周辺の諸村が合併して新しい揖斐川町が誕生したため、今は揖斐川町「谷汲有鳥」といいます。
読みは「ミズドリ」ではありません。本巣市(モトスシ)の北部にあります。淡墨桜(ウスズミザクラ)で有名な根尾(ネオ)谷の一角を占め、地内には樽見(タルミ)鉄道樽見線の水鳥駅があります。
次は中級編です。
近江国(オウミノクニ=現在の滋賀県)の歌枕です。『万葉集』巻4には「淡海路(オウミジ)の鳥籠の山なる不知哉川(イサヤガワ)日(ケ)のころごろは恋ひつつもあらむ」、同じく巻11には「犬上(イヌカミ)の鳥籠の山にある不知也川(イサヤガワ)不知(イサ)とを聞こせわが名告(ノ)らすな」の歌が載り、鳥籠山は不知哉川(不知也川)と併せて詠まれました。不知哉川は滋賀県彦根市(ヒコネシ=かつての近江国犬上郡が中心)を貫流する芹川(セリカワ)にあたるとされ(芹川の北方を流れる小河川とする説もあります)、鳥籠山は芹川が流れる、彦根市大堀町(オボリチョウ)にある大堀山にあてる説が有力です。大堀山に鳥籠山(チョウロウザン)の小字が残ることが、その根拠の一つですが、隣接する同市正法寺町(ショウボウジチョウ)にあった小丘陵(正法寺山。現在は削平され、ほとんど原形を留めていません)にも鳥籠山(チョウロウザン)の小字が残り、この正法寺山を「鳥籠山」にあてる説もあります。ただし、歌枕としての「鳥籠山」の読みは「チョウロウザン」ではありません。なお『日本書紀』には、壬申の乱に際して大海人皇子軍の村国連男依らが、近江方の将秦友足を「鳥籠山」で討ったとの記述があり(天武天皇元年7月9日条)、鳥籠山は同乱の戦場ともなりました。
次は上級編で、いずれも「小鳥」を含む地名です。「小鳥」を「コトリ」と読む地名は全国に数多くありますが、問題とした3つの地名はいずれも「コトリ」とは読みません。
高山市街の西方、旧大野郡(オオノグン)清見村(キヨミムラ)地区の山間、飛騨高原(ヒダコウゲン)を縫うように流れる「小鳥川」(宮川の支流)の流域に位置します。北方、小鳥川の下流にあたる飛騨市の旧吉城郡(ヨシキグン)河合村(カワイムラ)地区には小鳥川を堰き止めて誕生した「下小鳥湖」があります。一帯を古くは「小鳥郷」とよんでいました。
岩手県の北部、二戸郡(ニノヘグン)一戸町(イチノヘマチ)にあります。馬淵川(マベチガワ)と支流の平糠川(ヒラヌカガワ)の合流点を占め、地内にはIGRいわて銀河鉄道の「小鳥谷駅」があります。古くは「小治谷」と記し、「コチヤ」(新撰陸奥国誌)、「コヂヤ」(享和3年仮名付帳)ともいいました。
庄原市(ショウバラシ)の北部、鳥取県境に位置します。西城川(サイジョウガワ)の支流、小鳥原川流域の高原地帯を占めます。かつては比婆郡(ヒバグン)西城町(サイジョウチョウ)に属していましたが、平成17年(2005)に同町など比婆郡の5町と庄原市、甲奴郡(コウヌグン)総領町(ソウリョウチョウ)が合併して新しい庄原市が誕生。現在は庄原市「西城町小鳥原」といいます。