日本歴史地名大系ジャーナル 知識の泉へ
日本全国のおもしろ地名、話題の地名、ニュースに取り上げられた地名などをご紹介。
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第50回 花の名所は桜川(1)

2011年04月08日

桜前線が未曾有の災害に見舞われた日本列島を駆け上りはじめました。自然は天災・人災お構いなしに、季節のページを先へ先へと捲ってゆくようです。でも、きっと満開の桜が、記憶の奥底に仕舞い込まれている、ありふれた日々の営みを思い起こす縁になるであろうことを信じてやみません。

そこで、今回の歴史地名ジャーナルは「桜」にまつわるアラカルト。まずは全国の花の名所を桜前線の足並みに合わせ、南から北へと思いつくままに挙げてみました。はじめは九州から鹿児島の磯山公園、ついで熊本は熊本城。四国へ移れば香川は観音寺の琴弾ことひき公園、中国では岩国の錦帯橋、島根斐伊ひい川沿いの桜トンネル。近畿は大阪造幣局の通り抜け、京都といえば円山公園に醍醐寺、奈良はもちろん吉野山ですが、長谷寺も捨てがたいという人も多いでしょう。名古屋なら山崎やまざき川の川堤、北陸は金沢兼六園、長野では高遠たかとお城址、新潟は復興で知られる新発田しばた加治かじ川堤の桜並木。
東京ならば千鳥ヶ淵に上野公園、それに飛鳥山あたりが定番でしょうか。関東では埼玉熊谷の桜堤、群馬は赤城南面千本桜、茨城は水戸千波せんば湖畔などもはずすわけにはいきません。東北に足を踏み入れれば、福島の花見山公園、秋田なら仙北市の角館かくのだて城下、青森は弘前公園桜まつり。津軽海峡を越えると松前町の松前公園、それに新ひだか町は静内しずない二十間道路の桜並木……etc。

あそこが挙がっていない、ここが抜けていると思われる方も多いことでしょうが、筆者の思いつくままですので、ご容赦ください。実際にはこの数百倍、数千倍の桜の名所があり、皆さんそれぞれに、ご自身の「花名所目録」をお持ちのことと思います。

ちなみに、朝日新聞アスパラクラブ会員へのアンケート調査(「日本さくら協会」選定の「日本さくら名所100選」を基本とした選択肢からの選択)による桜の名所ランキング(ベスト20)は以下のとおりでした。

 
順 位名 称所在地得票数
1位弘前公園青森県弘前市2677票
2位吉野山奈良県吉野町2642票
3位造幣局大阪市北区1886票
4位嵐 山京都市右京区1794票
5位醍醐寺京都市伏見区1508票
6位姫路城兵庫県姫路市1333票
7位仁和寺京都市右京区1309票
8位高遠城祉公園長野県伊那市1224票
9位千鳥ヶ淵東京都千代田区1097票
10位錦帯橋・吉香公園山口県岩国市888票
11位熊本城熊本県熊本市872票
12位新宿御苑東京都新宿区864票
13位上野公園東京都台東区760票
14位日光街道桜並木栃木県宇都宮市740票
15位鶴ヶ城公園福島県会津若松市725票
16位桧木内川堤・武家屋敷秋田県仙北市699票
17位小諸城祉・懐古園長野県小諸市617票
18位根尾谷・淡墨公園岐阜県本巣市583票
19位大阪城公園大阪市中央区554票
20位紀三井寺和歌山県和歌山市543票
(2010年3月27日付 朝日新聞土曜「be」に掲載)

 

ところで、現在、市町村名に「桜」の字が入るところが幾つあるかご存知ですか? 正解は3つ。鳥取県若桜わかさ町、奈良県桜井さくらい市、茨城県桜川さくらがわ市です。ただし、平成の大合併以前には鹿児島県に桜島さくらじま町(平成16年、鹿児島市に編入)、島根県に桜江さくらえ町(平成16年、江津市に編入)、茨城県に桜川村(平成17年に周辺の町村と合併して稲敷市に)などもありました。
現在「桜」の字が付く3自治体のうち、茨城県桜川市は、平成17年(2005)10月に西茨城郡岩瀬いわせ町と、真壁まかべ郡真壁町・大和やまと村の3町村が、合併・市制施行して誕生しました。つまり、茨城県では平成16年に桜川村が消滅し、その翌年に桜川市が誕生したことになります。

茨城県は「桜川=さくらがわ」だらけ? そのとおり!! じつは、「桜川」の名称をもつ河川が、主なものだけでも4つ県内を流れています。北から順にあげてみましょう。

まずはじめは日立市を流れる桜川。多賀たが山地の東面を水源として、同市のほぼ中央部を東へと流れ、太平洋に注ぎます。流域には「日立市桜川町」があり、河口近くには2005年に廃止となりましたが、日立電鉄の「桜川駅」もありました。
次は、笠間市北東部の池野辺いけのべ地区を水源として水戸市に入り、同市域を横断するように流れる桜川。水戸市内では前出の花の名所、千波湖の北岸を縫うように流れたあと、水戸駅のすぐ南側を通り抜けて那珂川に合流します。流域には「水戸市桜川」「水戸市東桜川」などの町名があり、「桜川団地」や「桜川西団地」など、団地の名称にもなっています。
もう一つは笠間市の南部、難台なんだい山の北面を水源として北東に向かい、同市の東部で涸沼ひぬま川に合流する桜川。なお、涸沼川は釣り好きの人々にはその豊富な魚種で知られる涸沼に注いでいます。
最後に挙げるのは、桜川市の北東部、岩瀬地区の鍬柄くわがら峠西麓に位置する鏡ヶ池を水源とする桜川。はじめ南西方に流れ、やがて筑西ちくせい市境を南に向かい、つくば市域に入ると南東流に転じ、土浦市に入ってのち同市中心街の南部をかすめて霞ヶ浦に注ぎます。
さらに、もう一つおまけ。霞ヶ浦の南岸に注ぐ野田奈のだな川の別称も桜川で、平成16年に消滅した桜川村は、この野田奈川の流域を村の版図はんととしていました。

先述のように、その翌年に誕生した桜川市は鏡ヶ池を水源として霞ヶ浦に注ぐ桜川の上流部を市域としています。では、この桜川市には、市名にふさわしいような「花の名所」や「桜にまつわる旧跡」があるのでしょうか? その辺りは、次回に。

 

(この稿続く)

茨城県桜川市は霞ヶ浦に注ぐ「桜川」の上流部を市域としている

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